スポンサーリンク

参考答案 基礎演習行政法〔第2版〕第Ⅰ部 法的手段の選択 第6問 差止め訴訟と取消訴訟

目次

【答案構成】

第1 設問1について

1 A市の主張(Xの差止め訴訟及び仮の差止めの申立ては不適法である。)

 2(1) 差止め訴訟についての具体的主張内容:「重大な損害を生ずるおそれ」(行訴法37条の4第1項)の要件を欠き、不適法である。

  (2) 規範定立(差止め訴訟における重損要件)

  (3) 当てはめ(本件損害は財産的損害。撤去命令後に取消訴訟と執行停止を申し立てることでXの権利は十分に保全可能。)

3 仮の差止めについての具体的主張内容(本案である差止め訴訟が不適法である以上、その前提を欠く仮の差止めの申立てもまた不適法。)

第2 設問2について

1 規範(行政上の強制執行は法律の根拠を要する。個別法に定めがない場合、一般法である行政代執行法が適用される(行政代執行法1条)。)

2 当てはめ(本件は代替的作為義務→A市は行政代執行法に基づき、戒告、通知を経て代執行を行うことができる。)

第3 設問3について

1 Xが、いかなる行為の差止めを求めるか(代執行手続の進行を阻止するため、その端緒となる「戒告」の差止め)

2 差止め訴訟の訴訟要件の列挙→⑤・⑥・⑦・⑧は問題とならないため簡単に当てはめ→①・②・③・④について以下、検討。

 3(1)ア 規範定立(①「処分」性の判断基準)

   イ 当てはめ(規範においては記載を省略したものの、処分性の判断要素である(ⅰ)個別具体性、(ⅱ)対外性、(ⅲ)権力性、(ⅳ)法効果性について、それぞれ検討し、処分性を肯定) 

  (2)ア 規範定立(②「一定の」意義と蓋然性の判断基準)

   イ 当てはめ(「一定の」については問題とならないため、簡単に当てはめ。蓋然性につき、撤去命令が発令された事実だけでは、直ちに戒告がされるとまではいえず、蓋然性を欠くと評価。)

  (3)ア 規範定立(差止め訴訟における重損要件)

   イ 当てはめ(戒告後にその取消訴訟と執行停止を申し立てることで代執行手続の進行を停止でき、権利保全が可能。よって要件を欠く。)

  (4)ア 規範定立(「他に適当な方法があるとき」の判断基準)

   イ 当てはめ(先行処分である「撤去命令」の取消訴訟が、より直接的・根本的な解決手段として存在する。よって要件を欠く。)

4 結論

 

【参考答案】

第1 設問1について

1 A市は、Xが提起した撤去命令の差止め訴訟及び仮の差止めの申立てを退けるため、以下の主張をすべきである。

 2(1) 本件差止め訴訟は、訴訟要件を充足せず不適法であるため、却下されるべきであると主張する。具体的には、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の4第1項に定める「その処分又は裁決がされることにより生ずる重大な損害を生ずるおそれ」の要件を欠く点を主張する。

  (2) 差止訴訟は、処分前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるものであることから、差止訴訟による救済の必要性が要求される。
 したがって、「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解すべきである。
 また、重大な損害の判断は、行訴法37条の4第2項の考慮勘案事項に従って判断される。

  (3) 本件でXに生じうる損害は、本件物件である物置を撤去されることによる財産的損害である。これは、生命・身体や営業の自由に加えられる制約と比較すれば、その性質・程度が大きいとは言えない。
 また、Xは、撤去命令が発令された後、直ちにその取消訴訟を提起することができる。同時に、執行停止の申立て(行訴法25条2項)をすることができる。この執行停止が認められれば、本案訴訟の判決が確定するまで撤去命令の効力や執行が停止され、Xは物置の撤去を免れることができる。そして、物置の撤去は一度なされると原状回復が困難であることから、執行停止の要件である「回復の困難な損害」が認められる可能性は十分にある。
 そうであるならば、Xの権利利益は、処分がされた後に取消訴訟と執行停止を申し立てることによって、十分に保全されると言える。

3 以上より、本件で生じうる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであって、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものとはいえない。
 したがって、本件差止め訴訟は「重大な損害を生ずるおそれ」の要件を充足せず、不適法である。

第2 設問2について

1 行政上の義務履行を強制的に実現する手段として、代執行、執行罰、直接強制、強制徴収があるが、いずれも法律の根拠を要する。
 しかし、本件では、都市公園法に義務履行確保のための特別の定めが存在しない。このような場合、行政上の義務の履行確保に関する一般法である行政代執行法が適用される(行政代執行法1条)。

2 本件撤去命令は、代替的作為義務を課すものであるから、行政代執行法2条の要件を満たす限り、A市は、戒告(行政代執行法3条1項)、代執行令書による通知(行政代執行法3条2項)を経て、代執行により、本件物件の撤去命令に基づく義務履行確保が可能である。

第3 設問3について

1 行政代執行は、①戒告、②代執行令書による通知、③代執行の実施という一連の手続により行われる。そして、撤去命令が出された直後の段階で、代執行手続の進行を阻止するためには、その端緒となる①戒告の差止めを求めることが考えられる。戒告がされなければ、その後の手続は進まないためである。
 そこで、Xによる戒告の差止め訴訟の提起は適切といえるか。

2 差止め訴訟の要件は、①処分性(行訴法3条2項)、②一定の処分・裁決がなされる蓋然性(行訴法3条7項)、③重大な損害を生ずるおそれ(行訴法37条の4第1項、第2項)、④補充性(行訴法37条の4第1項但書)、⑤原告適格(行訴法37条の4第3項)、⑥狭義の訴えの利益、⑦被告適格(行訴法38条による行訴法11条の準用)、⑧裁判管轄(行訴法38条による行訴法12条の準用)である。
 このうち、戒告の名宛人であるXに⑤原告適格が認められること、戒告を行おうとするA市に⑦被告適格が認められることは明らかである。また、戒告がされれば代執行を受ける危険が現実化するため、⑥狭義の訴えの利益も認められ、⑧裁判管轄についても適切な裁判所へ提起することで足りるため特段の問題はない。
 しかし、残る要件①・②・③・④につき、本件の事案に照らして、その充足性に検討すべき点があるため、以下これらの点について個別に検討する。

 3(1)ア ①「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成し、または、その範囲を確定することを法律上認められているものをいう。

   イ 戒告は、公園管理者であるA市が、特定の者であるXに対し、特定の義務違反を理由として行うものであり、個別具体性を有する。また、行政内部の行為ではなく、外部の私人であるXに対して行われるから対外性も認められる。さらに、A市がXの意思にかかわらず一方的に行う行為であるから、権力性も有する。
 確かに、物件の撤去義務は先行する撤去命令によって既に発生しており、戒告自体が新たな義務を課すものではない。しかし、行政代執行法上、戒告は代執行手続の第一段階として法律に定められた手続であり、この戒告がなされることにより、A市は次の代執行令書の発付という段階に進むことが可能となり、代執行手続が適法に開始されるという法律上の効果が発生する。同時に、名宛人であるXは、単なる義務違反者から、代執行という強制執行を受けるべき具体的な法的地位に立たされることになる。
 したがって、戒告はXの法的地位に直接的な影響を及ぼすものといえ、法効果性が認められる。

  (2)ア 「一定の」処分とは、対象となる処分について裁判所が差止訴訟の要件を審理・判断できる程度に特定されていることで足りる。
 また、処分が「されようとしている」、すなわち、蓋然性を有するかは、実務上の運用等から、事実上可能性があるか否かにより判断する。

   イ 「一定」について、本件差止め請求は、対象が戒告であり、裁判所が判断可能な程度に特定されているから充足する。
 しかし、その処分の蓋然性につき、A市が撤去命令を発したという事実だけでは、直ちに代執行手続に着手し、戒告を「されようとしている」とまではいえないのが通常である。行政としては、Xによる任意の履行を期待し、説得を続ける段階も考えられるからである。
 したがって、②処分の蓋然性要件を充足しない。

  (3)ア 差止め訴訟は、処分前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるものであることから、差止め訴訟による救済の必要性が要求される。
 したがって、「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解すべきである。
 また、重大な損害の判断は、行訴法37条の4第2項の考慮勘案事項に従って判断される。

   イ 戒告によってXに直接生じる損害は、代執行手続が開始され、最終的には本件物件が強制的に撤去されるという危険である。これはXの財産権に対する重大な制約といえる。
 しかし、仮に戒告が発せられたとしても、Xは直ちに戒告の取消訴訟を提起することができ、併せて執行停止の申立て(行訴法25条2項)を行うことが可能である。この執行停止決定によれば、代執行令書の発付や代執行の実施といった後続手続は、本案訴訟の判決が出るまで停止される。これにより、本件物件が物理的に撤去されるという事態は、ひとまず回避されることになる。
 そうであるならば、Xに生じうる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであって、事前の差止めでなければ救済が困難であるとはいえない。
 したがって、本件における戒告の差止め訴訟は、③「重大な損害を生ずるおそれ」の要件を充足しない。

  (4)ア 「他に適当な方法があるとき」とは、差止め訴訟によるのと同等以上に、当該処分がされることによる損害を直接的かつ根本的に避けることが可能な、より適切な他の訴訟手段が存在する場合をいうと解される。
 具体的には、差止めを求めようとする処分の前提となる先行処分が存在し、その先行処分の取消訴訟を提起することによって、後続する処分の根拠そのものを失わせることができるような場合がこれにあたる。

   イ Xが差止めを求めようとしている戒告は、先行する撤去命令によって課された義務の不履行を理由として、代執行手続を開始するために行われるものである。したがって、撤去命令は、戒告の前提となる先行処分にあたる。
 そうであるならば、Xは、撤去命令の取消訴訟を提起し、その中で処分の違法性を主張し、その効力を争うことができる。そして、仮にXの主張が認められ、撤去命令の取消判決が下されれば、その前提を失ったA市は、もはや戒告を発することはできなくなる。
 このように、撤去命令の取消訴訟は、後続する戒告の根拠を根本から失わせるものであり、損害を直接的かつ根本的に避けることが可能な、より適切な訴訟手段といえる。
 したがって、④補充性要件を欠く。

4 よって、Xによる戒告の差止め訴訟は、訴訟要件②・③・④を欠くから、不適法であり、その提起は適切とはいえない。

以上

コメント