目次
【答案構成】
第1 小問(1)について
1 問題提起(本件報酬決定手続は会社法上適法か。取締役の報酬額決定を取締役会に一任することは会社法361条1項違反とならないか問題となる。)
2 規範定立(報酬額等の決定を他の機関へ委任することの可否)
3 当てはめ(株主総会で報酬総額の上限=30億円とすることが決議されている→その具体的配分を取締役会に一任するものであるから、適法。)
4(1) 規範定立(報酬額等決定の再一任の可否)+当てはめ(原則としてY₁への再一任も許容される)
(2) 規範(A社=361条7項1号に定める会社に該当→「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」として会社法施行規則(以下「規則」という。)98条の5で定める事項を決定しなければならない。)
(3) 当てはめ(本件でA社が定める報酬=「月例の固定金銭報酬」→業績連動報酬等(規則98条の5第2号)や非金銭報酬等(規則98条の5第3号)でない。その決定は代表取締役Y₁に委任されている。
→本件でA社が定めるべき報酬決定方針は、少なくとも固定金銭報酬の算定方法に関する方針(規則98条の5第1号)と、代表取締役への委任に関する方針(規則98条の5第6号)。
→A社取締役会は、「取締役の役位、職責、在任年数等に応じて決定する」と規定→1号の要請充足。「代表取締役Y₁に一任する」旨(規則98条の5第6号イ、ロ)、および権限の適切な行使を担保する措置として「管理本部の答申内容を尊重する」旨(規則98条の5第6号ハ)規定→6号の要請充足。
→A社の定めた方針は、会社法施行規則98条の5に則ったもの)
5 結論
第2 小問(2)について
1 設問に対する応答(本件報酬決定内容が取締役の善管注意義務(330条、民法644条)・忠実義務(355条)違反+会社に損害発生→当該取締役は会社に対して任務懈怠責任(423条1項)を負う。
→株主Xは、Y₁ら取締役5名に対し、増額された報酬6億円分についてA社に損害が生じたとして、株主代表訴訟(847条1項)により、任務懈怠責任を追及すると構成すればよい。)
問題提起(では、Y₁とY₂らの責任が認められるか。)
2(1) 規範定立(報酬決定と経営判断の原則)
(2)ア 当てはめ1(判断過程:Y₁は、当初、自身の報酬を26億円とする素案を作成。→Y₂ら他の取締役や管理本部との協議の結果を踏まえ、事後的に自己の報酬額を14億円に減額した上で本件報酬決定。
→Y₁が独断で判断したのではなく、他の取締役等の意見を聴取し、その内容を尊重するという慎重な過程を踏んでいる→判断過程が著しく不合理であったとはいえない。)
イ 当てはめ2(判断内容:大幅な増額がなされているが、本件株主総会において、報酬総額の上限を増額する理由として、経営環境の激変により取締役の役割・責任が飛躍的に増大したことを踏まえ、貢献度に見合った報酬を取締役に支払えるようにするためとの説明→株主はこれを承認。
本件報酬決定時点では、A社は前期に比べ業績向上との予想を公表→Y₁の貢献を評価し、報酬を増額すること自体が不合理とはいえない。
結果的に当期純損失を計上した理由=その後の急激な円安の進行→決定当時では予測困難な事情によるもの。→経営判断の合理性は判断時を基準に検討されるべき=事後的な事情をもって判断内容が著しく不合理であったと評価不可)
(3) 小結論(Y₁の任務懈怠責任否定。)
3(1) 規範(Y₂ら他の取締役の義務→Y₁の報酬決定という業務執行を監督・監視する義務(362条2項2号)。)
(2) 当てはめ(Y₂らは報酬素案に対し、管理本部・外部専門家の意見を踏まえ協議→14億円が妥当としてY₁の判断に影響を与えた。=監視義務の適切な履行と評価可能。
+Y₁の最終的な決定が善管注意義務違反とならない→看過したY₂らの行為が監視義務違反となることもない。)
(3) 小結論(Y₂ら4名の取締役についても任務懈怠責任は認められない。)
4 結論
【参考答案】
第1 小問(1)について
1 A社における本件報酬決定の手続が会社法上適法といえるか。取締役の報酬は、定款または株主総会決議によって定める(会社法(以下法令名省略)361条1項)と規定されていることから、取締役の報酬額決定を取締役会に一任することは同条違反とならないか問題となる。
2 361条1項の趣旨は、取締役が自らの報酬を自由に決めることによる、いわゆる、お手盛りを防止し、会社の財産的基礎を害し株主の利益が損なわれることを防ぐ点にある。そうすると、株主総会で取締役全員の報酬総額上限が定められていれば、会社から流出する財産の最大額は株主のコントロール下に置かれることになるから、同範囲内で各取締役への具体的な配分を取締役会に一任することも、趣旨に反するものではなく適法であると解する。
3 本件では、株主総会で報酬総額の上限を30億円とすることが決議され、その具体的配分を取締役会に一任するものであるから、適法に認められる。
4(1) また、取締役会から代表取締役Y₁に個別の報酬額の決定が再一任されている点について、再一任が取締役会の決議に基づくものであり、その監督下で行われるなど、お手盛りの弊害を実質的に防止できる範囲で認められると解する。
したがって、原則としてY₁への再一任も許容される。
(2) もっとも、A社は監査役会設置会社であり、大会社である。また、その発行する株式を東京証券取引所に上場していることから公開会社(2条5号)に当たり、金融商品取引法上の有価証券報告書提出義務を負う会社でもある。したがって、A社は361条7項1号に定める会社に該当するから、「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」として会社法施行規則(以下「規則」という。)98条の5で定める事項を決定しなければならない。
(3) 本件でA社が定める報酬は「月例の固定金銭報酬」であり、業績連動報酬等(規則98条の5第2号)や非金銭報酬等(規則98条の5第3号)ではない。また、その決定は代表取締役Y₁に委任されている。
したがって、本件でA社が定めるべき報酬決定方針は、少なくとも固定金銭報酬の算定方法に関する方針(規則98条の5第1号)と、代表取締役への委任に関する方針(規則98条の5第6号)を充足していればよいことになる。
この点、A社取締役会は、「取締役の役位、職責、在任年数等に応じて決定する」と定めており、これは1号の要請を満たす。さらに、「代表取締役Y₁に一任する」旨(規則98条の5第6号イ、ロ)、および権限の適切な行使を担保する措置として「管理本部の答申内容を尊重する」旨(規則98条の5第6号ハ)を定めており、6号の要請も満たしている。
したがって、A社の定めた方針は、会社法施行規則98条の5に則ったものである。
5 よって、A社における本件報酬決定一連の手続は適法である。
第2 小問(2)について
1 本件報酬決定手続が適法になされたものであっても、その決定内容が取締役の善管注意義務(330条、民法644条)・忠実義務(355条)に違反し、会社に損害を与えた場合には、当該取締役は会社に対して任務懈怠責任(423条1項)を負う。
そこで、株主Xは、Y₁ら取締役5名に対し、増額された報酬6億円分についてA社に損害が生じたとして、株主代表訴訟(847条1項)により、任務懈怠責任を追及するものと考えられる。では、Y₁とY₂らの責任が認められるか。
2(1) 報酬額の決定権限を一任された取締役は、株主総会の委任の趣旨や会社の状況に照らして、社会通念上相当と認められる範囲で報酬額を決定すべき善管注意義務を負う。もっとも、各取締役の功績を評価し、どの程度の報酬を支払うかという判断は、会社の業績向上へのインセンティブ設計にも関わる、高度に専門的・政策的な経営判断そのものだといえる。したがって、裁判所がその当否を判断するにあたっては経営判断の原則が妥当し、報酬決定に至る判断過程やその判断内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反は認められないと解する
(2)ア 報酬額決定を一任されたY₁は、当初、自身の報酬を26億円とする素案を作成していた。しかし、その後、Y₂ら他の取締役や管理本部との協議の結果を踏まえ、自己の報酬額を14億円に減額した上で本件報酬決定を行っている。
このように、Y₁が独断で判断したのではなく、他の取締役等の意見を聴取し、その内容を尊重するという慎重な過程を踏んでいることからすれば、その判断過程が著しく不合理であったとはいえない。
イ Y₁の報酬を前期から6億円増額した14億円と決定した判断内容につき、大幅な増額ではあるものの、本件株主総会においては、報酬総額の上限を増額する理由として、経営環境の激変により取締役の役割・責任が飛躍的に増大したことを踏まえ、貢献度に見合った報酬を取締役に支払えるようにするためとの説明がなされており、株主はこれを承認している。
そして、本件報酬決定がなされた時点では、A社は前期に比べて業績が向上するとの予想を公表しており、かかる状況下で代表取締役であるY₁の貢献を評価し、報酬を増額すること自体が不合理とはいえない。
また、結果的に当期純損失を計上することになったのは、その後の急激な円安の進行という、決定当時では予測が困難であった事情によるものである。経営判断の合理性は判断時を基準に検討されるべきであるから、事後的な事情をもって判断内容が著しく不合理であったと評価することはできない。
(3) したがって、Y₁の任務懈怠責任は認められない。
3(1) 報酬決定を委任されていないY₂ら他の取締役は、Y₁の報酬決定という業務執行を監督・監視する義務(362条2項2号)を負う。
(2) Y₂らはY₁の報酬素案に対し、管理本部や外部専門家の意見も踏まえて協議し、14億円が妥当との結論を導き出し、Y₁の判断に影響を与えている。これは監視義務を適切に履行した行動と評価できる。
また、Y₁の最終的な決定が善管注意義務違反とならない以上、それを看過したY₂らの行為が監視義務違反となることもない。
(3) したがって、Y₂ら4名の取締役についても任務懈怠責任は認められない。
4 よって、XによるA社取締役5名に対する責任追及は認められない。
以上

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