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【参考答案】
1 控訴審裁判所に釈明義務違反が認められるか。民事訴訟法(以下法令名省略)149条1項は、裁判長に釈明権を認めている。原則として釈明権の行使は裁判所の裁量に委ねられているところ、いかなる場合に釈明義務違反となるかが問題となる。
2 この点、釈明権の行使が原則として裁判所の合理的な裁量に委ねられているは、弁論主義を補充し、当事者の実質的公平や紛争の適正な解決を図るための制度であるからである。
もっとも、当事者が主張・立証を尽くしておらず、釈明権を行使しないまま判決をすることが著しく正義に反し、当事者に不意打ちを与えるような特段の事情がある場合には、例外的に釈明義務が生じると解する。<br
/> 具体的には、第1審において当事者が証拠の申出をしたにもかかわらず、裁判所がその必要がないとしてこれを取り調べずに当該当事者を勝訴させた場合において、控訴審裁判所が心証を変え、当該証拠を取り調べなければ事実の証明がないとして第1審判決を取り消し、請求を棄却または認容しようとするときは、当事者に対し当該証拠の申出を維持するか否かを釈明し、立証の機会を与える義務を負うと解すべきである。
3 Yは第1審で、契約書の作成名義の真正を立証するために筆跡鑑定の申立てを行っている。しかし、第1審裁判所はこれを採用せず、他の証拠によりYの抗弁を認めて請求を棄却している。
これに対し、控訴審裁判所は、人証のみでは作成名義の真正が成立したとはいえないとの心証を抱き、Yの抗弁を排斥して第1審判決を取り消し、Xの請求を認容しようとしている。Yとしては、第1審において筆跡鑑定が不要と判断された上で自己に有利な判決がなされた以上、控訴審においても当該判断が維持されるものと信頼するのが通常であり、控訴審において改めて筆跡鑑定の申出をする必要性を認識し難い状況にある。仮に、控訴審裁判所が心証を変えて証明不足と判断するのであれば、Yは、第1審で却下された筆跡鑑定を再度申し立てて立証を尽くしたいと考えるはずである。にもかかわらず、控訴審裁判所が筆跡鑑定の必要性について何ら釈明権を行使することなく、直ちにY敗訴の判決をすることは、Yに弁論・立証の機会を与えずに不意打ちを課すものであり、手続保障の観点から著しく正義に反する。
したがって、本件において控訴審裁判所は、Yに対して筆跡鑑定の申出を維持するか否かについて釈明する義務を負っていたといえる。
4 よって、控訴審裁判所には釈明義務違反が認められる。
以上

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