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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題34 取締役の競業避止義務

目次

【答案構成】

第1 問題の所在について

1 請求の特定(X社代表取締役Zによる元代表取締役Yに対する任務懈怠に基づく損害賠償請求)

2 規範(要件:(ⅰ)「役員等」(423条1項)、(ⅱ) 会社に対する任務懈怠、(ⅲ)損害、(ⅳ) (ⅱ)と(ⅲ)との間の因果関係、(ⅴ)(ⅰ)についての帰責事由の不存在(故意・過失)(428条1項反対解釈))

3 争点(①から③までの行為が、(ⅱ)任務懈怠に当たるか。)

第2 Yの①の行為(A社の事業展開)について

 1(1) 問題提起1(①の行為は、競業避止義務(356条1項1号)に違反し、任務懈怠に当たるか。「会社の事業の部類に属する取引」の意義が問題となる。)

  (2) 規範定立(「会社の事業の部類に属する取引」の意義)

  (3) 当てはめ(X社:スナック菓子⇔A社:揚げ物米菓。→両者は消費者にとって代替可能な商品であり、その目的物は競合。
 X社:関西地方⇔A社:東海地方→X社は東海地方への進出を目指し具体的な市場調査を行っていた。→A社の事業はX社の事業計画上、市場競合あり。
 →A社の事業はX社の競業取引に当たる。)

 2(1) 問題提起2(本件競業取引を「取締役が」行ったといえるか。取引主体=A社→X社取締役Yが直接の当事者ではないため問題)

  (2) 規範定立(行為主体の認定基準)

  (3) 当てはめ(YはA社全株式を保有+代表取締役に妻Zを就任させている=A社を事実上主宰。→YによるA社の支配関係に鑑みれば、A社の行為であっても、実質的にYの行為と同視すべき。→「取締役が」競業取引を行ったといえる。

 3(1) 問題提起3(Yが「自己又は第三者のために」競業取引を行ったといえるか。356条1項1号の「ために」の解釈が問題となる。)

  (2) 規範定立(「ために」の意義(計算説))

  (3) 当てはめ(Yは全A社発行済株式を保有=事実上A社を主宰。→A社の損益は実質的にすべてYに帰属する。→Yは「自己のために」競業取引を行ったといえる。)

 4(1) 423条の要件への当てはめ1(①行為=競業取引→必要なX社の取締役会の承認(365条1項)を得ていない。→Yの①行為は競業避止義務違反=(ⅱ)任務懈怠に当たる。)

  (2) 423条の要件への当てはめ2(Yは代表取締役として競業避止義務を認識しつつ、承認を得ずにA社を主宰→当該任務懈怠について故意あり=(ⅴ)帰責事由)

  (3) 423条の要件への当てはめ3(競業取引については、取締役が得た利益の額が会社の損害額と推定される(423条2項)。→A社は設立当初から営業利益を出せていない。→A社は赤字経営にもかかわらず、Zに対し、年間5000万円もの報酬を支払っている。→Y=A社100%株主+YとZが夫婦で経済的に一体→報酬は実質的にYに帰属する利益が、役員報酬という名目で支払われたもの。
 →社会通念上相当な役員報酬額を超える部分については、Yが当該競業取引によって得た利益→423条2項によりX社の損害額と推定される。
 Yによる競業取引という任務懈怠行為がなければ、A社において利益が生じることはなく、Yがこれを実質的に得ることもなかった→Yの任務懈怠行為とX社の損害との間の(ⅳ)因果関係肯定)

5 小結論

第3 Yの②行為(従業員の引抜き)について

1 問題提起(②行為が善管注意義務(330条、民法644条)および忠実義務(355条)違反とならないか)

2 規範定立(従業員の引き抜き行為と忠実義務違反)

3 当てはめ(Yが引き抜いたのは、X社の複数の熟練技術をもつ従業員。X社にとって、製品開発や品質維持を担う熟練技術者は、事業の根幹をなし、代替が困難な重要な経営資源。
 YはX社の代表取締役という地位を利用し、重要な従業員を特定、X社と競合するA社の事業に従事させる目的で、計画的に退職・移籍するよう働きかけている。→単なる転職の勧誘を超え、X社の事業能力を削ぎ、自己の利益を図るための不当な引き抜き行為。
 →Yの②行為は忠実義務違反=(ⅱ)任務懈怠)

 4(1) 423条の要件への当てはめ1(YはX社の代表取締役として忠実義務を負うことを認識しながら、②行為を行った→当該任務懈怠について故意あり。=(ⅴ)帰責事由認定。)

  (2)  423条の要件への当てはめ2(②行為により、X社には代替従業員の採用・熟練技術者に至るまで育成コスト・重要な従業員が流出したことによる生産性の低下・開発計画の遅延などによって生じた逸失利益→(ⅲ)損害が発生)

  (3)  423条の要件への当てはめ3(Yによる不当な引き抜き行為がなければ、採用・教育コストを支出する必要はなく、逸失利益も発生しなかったといえる→任務懈怠と損害との間の(ⅳ)因果関係あり)

5 小結論

第4 Yの③行為(本件土地の購入)について

1 問題提起(③行為が任務懈怠に当たるか。取締役が会社の事業機会を不当に奪う行為として、忠実義務(355条)違反とならないかが問題となる。)

2 規範定立(会社の機会と忠実義務違反)

3 当てはめ(本件土地の情報は、YがX社代表取締役として、X社の東海地方への事業進出という職務を遂行する過程で得たもの→東海地方への進出を具体的に計画し、市場調査を行っていた状況で発見された、工場の建設に適した広大な土地を取得する機会は、X社の事業計画にとって極めて重要な会社の機会であった。
 →Yはこの機会をX社にもたらすことなく、自己の利益のためにA社に取得させた。→会社の機会を不当に奪う行為であり、X社に対する善管注意義務・忠実義務違反行為=Yの③行為は(ⅱ)任務懈怠に当たる。)

4 423条の要件への当てはめ(X社は、東海地方へ進出し事業を展開していれば得られたであろう利益分の(ⅲ)損害を被った。+Yの行為は故意によるもの=(ⅴ)帰責事由認定、任務懈怠と損害との間の(ⅳ)因果関係も明らか)

5 小結論

 

【参考答案】

第1 問題の所在について

1 X社代表取締役Zによる元代表取締役Yに対する任務懈怠に基づく損害賠償請求(会社法(以下法令名省略)423条1項)は認められるか。

2 その要件は、(ⅰ)「役員等」(423条1項)、(ⅱ) 会社に対する任務懈怠、(ⅲ)損害、(ⅳ) (ⅱ)と(ⅲ)との間の因果関係、(ⅴ)(ⅰ)についての帰責事由の不存在(故意・過失)(428条1項反対解釈)である。

3 本件では、YはX社の元代表取締役であるから、①「役員等」に当たる。そこで、①から③までの行為が、(ⅱ)任務懈怠に当たるか問題となる。

第2 Yの①の行為(A社の事業展開)について

 1(1) YがA社を事実上主宰し、X社と競合する事業を展開した行為は、競業避止義務(356条1項1号)に違反し、任務懈怠に当たらないか。「会社の事業の部類に属する取引」の意義が明らかでなく問題となる。

  (2) 取締役の会社における地位・情報の私的流用による会社の損害発生の予防という競業取引規制の制度趣旨に鑑み、「事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている取引や行おうとしている取引と目的物・市場が競合する取引を意味すると解する。

  (3) X社はスナック菓子、A社は揚げ物米菓を製造販売している。両者は消費者にとって代替可能な商品であり、その目的物は競合している。
 また、X社は関西地方、A社は東海地方で事業を展開しているが、X社は東海地方への進出を目指して具体的な市場調査を行っていた。したがって、A社の事業はX社の事業計画と正面から衝突し、市場も競合しているといえる。
 以上より、A社の事業はX社の競業取引に当たる。

 2(1) では、本件競業取引を「取締役が」行ったといえるか。取引の主体はA社であり、X社取締役Yが直接の当事者ではないため問題となる。

  (2) もっとも、競業避止義務の趣旨は、取締役が自己または第三者の利益を図って会社利益を害すること防止する点にあるため、取締役が他人や別会社を介在させて義務を潜脱するような行為は許されない。
 そのため、人的物的に援助を与えるなどして事実上の主宰者として当該他社を支配していたといえる場合には自ら競業取引をするのと同視でき、「取締役が」競業取引を行ったものと評価すべきである。

  (3) YはA社の全株式を保有し、代表取締役に妻Zを就任させ、A社を事実上主宰している。このようなYによる支配関係に鑑みれば、法人格の異なるA社の行為であっても、競業避止義務の適用を検討する上では、実質的にYの行為と同視すべきである。したがって、「取締役が」競業取引を行ったといえる。

 3(1) 次に、Yが「自己又は第三者のために」競業取引を行ったといえるか。356条1項1号の「ために」の解釈が問題となる。

  (2) 競業取引規制は、取締役が自己または第三者の利益を図って会社利益を害すること防止する目的であることに鑑み、同規制における「ために」は、経済的利益の帰属を基準として判断するべきである(計算説)。

  (3) YはA社の発行済株式の全てを保有し、事実上A社を主宰している。とすれば、A社の損益は実質的にすべてYに帰属すると評価できる。したがって、Yは「自己のために」競業取引を行ったといえる。

 4(1) 以上より、①の行為は競業取引に当たるにもかかわらず、X社の取締役会の承認(365条1項)を得ていない。
 したがって、Yの①の行為は競業避止義務に違反し、(ⅱ)任務懈怠に当たる。

  (2) そして、Yは代表取締役として競業避止義務を認識しつつ、承認を得ずにA社を主宰していることから、当該任務懈怠について故意があり、(ⅴ)帰責事由も認められる。

  (3) 競業取引については、取締役が得た利益の額が会社の損害額と推定される(423条2項)。本件では、A社は設立当初から営業利益を出せていないため、一見するとこの推定規定は適用できないようにも思える。
 しかし、A社は赤字経営にもかかわらず、Yの妻である代表取締役Zに対し、年間5000万円もの報酬を支払っている。YがA社の100%株主であり、YとZが夫婦で経済的に一体であることを考慮すれば、この報酬は実質的にYに帰属する利益が、役員報酬という名目で支払われたものと評価できる。
 したがって、社会通念上相当な役員報酬額を超える部分については、Yが当該競業取引によって得た利益と認められ、423条2項によりX社の損害額と推定されると解するべきである。
 また、Yによる競業取引という任務懈怠行為がなければ、A社において利益が生じることはなく、Yがこれを実質的に得ることもなかったといえるから、Yの任務懈怠行為と、X社の損害との間には、(ⅳ)因果関係も認められる。

5 よって、X社代表取締役Zによる、Yの①行為に対する損害賠償請求は認められる。

第3 Yの②行為(従業員の引抜き)について

1 YがX社の熟練技術者を引き抜き、A社で雇用した行為が、取締役の任務懈怠に当たるか。②行為は、会社外部との「取引」ではないため、競業避止義務(356条1項1号)違反には当たらない。そこで、一般的な善管注意義務(330条、民法644条)および忠実義務(355条)違反とならないかが問題となる。

2 従業員には職業選択の自由が保障されており、また、取締役が独立して事業を営むことも自由であるから、取締役が会社の従業員を自己の事業に勧誘する行為が、直ちに忠実義務違反となるわけではない。
 もっとも、会社の事業に不可欠な中核的人材を、会社の事業に打撃を与えることを目的として、計画的・大量に引き抜くなど、その態様が社会通念上許容される範囲を著しく逸脱し、不当なものと評価される場合には、会社の重要な利益を害する行為として、忠実義務に違反すると解すべきである。

3 本件でYが引き抜いたのは、X社の複数の熟練技術をもつ従業員である。スナック菓子のトップメーカーであるX社にとって、その製品開発や品質維持を担う熟練技術者は、事業の根幹をなし、代替が困難な重要な経営資源であったといえる。
 そして、Yは、X社の代表取締役という地位を利用して、かかる重要な従業員を特定し、X社と競合するA社の事業に従事させる目的で、計画的に退職・移籍するよう働きかけている。これは、単なる転職の勧誘を超えて、X社の事業能力を削ぎ、自己の利益を図るための不当な引き抜き行為と評価できる。
 以上より、Yの②行為は忠実義務に違反し、(ⅱ)任務懈怠に当たる。

 4(1) Yは、X社の代表取締役として忠実義務を負うことを認識しながら、A社の利益を図る目的で計画的に従業員を引き抜いており、当該任務懈怠について故意が認められる。したがって、(ⅴ)帰責事由は認められる。

  (2)  次に、Yの引き抜き行為により、X社には、代替従業員を採用し、熟練技術者に至るまで育成するための採用・教育コストや、重要な従業員が流出したことによる生産性の低下、開発計画の遅延などによって生じた逸失利益といった(ⅲ)損害が発生したといえる。

  (3)  そして、Yによる不当な引き抜き行為がなければ、X社が上記のような採用・教育コストを支出する必要はなく、また逸失利益も発生しなかったといえるから、任務懈怠と損害との間の(ⅳ)因果関係も認められる。

5 よって、Yの②行為は忠実義務に違反する任務懈怠に当たり、X社はYに対し、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

第4 Yの③行為(本件土地の購入)について

1 Yが、X社の東海地方進出計画を知りながら、本件土地を自己が主宰するA社のために取得した行為が任務懈怠に当たるか。
 この土地購入行為自体は、スナック菓子の製造販売というX社の「事業の部類に属する取引」そのものではないため、競業避止義務(356条1項1号)違反とはならない。 そこで、取締役が会社の事業機会を不当に奪う行為として、忠実義務(355条)違反とならないかが問題となる。

2 取締役は、会社に対して忠実義務を負う。この義務の一環として、取締役は、その地位にあることによって得られた会社の事業にとって重要な機会を、正当な理由なく自己又は第三者の利益のために利用してはならないと解される。

3 本件土地の情報は、YがX社代表取締役として、X社の東海地方への事業進出という職務を遂行する過程で得たものである。そして、X社はすでに東海地方への進出を具体的に計画し、市場調査を行っていた。このような状況で発見された、工場の建設に適した広大な土地を取得する機会は、まさにX社の事業計画にとって極めて重要な会社の機会であったといえる。
 にもかかわらず、Yはこの機会をX社にもたらすことなく、自己の利益のためにA社に取得させた。これは、会社の機会を不当に奪う行為であり、X社に対する善管注意義務・忠実義務違反行為といえ、Yの③行為は(ⅱ)任務懈怠に当たる。

4 これによりX社は、東海地方へ進出し事業を展開していれば得られたであろう利益分の(ⅲ)損害を被ったといえる。また、Yの行為は故意によるものであり(ⅴ)帰責事由が認められ、任務懈怠と損害との間の(ⅳ)因果関係も明らかである。

5 よって、X社はYに対し、③の行為による逸失利益相当額の損害賠償を請求することができる。

以上

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