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【参考答案】
第1 設問1について
1 本件処分は地方公務員法(以下「法」という。)29条に基づいて行われている。A自身も飲酒運転という処分要件(法29条1項1号・3号)の充足は認めていることから、処分量定における効果裁量の逸脱・濫用の有無を検討する。
2 行政処分の裁量の有無は、根拠法令の文言、処分の内容および性質等を考慮して決せられる。また、裁量が認められる場合であっても、裁量権の逸脱・濫用があれば当該処分は違法となる(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)30条)。特に、裁量基準が策定・公表されている場合、平等原則や信頼保護の観点から、特段の事情がない限り基準に従うべきである。
もっとも、基準に従ってなされた処分であっても、① 裁量基準そのものが不合理である場合や、② 合理的な基準であっても、個別事情を考慮せず機械的に適用した場合には、裁量権の逸脱・濫用となる。
3(1) まず、裁量の有無について、法29条は、懲戒事由に該当する場合でも、処分を「することができる」と規定し、その内容も選択的である。また、懲戒処分は組織の規律維持という専門技術的判断を要する。
したがって、懲戒権者には、効果裁量が認められる。
(2) 次に、甲県は行政規則として本件指針を定めているが、この本件指針が合理的な裁量基準といえるか。
旧指針では「停職」としていた事案を「免職」へと厳罰化しているが、これは飲酒運転の相次ぐ発生とこれに対する批判を受けたものであり、目的達成手段として厳しくすることには合理的な理由がある。
しかし、比例原則の観点から、飲酒運転の抑止という目的のためとはいえ、事故の有無を問わず一律に免職とすることは、職員の身分を剥奪し、生活基盤を奪い、退職金不支給等の重大な不利益を課すものであり、あまりに過酷である。したがって、本件指針の一律免職規定は、手段と目的の均衡を失し、比例原則に違反するため、裁量基準としての合理性を欠く。
(3) 仮に、本件指針自体が合理的であったとしても、本件への適用が適法かは別個に検討を要する。
Aの違反態様は、飲酒から時間が経過しており、基準値をわずかに上回る軽微なものである。また、勤務成績良好で前歴もない。もっとも、これらの事情は指針において織り込み済みとも解され、これのみで直ちに基準からの逸脱が求められるわけではない。
しかし、Aが運転に至った経緯は、急病人Bの救助活動によりバスに乗り遅れたという、通常は想定し得ない特殊な事情によるものである。このような特殊事情があるにもかかわらず、これを考慮せずに機械的に指針を適用して免職としたことは、個別事情考慮義務に違反する。
したがって、本件処分は裁量権の逸脱・濫用があり、違法である。
第2 設問2について
1 法29条に基づく免職処分は、法49条および49条の2により、行政不服審査法の審査請求の対象となっている。審査請求の対象たる行政庁の「処分」と行訴法の「処分」は同一の概念であると解されるため、法29条に基づく免職処分は、行訴法上の「処分」(行訴法3条2項)に該当する。
行政処分の効力は、公定力が働くため、これを取り消す確定判決によってのみ否定することができる(取消訴訟の排他的管轄)(行訴法3条)。したがって、Aが本件処分の効力を争うための原則的な手段は、処分の取消訴訟(行訴法3条2項)となる。
もっとも、法51条の2は、法49条1項に規定する懲戒処分等の取消しの訴えについて、審査請求前置を定めている。したがって、Aが本件処分の取消訴訟を提起するためには、まず審査請求に対する裁決を経なければならない。
2(1) 審査請求は、原則として、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内にしなければならない(行政不服審査法18条1項)。
(2) 本件において、Aは2009年3月10日に処分説明書の交付を受け、処分があったことを知った。しかし、設問の基準時である同年7月1日の時点では、上記処分を知った日の翌日から既に3か月を経過している。
したがって、Aはもはや適法に審査請求申立てができず、適法な裁決を経ることが不可能である以上、本件処分の取消訴訟を提起することもできない。
3(1) 上述のとおり取消訴訟を提起できない以上、Aとしては、次善の策として、本件処分の「取消し」ではなく「無効」を主張して争うことになる。この場合、採り得る訴訟手段としては、本件処分の無効等確認訴訟(行訴法3条4項)、処分の無効を前提とする公法上の当事者訴訟(行訴法4条)として公務員としての地位確認訴訟が考えられる。
もっとも、無効等確認訴訟は、「当該処分等の無効等を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」場合に限り、提起することができる(行訴法36条、無効確認の補充性)。そこで、本件において、無効等確認訴訟を提起することが許されるか、「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」場合の意義が問題となる。
(2) 「目的を達することができない」(行訴法36条後段)とは、処分の無効を前提とする当事者訴訟等が形式的に許されない場合に限られず、これらと比較して、無効確認訴訟の方がより直截的かつ適切な争訟形態であるとみるべき場合も含まれると解する。
(3) 本件において、Aは免職処分により甲県職員としての地位を失った状態にあり、その究極的な目的は、甲県職員としての地位を回復することにある。
この点、公務員としての地位確認訴訟は、Aが現在有する権利法律関係そのものの存否を確定するものであり、Aの目的を直截的に解決する手段といえる。
これに対し、処分の無効確認の訴えは、地位喪失の原因となった過去の行為の効力を否定するにとどまり、地位確認の訴えに比して迂遠である。
したがって、本件においては、無効確認訴訟のほうがより直截的かつ適切な争訟形態であるとはいえず、原則どおり、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができる場合に当たる。したがって、無効等確認の訴えは補充性の要件(行訴法36条)を欠き、提起できない。
4 以上より、Aは、免職処分の無効を前提とする甲県職員としての地位確認訴訟を提起すべきである。
以上

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