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【参考答案】
1 本件において、第1審判決は、Xの請求原因である貸金債権の存在を認めた上で、Yの予備的抗弁である相殺の抗弁を認め、請求を棄却している。この第1審判決に対し、Xのみが控訴した状況において、控訴審裁判所は、審理の結果、Xの貸金債権はそもそも存在しないとの心証を得ている。
この場合、控訴審裁判所が心証に従い、請求原因不存在を理由として請求を棄却する判決をすることは、Xによる控訴しかない本件において、不利益変更禁止の原則(民事訴訟法(以下法令名省略)304条)に反し許されないのではないか。
形式的には、第1審判決も控訴審の心証も、共に「請求棄却」という判決主文においては同一であるため、判決理由中の判断の変更が「不利益変更」に当たるかが問題となる。
2 不利益変更禁止の原則(304条)は、処分権主義(246条)の控訴審における現れとして、相手方からの不服申立てがない限り、原判決を控訴人に不利益に変更することを禁じるものである。ここで、不服申立ての実質的根拠は判決の効力にあるから、不利益変更に当たるか否かは、判決の既判力が生じる範囲を比較して実質的に判断すべきである。
通常、判決理由中の判断には既判力が生じない(114条1項)ため、主文が同一であれば不利益とはならない。しかし、相殺の抗弁については、対抗額の限度で理由中の判断にも既判力が生じる(同条2項)。したがって、理由の変更により反対債権の不存在に関する既判力が失われる場合には、実質的な不利益が生じるため、同原則に反し許されないと解する。
3 本件第1審判決は、Yの予備的相殺の抗弁を容れてXの請求を棄却したものである。この判決が確定した場合、114条2項により、Yの反対債権は対当額において消滅したとの判断に既判力が生じる。これにより、Xは後訴においてYから当該反対債権の支払を請求されることがなくなるという実質的な利益を得る。
これに対し、控訴審が貸金債権の不存在という心証に従って請求を棄却する判決をした場合、裁判所は相殺の判断に立ち入らないこととなる。そのため、この判決が確定しても、Yの反対債権の存否について既判力は生じず、Yの反対債権はそのまま残存することになる。
そこで、両者を比較すると、控訴審の判断による場合、第1審判決では生じるはずであった反対債権消滅の既判力が失われ、Xは将来Yから当該債権を行使される危険を負うことになる。したがって、請求原因不存在による請求棄却判決をすることは、第1審判決よりも控訴人Xに実質的な不利益を課すものといえる。
4 したがって、Yからの控訴または附帯控訴がない本件においては、不利益変更禁止の原則により、控訴審は自らの心証に基づき原判決を取り消して自判することは許されない。 よって、控訴審は、Xの控訴を棄却する判決をすべきである。
以上

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