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参考答案 エクササイズ刑事訴訟法〔第2版〕第3問 窃盗事件

目次

 

【参考答案】

第1 設問1について

1 甲の尾行の適法性について

  (1) Nらは、数日間にわたり、公道上やホテルロビー等において、目視による甲の尾行(以下「本件尾行」という。)を行っている。かかる態様の捜査手法について、刑事訴訟法は明文規定を置いていない。そのため、当該捜査が「強制の処分」に該当する場合、強制処分法定主義(197条1項但書)に反し、違法とならないか問題となる。

  (2) 「強制の処分」(197条1項但書)とは、立法的統制たる強制処分法定主義及び、司法的統制たる令状主義の両面から厳格な手続きが要求されるものであるから、「強制の処分」はそれに見合う重要な法益侵害を伴うものである必要がある。また、同意がある場合には法益侵害は観念できないから、意思に反して行われたものである必要がある。
 具体的には、個人の明示または黙示の意思に反し、重要な権利・利益に実質的に制約を加える手段をいう。

  (3) 尾行は、通常、対象者に気付かれないように行われるものであるが、仮に甲が本件尾行の事実を知っていた場合、当然、本件尾行による行動把握を拒否したと考えられる。そのため、甲の黙示の意思に反するといえる。
 そして、尾行により制約され得る利益は、自己の所在地情報をコントロールするという意味でのプライバシー権であり、重要な権利である。
 もっとも、ホテルのロビーや外出時の公道上では通常、他人から容貌等を観察されること自体は受忍せざるを得ないから、上記意味でのプライバシー権の保護は、相当程度希薄化していると考えられる。また、他人から観察され得る場所での断片的な位置情報の把握にとどまり、個人の行動を網羅的・継続的に把握するものとはいえないため、プライバシー侵害の程度は低い。
 したがって、本件尾行は、被疑者の黙示の意思に反するものの、重要な権利利益を実質的に制約しているとはいえず、「強制の処分」に該当しない。

  (4) 本件尾行が任意処分であるとしても、同捜査により何らかの人権侵害の危険がある以上、捜査比例の原則(197条1項本文「必要な」の文言)の観点から、無制約になし得るわけではなく、必要性・緊急性等を考慮した上で、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容されるものと解する。

  (5) 本件当時、L県内では連続住居侵入・窃盗事件が発生しており、その犯人は職業的な空き巣と想定されるなど、事案の解明に向けた捜査の必要性は高い。また、甲には同種手口による前科もあることから、甲が本件犯人であるとの嫌疑も認められ、その行動を確認する必要があったといえる。
 他方、その態様についてみると、尾行は、主に被害が発生する昼間の時間帯に、数日間、公道上やホテルのロビー等で行われたものにすぎず、有形力の行使や過度の監視を伴わない平穏なものである。したがって、捜査の必要性に比して、甲の被る不利益は小さく、社会通念上相当と認められる限度にとどまる。
 よって、本件尾行は、適法な任意処分である。

2 足跡採取の適法性について

  (1) Nらは、甲の宿泊するホテル客室前の廊下にマットを敷き、甲が踏んだマット上の足跡を採取している(以下「本件足跡採取」という。)。かかる捜査手法は、物の形状等を視覚的に認識する点で「検証」(218条1項前段)の性質を有するものであるところ、令状なく行われた本件足跡採取は、「強制の処分」(197条1項但書)に該当し、令状主義(憲法35条)に反しないか。

  (2) 「強制の処分」の意義は、第1-1(2)と同様である。
 本件では、本件足跡採取は、甲に無断で行われている以上、その推認される合理的意思に反するといえ、甲の黙示の意思に反する。
 また、靴底の形状に関する情報も、個人の私的領域に属する事項として、プライバシー権の一内容を構成し得る。そのため、これを本人の同意なく採取する行為は、上記権利を侵害・制約する可能性がある。
 しかし、足跡は、人が靴を履いて歩行すれば公道等の面上に必然的に遺留されるものであり、その性質上、常に不特定多数の他人にさらされているといえる。したがって、個人の秘密として高度に保護すべき必要性は低く、容貌等と同様、捜査の過程で受忍すべき程度のものにとどまる。 加えて、採取場所もホテルの共用廊下であり、管理者の承諾がある以上、住居等の強力に保護されるべき私的領域への侵入も伴わない。
 よって、本件足跡採取は、個人の意思に反するとしても、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約するものとはいえず、「強制の処分」に当たらない。

  (3) 本件足跡採取が「強制の処分」に当たらないとしても、任意処分として許容されるか。任意処分の限界につき、第1-1(4)と同様の基準に従い判断する。

  (4) 本件は、連続住居侵入・窃盗事件の捜査であり、事案の真相解明の必要性は高い。また、現場ごとに異なる足跡が検出されており、犯人が靴を履き分けている可能性が指摘されていたことから、甲の足跡を採取し、現場遺留足跡と照合して犯人性を特定する必要性は極めて高かったといえる。
 他方、その態様についてみると、管理権者の承諾を得て、廊下にマットを敷設したに過ぎず、甲の身体等に直接的な制約を加えるものではない。また、ホテルという準公共的な場所での実施であり、その侵害の程度は軽微である。
  したがって、捜査の必要性に比して、用いられた手段は社会通念上相当と認められる限度にとどまる。
 よって、本件足跡採取は、適法な任意処分である。

3 GPS端末機器の取付け・使用の適法性について

  (1) Nらは、甲の使用するレンタカーの車体底部に、無断でGPS端末機器を取り付け、これを利用して同車の位置情報を継続的に確認している。かかる一連の捜査手法(以下「本件GPS捜査」という。)について、刑事訴訟法は明文規定を置いていない。そのため、当該捜査が「強制の処分」に該当する場合、強制処分法定主義(197条1項但書)に反し、違法とならないか。また、令状なく行われているところ、令状主義(憲法35条、218条1項)に反し、違法とならないか。
 「強制の処分」の意義は、第1-1(2)の通りである。

  (2) 本件GPS端末機器は、甲やレンタカー会社の営業所員に無断で取り付けられたものである。そして、自らの所在地情報を捜査機関に継続的・網羅的に把握されることについて甲が同意するはずはなく、少なくとも合理的に推認される甲の黙示の意思に反するものといえる。
 本件GPS捜査によって制約され得る権利・利益は、自己の所在地情報をコントロールするという意味でのプライバシー権(憲法13条)、及び、自己の所持品等に準ずる私的領域に侵入されない権利(憲法35条)である。これらは、個人の尊厳に関わる憲法上保障された重要な権利・利益である。
 確かに、本件GPS端末機器は民間会社が貸し出しているもので、位置情報の取得には都度パソコンからアクセスする必要があり、数十~数百メートルの誤差も存在する。
 しかし、本件機器を用いた位置情報の検索は、尾行による肉眼での把握とは異なり、その性質上、公道上のみならずホテルや私人宅の駐車場等、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、甲の車両の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。現に、Nらは信号待ちの際に甲を失尾したにもかかわらず、GPS情報のみで再度追い付くことができており、高い追跡能力を有している。したがって、本件GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものである。
 さらに、Nらは、かかる機器を甲が利用するレンタカーの車体底部に無断で取り付けており、これは公権力による私的領域への侵入を必然的に伴う行為である。
 したがって、本件GPS捜査は、上記の重要な権利・利益に対して、実質的な制約を加えるものである。

  (3) よって、本件GPS捜査は「強制の処分」に該当し、令状なく行われた本件手続強制処分法定主義及び令状主義違反として違法である。

4 現行犯逮捕の適法性について

  (1) Nは、V方敷地内から姿を現した甲を呼び止め、約200m先で逃走する甲に追い付き、V方への住居侵入の事実で甲を現行犯逮捕している。かかる現行犯逮捕は適法か。甲が212条1項の「現に罪を行い終つた者」に該当するかが問題となる。

  (2) 現行犯逮捕(212条1項、213条)が、令状主義の例外(33 条)として許容される趣旨は、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であるために、令状手続きを経ずとも不当・不合理な逮捕がなされるおそれが少ない点に求められる。
 かかる趣旨から、適法な現行犯逮捕の要件として、犯罪と犯人が逮捕者にとって①明白であることが要求される。また、「現に罪を行い……現に罪を行い終わった」との文言から、②時間的場所的接着性があることが必要である。加えて、③逮捕の必要性(199 条 2 項、規則 143 条の 3 参照)も要求される。
 なお、①明白性が認められるには、原則、逮捕者が被逮捕者の犯罪を現認することを要するものの、上記趣旨から、現場の客観的・外部的状況から犯罪及び犯人が明白である場合、現認に準じて扱うことも許されると考える。

  (3) Nは、甲がV方の前でいったん視界から消え、約10分後にV方敷地内から再び姿を現すのを目撃している。Nは建物に侵入する場面を直接現認してはいないが、少なくとも甲がV方の敷地内に無権限で立ち入った事実はNの直接の認識に基づいて認定できる。加えて、甲がNに呼び止められるや直ちに走って逃走したという行動は、犯罪の明白性を強く推認させる事情である。そして、甲は敷地から出てきた本人であるから、犯人の明白性もある。したがって、少なくとも住居侵入(刑法130条)に関し、犯罪及び犯人の明白性が認められる(①明白性の充足)。
 次に、逮捕の場所は犯行現場であるV方から約200m離れた場所であるが、これは逃走する甲をNが直ちに追跡して追いついた結果にすぎず、その所要時間もせいぜい1~2分程度程度と認められる。したがって、犯行直後に犯行現場の近接した場所で逮捕されたといえ、時間的・場所的接着性も認められる(②時間的・場所的接着性の充足)。
 さらに、甲が走って逃走を図っている以上、逃亡の恐れが認められ、逮捕の必要性も当然に認められる(③必要性の充足)。

  (4) よって、本件現行犯逮捕は、212条1項の要件を充足し、適法である。

5 逮捕に伴う捜索・差押えの適法性について

  (1) Nは、現行犯逮捕に伴い、甲の所持するビジネスバッグの中を無令状で捜索し、マイナスドライバーや現金等を差し押さえている。これが逮捕に伴う捜索・差押え(220条1項2号、同条3項)として適法か。

  (2) 220条1項による逮捕に伴う捜索・差押えが、令状主義(218条1項、憲法35条)の例外として許される趣旨は、逮捕の現場には被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が⾼く、令状を請求すれば「正当な理由(憲法35条)が認められるのが通常であることから、裁判官による令状審査を経る必要がないからである。
 そこで、220条1項2号による差押えが適法となるためには、逮捕が適法であることに加え、被疑事実と関連する証拠の存在の蓋然性が認められる必要があると解する。

  (3) 第1-4の通り、甲に対する住居侵入罪の本件現行犯逮捕は適法である。
 次に、Nが捜索・差押えを行ったのは、甲が現行犯逮捕されたその場において所持していたビジネスバッグの中であり、甲の身体及びその直接の支配下にある場所といえるから、「逮捕の現場」(220条1項2号)に当たる。
 そして、甲の被疑事実は、V方への住居侵入であるところ、差し押さえられた物のうち、マイナスドライバー及び軍手は、ガラス戸の施錠部分を工具で割って侵入するという本件被疑事実の犯行手段に用いられる器具として、被疑事実との関連性が認められる。また、剥き出しの現金数万円及びネックレスは、V方から窃取された被害品である蓋然性が高く、住居侵入・窃盗の被疑事実と関連する証拠の存在の蓋然性が認められる。

  (4) したがって、本件逮捕に伴う捜索・差押えは適法である。

第2 設問2について

1 伝聞証拠該当性について

  (1) 本件実況見分調書は、司法警察員警部補Rが、Nを立会人として実施した実況見分の結果を書面に取りまとめたものであるから、公判廷外のRの供述を内容とする書面であり、320条1項の「公判期日外における他の者の供述を内容とする書面」に形式的に該当する。
 そこで320条1項により排除される証拠に該当しないか、320条1項の意義が問題となる。なお、弁護人は証拠とすることに不同意の意見を述べているため、326条1項によっては証拠とできない。

  (2) 供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述を経て公判廷に顕出されるところ、これらの各過程には誤りが混入しやすい。それゆえ、反対尋問等により、そのような誤りがないかを吟味する必要がある。ところが、公判廷外供述を内容とする供述や書⾯は、そのような吟味をすることができない。そこで、誤判防⽌のためにそのような証拠を排除するのが320条1項の趣旨である。
 したがって、320条1項により証拠能力が否定される証拠とは、公判廷外供述を内容とする供述又は書面であって、その内容の真実性が問題となるものをいうと解する。そして、真実性が問題となるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられる。

  (3) 検察官Pが本件実況見分を指示した目的は、甲自身がV方から盗品を窃取したことの立証に向け、その前提となるNの目撃事実を立証することにある。そして、本件実況見分調書は、Nの記憶に基づく過去の目撃状況を再現させた結果を記録したものである。したがって、本件実況見分調書の要証事実は、V方付近においてNが目撃した甲の犯行状況と解すべきである。
 そして、上記要証事実が認定されるためには、Nの再現内容が客観的真実に合致していること、すなわちRが記録したNの供述内容の真実性が前提となるから、本件実況見分調書は、要証事実との関係でその内容の真実性が問題となる。
 したがって、本件実況見分調書は、320条1項により証拠能力が否定される伝聞証拠に該当する。

2 伝聞例外について

  (1) 本件実況見分調書は検証調書ではないが、五官の作用により場所・物・身体等の状況を客観的に認識・保全するという実質において共通するため、検証調書(321条3項)に準じて伝聞例外が認められると解する。
 したがって、作成者たる見分官Rが公判期日において証人として尋問を受け、「真正に作成されたものであること」を供述すれば、本件調書自体の証拠能力は原則として認められることになる。
 もっとも、本件調書には、立会人Nの指示・説明が記載され、それに基づく再現状況の写真が添付されている。これらが同調書の一部として、321条3項の要件のみで証拠能力が認められるか。

  (2) この点、実況見分の対象たる場所等を特定するための単なる現場指示であれば、実況見分の一手段に過ぎず、321条3項の要件を満たせば足りる。
 一方、過去の犯罪状況や目撃状況の再現を内容とする現場供述である場合、それは立会人の公判期日外の供述そのものであり、要証事実との関係で内容の真実性が問題となる。したがって、作成者の伝聞過程(321条3項)に加え、立会人の供述書としての伝聞例外要件を充たす必要があると解する。

  (3)ア 本件調書の「4 再現経過」のうち、(1)ないし(4)の部分は、Nが甲を見失った場所やすれ違った場所等を特定するものであり、単なる「現場指示」と評価し得る。
 一方、「(5) V方前で甲が視界から消えた状況」及び「(6) V方敷地内から甲が姿を現した状況」の立会人の説明部分は、Nの記憶に基づく過去の目撃事実を語るものであり、現場供述にほかならない。
 また、添付写真のうち、Nが場所を指示する姿が写っている奇数番号の写真9、11は現場指示の状況を撮影したものにとどまるが、Nの視点から目撃状況を再現して撮影した偶数番号写真10、12は、上記現場供述と一体となって過去の経験事実を再現するものである。
 したがって、(5)及び(6)の説明部分並びに偶数番号の写真は、要証事実との関係でNの公判期日外の供述と同視でき、別途Nの供述書として321条1項3号の要件を充たす必要がある。

   イ では、321条1項3号の要件を充足するか。
 まず、(5)及び(6)の説明部分については、本件調書に供述者たるNの「署名若しくは押印」がないため、同号の要件を満たさない。
 次に、写真10、12についてもNの署名押印はない。しかし、署名押印が要求される趣旨は、録取過程の正確性を担保する点にあるところ、写真は記録の過程が機械的操作によってなされるため、改ざんのおそれがなく正確性が担保される。
 したがって、写真については署名押印は不要と解される。
 もっとも、同号に基づく証拠能力が認められるためには、供述者が死亡や疾病等により「供述することができ」ないこと(321条1項3号本文)が必要である。
 本件では、現職警察官であるNがこれに該当するような事由は一切見当たらない。

  (4) よって、本件実況見分調書のうち、「4 再現経過」の(5)及び(6)の説明部分、並びにこれと一体となる写真10及び12については、伝聞例外の要件を充足せず、証拠能力が認められない。
 それ以外の部分については、見分主体Rが公判期日で真正作成供述を行えば、321条3項により証拠能力が認められる。

以上

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