参考答案 Law Practice 民事訴訟法〔第5版〕 問題22 郵便に付する送達

目次

 

【参考答案】

第1 後訴Ⅱ(Zに対する国家賠償請求)について

 1(1) Xは、裁判所書記官Pの違法な付郵便送達により損害を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求している。

  (2) 上記国家賠償請求が認められるためには、①国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、②その職務を行うについて、③故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたこと、が必要である。

  (3) 裁判所書記官Pは、国の「公務員」であり、送達事務は、裁判所書記官の固有の職務権限に属する(民事訴訟法(以下法令名省略)98条1項、同条2項)から、送達の実施は「公権力の行使」たる「職務」に該当する。
 また、Xは敗訴判決の確定により弁済を余儀なくされ、手続関与の機会を奪われたことによる「損害」を被っている。
 したがって、本件においては、PがXの就業場所を不明と判断して付郵便送達を実施した行為の「違法」性および「過失」の有無が問題となる。

2 大量の事件を効率的に処理する要請から、付郵便送達の実施要件の認定に必要な資料収集等の方法は、原則として書記官の合理的な裁量に委ねられており、相当と認められる方法により収集した資料に基づき、就業場所の存否を判断すれば足りる。
 もっとも、付郵便送達は、発送の時点で送達が完了したとみなされる(107条3項)という強力な効力を有し、受送達者の手続保障を著しく後退させる危険を伴う。
 したがって、その判断は慎重になされるべきであり、書記官が認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がある場合には、裁量権の逸脱・濫用として国賠法上「違法」となると解する。

 3(1) 本件において、Pが付郵便送達を実施した判断の基礎は、Yの担当者からの回答書である。しかし、同回答書は「Xの就業場所は不明であるが1カ月で出張から戻る」というものであった。「出張中」であるならば出張先という就業場所が存在するはずであり、両者は矛盾している。また、Yは1か月後の帰還時期を正確に把握していることから、Yの調査不足や不自然さが明白に疑われる内容であった。にもかかわらず、PはR社への照会等の追加調査を行うことなく、同回答書をそのまま判断の基礎としている。かかるPの判断過程には明らかな考慮不尽があり、裁量の逸脱・濫用が認められる。

  (2) また、仮に、判断の基礎となる資料収集自体に問題がなかったとしても、付郵便送達という手続を選択した点においても問題がある。
 107条1項が「することができる」と規定するように、要件を満たしても付郵便送達を実施するかは、書記官の裁量が認められる。本件では、Xが1カ月で出張から戻る日程が判明しているのであるから、手続保障を重視し、帰還を待って住所での交付送達を試みる余地が十分にあった。さらに、Xの家族が住所地に居住していることが判明している以上、夜間等の在宅時を狙って補充送達(106条1項)を試みることも可能であった。これらを一切試みず、漫然と付郵便送達を実施したという手続選択は、Xの手続保障の重要性に照らして著しく合理性を欠き、裁量権の逸脱・濫用にあたる。

  (3) 以上より、本件におけるPの送達事務には、判断過程および手続選択の両面において裁量権の逸脱・濫用があり、国賠法上「違法」である。また、職務上の注意義務に違反しているため、Pの「過失」も認められる。
 そして、Pの違法な付郵便送達の結果、Xは前訴が係属している事実を知る機会を完全に奪われ、防御権を一切行使できないまま欠席判決を受け、これが確定するに至った。これにより、Xは手続に関与する機会を不当に奪われたことによる精神的損害、および同判決に基づく弁済を余儀なくされたことによる財産的損害を被っており、Pの違法行為とこれらの損害との間には相当因果関係が認められる。

4 よって、国家賠償法1条1項の要件を充足し、裁判所は、Zに対して損害額等を認定したうえで、後訴Ⅱの請求を認容する判決をするべきである。 

第2 後訴Ⅰ(Yに対する不法行為に基づく損害賠償請求)について

1 請求①(敗訴判決による損害賠償請求)について

  (1) Xは、Yの誤回答により敗訴判決を受け、同判決に基づき弁済を余儀なくされたとして、弁済額相当の損害賠償を求めている。
 しかし、前訴判決は、XがYに対して貸金返還債務を負担するという権利関係について既に確定し、既判力が生じている(114条1項)。そうすると、後訴における請求①は、前訴確定判決で命じられた債務の履行を不法行為による「損害」と構成し、実質的にその返還を求めるものであり、前訴判決の既判力と実質的に矛盾・抵触するものといえる。そのため、原則として、既判力の遮断効により、かかる請求は許されない。
 そこで、例外的にかかる請求が許容されないか問題となる。

  (2) 既判力の趣旨は、紛争の蒸し返しを防止し、法的安定性を図る点にある。そのため、確定判決の成立過程に手続保障を欠く重大な瑕疵があったとしても、再審の訴え(338条)によって判決が取り消されない限り、その効力を否定できないのが原則である。
 もっとも判決が当事者の不正な行為によって取得された場合にまで、常に既判力を貫徹させることは、具体的妥当性を著しく害する。そこで、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限り、例外的に、判決の効力を排除し、不法行為に基づく損害賠償請求が許容されると解する。
 具体的には、①当事者の一方が相手方の権利を害する意図をもって、②作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正行為を行い、③その結果、本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反すると評価できる場合に、上記特別の事情に当たると解する。

  (3) 確かに、Yの担当者は、Xから出張前に「郵便物はR社気付で送付してほしい」との要望を受けていたにもかかわらず、具体的な調査をしないまま書記官Pに対して「就業場所不明」と回答している。
 しかし、職権送達主義の下では、送達に関する調査・資料収集の責任は本来裁判所にあり、当事者であるYは誠実な調査義務を負うにとどまる。Yが具体的な調査を怠った行為は、かかる調査義務に違反する過失とは評価し得るものの、Yは回答において「1か月で出張から戻る」という不利益な事実も併せて正直に記載している。このような回答内容からすれば、YがXの権利を積極的に害する意図(要件①)をもって、Xの訴訟関与を妨げたり裁判所を欺罔するなどの不正行為(要件②)を行ったとまでは認め難い。
 したがって、Yの行為が著しく正義に反すると評価できる場合(要件③)には当たらず、本件においては上記「特別の事情」があるとはいえない。

  (4) よって、原則通り既判力の遮断効が及び、裁判所は請求①を棄却する判決をするべきである。

2 請求②(精神的損害の損害賠償請求)について

  (1) Xは、前訴に関与する機会を奪われたことによる精神的損害の賠償を求めている。この請求が前訴確定判決の既判力と矛盾するか否かが問題となる。

  (2) この点、手続に関与する機会を奪われたこと自体に対する慰謝料等の精神的損害の賠償請求は、前訴の勝敗や確定した実体的な権利関係そのものを覆すものではなく、純粋に手続に関与する法的利益の侵害を問うものである。
 したがって、このような請求は、前訴確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾・抵触関係にはなく、既判力によって妨げられないと解する。

  (3) Yの担当者は、Xから出張前に「郵便物はR社気付で送付してほしい」との要望を受けており、容易にXの連絡先や就業場所を把握し得たにもかかわらず、具体的な調査を行わずに漫然と書記官Pに対して「就業場所不明」と回答している。かかるYの行為には、訴えを提起する者として相手方の手続関与に配慮すべき注意義務に違反する過失が認められる。
 そして、上記Yの過失ある誤回答の結果、Pにより付郵便送達が実施され、Xは前訴が係属している事実を知らないまま欠席判決を受けた。これにより、Xは自らの責めに帰すべき事由なく、訴訟手続に関与し防御権を行使するという「法的に保護される利益」を侵害された。
 また、手続に関与する機会を不当に奪われたことにより、Xには精神的苦痛という「損害」が発生しており、Yの過失行為との間に相当因果関係も認められる。

  (4) よって、Yの不法行為が成立し、裁判所は損害額等を認定したうえで、請求②を認容する判決をするべきである。

以上

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