【参考答案】
第1 小問(1)について
1 Kは、Xを殺人罪で逮捕するに足りる証拠を収集できなかったことから、主として殺人事件について取り調べる目的で窃盗罪による逮捕状を請求している。そこで、このような目的でなされた窃盗罪による逮捕及びこれに引き続く勾留は適法か。
2 令状審査段階では、裁判官の判断資料は令状請求者から提供される疎明資料(刑事訴訟規則143条)に限られるため、捜査機関の本件取調べの意図を把握することは困難である。そこで、逮捕・勾留の適法性は、令状の基礎とされた被疑事実について逮捕・勾留の理由及び必要性が認められるかによって判断すべきである。
もっとも、勾留の理由及び必要性は令状発付時のみならず、その執行継続中も必要である。したがって、その後の捜査状況から令状の基礎とされた被疑事実による逮捕・勾留としての実体を失った場合には、その被疑事実について身体拘を継続する理由・必要性も失われたものとして、その時点以降の身柄拘束は違法となると解する。
実体喪失の判断に当たっては、別件及び本件それぞれの取調べの程度、両事件の関係、取調べの態様、供述の自発性、捜査全般の進行状況、捜査機関の意図等を総合考慮すべきである。
3 本件においてKは、Xを主として殺人事件について取り調べる目的で窃盗罪の逮捕状を請求している。そのため、窃盗事件について逮捕の理由及び必要性が認められるのであれば、当初の逮捕は適法である。
そして、Kは、Xを逮捕した後、窃盗事件について所要の捜査をして検察官に送致し、勾留後も、殺人事件についての捜査・取調べを全く行わず、専ら窃盗事件についてXの取調べ及びその余の捜査を行っている。そうすると、身柄拘束は現実にも窃盗事件の捜査のために利用されており、窃盗事件による勾留としての実体を失ったとはいえない。
したがって、窃盗事件について逮捕・勾留の理由及び必要性が認められる限り、本件逮捕・勾留は適法である。
第2 小問(2)について
1 Kは逮捕状請求時には窃盗事件のみを取り調べる目的であったものの、勾留状発付後に捜査方針を変更し、主として殺人事件について取り調べている。
この場合における逮捕・勾留は適法か。
2 窃盗事件を被疑事実とするXの逮捕・勾留の適法性は、第1-2の基準に従って判断する。
3 本件では、Kは逮捕状請求時には窃盗事件のみを取り調べる目的であった。また、窃盗事件について所要の捜査が行われ、これに基づいて検察官への送致、勾留請求及び勾留状の発付がなされている。したがって、窃盗事件について逮捕・勾留の理由及び必要性が認められる限り、逮捕及び勾留開始時の身柄拘束は適法である。
もっとも、Kは、勾留状発付後に捜査方針を変更し、Xを主として殺人事件について取り調べている。これにより、窃盗事件による身柄拘束が、殺人事件の捜査に利用されるようになったといえる。そして、殺人事件についてはXを逮捕するに十分な証拠が収集されていない一方、勾留期間中の取調べの中心が同事件に移っている。そこで、窃盗事件についての取調べその他の捜査が従たるものとなり、身柄拘束が主として殺人事件の捜査に利用されるに至ったのであれば、窃盗事件による勾留としての実体を失い、窃盗事件について身柄拘束を継続する理由・必要性も失われたといえる。
したがって、逮捕及び当初の勾留は適法であるが、窃盗事件による勾留としての実体を失った時点以降の身柄拘束は違法となる。
以上
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