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参考答案 事例研究 行政法〔第4版〕第1部 行政法の基本課題 第13問 指定ごみ袋の規格変更をめぐる紛争

目次

 

【参考答案】

 1(1) A社は乙市に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求することが考えられる。
 本請求が認められるためには、①被告適格(「国又は公共団体」)、②「公権力の行使に当たる」、③「公務員」、④「その職務を行うについて」、⑤「故意または過失によって」、⑥違法性(「違法に」)、⑦「損害」の発生、⑧公務員の行為と⑦との間の因果関係が必要である。

  (2) 本件では、「公共団体」たる乙市に対し(要件①)、ごみ収集袋の規格を定める要綱の制定・改正や、A社に対する製造承認は、いずれも乙市が行政目的を達成するために、住民や事業者を規律する活動の一環として行っている。よって、これらは「公権力の行使」にあたる。一連の政策変更は、「公務員」たる乙市長(③)が、「職務を行うについて」(要件④)なした「公権力の行使」(要件⑤)にあたる。そして、この政策変更によってA社に在庫損等の「損害」が発生(要件⑦)し、両者の間に因果関係が認められることも明らか(要件⑧)である。
 したがって、本件でA社の請求が認められるためには、主として、乙市の政策変更が「違法」であると評価できるか、また、市長に「故意又は過失」が認められるかが問題となる。

  (3) まず、乙市による本件要綱の改正及びそれに基づく運用変更という政策変更自体が「違法」といえるか。
 本件政策変更は、指定袋の価格や臭気に対する住民の強い批判を受け、市長選挙で同政策の見直しを公約に掲げた候補者が当選したことを契機として行われている。これは、民意を反映した民主主義的なプロセスに沿ったものであり、政策変更の必要性・合理性が認められる。したがって、政策変更自体を直ちに「違法」と評価することはできない。
 そこで、当該施策変更が、信義則違反として「違法」といえないか。

2 政策変更自体が適法であっても、行政庁が、(ⅰ)私人に個別的・具体的な勧告・勧誘を行い、(ⅱ)その活動が施策の継続を前提とする性質のものであり、(ⅲ)施策の変更によって社会通念上看過し得ない程度の積極的損害を被らせ、(ⅳ)何らの代償的措置も講ぜず、かつ、(ⅴ)その施策変更がやむをえない客観的事情に基づくものでない限り、当該施策変更は信義則に反し、国家賠償法1条1項の適用上「違法」となり、行政主体は損害賠償責任を負うと解する。

3 乙市は、A社と個別に協議し、その製造・納入能力を確認した上で、本件要綱に基づき製造承認を与え、700万枚の在庫準備と継続的な供給を具体的に指示している。これらの行為は、A社という特定の者に対する個別的・具体的な勧告・勧誘に他ならない(ⅰ)。
 本件指定袋は、特定の忌避剤を含有する特殊な規格品であり、乙市の指定制度がなければ販売が困難なものである。したがって、700万枚もの大量生産は、乙市の制度が相当期間継続することを前提としなければ、投下資本の回収が不可能な活動である(ⅱ)。
 政策変更の結果、A社は製造した本件指定袋約250万枚の在庫(仕入れ単価10円)を抱え、その額は2,500万円に上る。これに倉庫保管料800万円を加えた合計3,300万円は、A社が実際に支出した費用であり、回収不能となった積極的損害であり、社会通念上看過し得ない程度の損害といえる(ⅲ)。
 乙市は、政策変更にあたり、A社の在庫を買い取るなどの代償的措置を一切講じていない(ⅳ)。
 本件政策変更の理由は、市長選挙の結果や、価格・臭気に対する住民の批判であるが、これらは行政運営において想定されうる事態であり、天災地変や深刻な財政難のように、施策の継続を不可能ならしめる「やむをえない客観的事情」には当たらない(ⅴ)。
 以上より、乙市の政策変更は、上記(ⅰ)~(ⅴ)の要件を全て満たすため、A社の法的保護に値する信頼を侵害するものであり、国家賠償法1条1項にいう④「違法」となる。

4 よって、A社は乙市に対し、同項に基づき、被った積極的損害である3,300万円の賠償を求めることができる。

以上

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