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【参考答案】
1 Aによる本件申立ては認められるか。本件文書は、被疑事件に関して作成された供述調書であるから、「刑事事件に係る訴訟に関する文書」(民事訴訟法(以下法令名省略)220条4号ホ)に該当し、一般的提出義務を負わない。
もっとも、同号の除外事由に該当する文書であっても、同条3号後段の「法律関係文書」に該当する場合には提出義務が生じるため、その該当性が問題となる。
2(1) 220条3号後段の趣旨は、挙証者が文書の記載内容に一種の支配権を有する場合に提出義務を認める点にある。
そこで、「法律関係について作成された」文書とは、法律関係それ自体を記載した文書に限らず、当該法律関係に関連性のある事項を記載した文書であって、その法律関係を明らかにする目的で作成されたものも含むと解する。
(2) 本件文書である供述調書は、AおよびBの被疑事件の捜査過程において、捜査機関と被疑者等との間に形成された法律関係に関連のある事実が記載され、その法律関係を明らかにする目的で作成されたものであるといえる。
したがって、法律関係文書に該当する。
3(1) もっとも、本件文書が法律関係文書に該当するとしても、直ちに提出義務が認められるわけではない。本件文書は、被疑事件の捜査段階で作成された供述調書であり、刑事訴訟法47条の「訴訟に関する書類」に該当するところ、同条本文は公判開廷前の書類の非公開を原則としているからである。
そこで、法律関係文書に該当する場合であっても、文書所持者は同条に基づき提出を拒絶することができるか。
(2) 刑事訴訟法47条本文が、訴訟に関する書類の公判開廷前の公表を原則として禁止している趣旨は、関係者の名誉・プライバシーの保護や、捜査・公判への不当な影響の防止にある。他方、同条ただし書は公益上の必要等がある場合の例外的な開示を認めており、その要否の判断は、文書保管者の合理的な裁量に委ねられていると解される。
そこで、法律関係文書に該当する文書であっても、保管者が同条に基づき提出を拒否したことが、①当該文書を民事訴訟において取り調べる必要性の有無・程度、②開示による弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用するものであると認められるときに限り、裁判所は提出を命ずることができると解する。
(3) 本件において、Aは既に詐欺罪での有罪判決が確定している。Aが本件訴訟において「共謀の事実はなかった」として不法行為の成立を争うにあたっては、共犯者とされるBの証人尋問を申し出たり、本件刑事公判ですでに提出された証拠類の閲覧・謄写を行って提出することで代替可能であると考えられる。そうであれば、あえて本件刑事公判に提出されなかった本件文書を取り調べることが、Aの主張事実の立証にとって必要不可欠とまではいえない。
他方で、本件文書は犯罪捜査の過程で作成された供述調書であり、Bの供述のみならず、事件に関係する第三者の名誉やプライバシーに関わる事項が記載されている可能性が高い。これらが民事訴訟という公開の場で開示されることになれば、関係者の権利利益が侵害される具体的おそれがあるといえる。
以上を考慮すれば、Aによる立証の必要性は代替手段があるため低く、他方で開示による弊害は大きい。したがって、保管者である検察官等が「公益上の必要」がないとして本件文書の提出を拒否した判断は合理的であり、裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用するものであるとは認められない。
4 以上より、本件文書についてYは提出義務を負わない。よって、裁判所は本件申立てを認めることはできない。
以上

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