目次
【答案構成】
第1 設問1について
1 規範定立(要件裁量の判断基準)
2 当てはめ・結論
第2 設問2について
1 従来の審査手法(社会観念審査)について
2 近年の審査手法(判断過程審査)について
第3 設問3について
1 Xの主張すべき内容の提示
2 規範定立(裁量権の逸脱濫用の判断基準)
3 当てはめ(A民族の文化に与える影響の考慮遺脱を認定)
4 結論
【参考答案】
第1 設問1について
1 要件裁量とは、法定された処分要件が満たされているか否かの判断について、行政庁に認められる判断の余地をいう。行政裁量の有無は、処分の根拠法令の文言、処分の内容および性質を考慮して決せられる。
2 土地収用法(以下「法」という。)20条3号は、事業認定の要件として「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」と規定している。この要件は、いわゆる不確定概念を用いている。そして、本問の前提によれば、当該要件は、事業によって得られる公共の利益と、失われる公共的又は私的利益とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に充足されると解されている。
このような利益衡量を行うにあたっては、どのような利益を抽出し、それらにどのような重みづけを行うかについて、高度な専門技術的・政策的判断が不可欠である。
したがって、法は、かかる判断を第一次的には専門的知見と公益の実現に責任を負う行政庁の合理的な判断に委ねる趣旨と解されるから、法20条3号の要件充足性判断について、国土交通大臣に要件裁量が認められる。
第2 設問2について
1 従来、裁判所が行政庁の裁量判断を審査するにあたっては、行政庁の判断を尊重し、その判断が「社会観念上著しく妥当性を欠く」場合に限り、裁量権の逸脱・濫用として違法とするという社会観念審査が主に用いられてきた。
この社会観念審査は、結果である行政庁の最終的な判断内容のみに着目するものであり、司法審査が抑制的であるため、審査密度は低いと評価されている。
2 そこで、近年の最高裁は、行政庁の最終的な判断そのものではなく、判断の形成過程に着目し、その過程に看過しがたい過誤がないかを審査する判断過程審査を用いることで、裁量審査の密度を高めている。
具体的には、行政庁が判断を行うにあたり、①本来考慮すべき事項を全く考慮しないこと(考慮遺脱)、②考慮してはならない事項を考慮すること(他事考慮)、③考慮した事項に対する評価が重要な事実の基礎を欠く、または、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くこと等の判断過程における不合理な点に着目した審査を手法をいう。
上記、判断過程に過誤があれば、それに基づいてなされた最終判断も不合理である可能性が高いとして、裁量権の逸脱・濫用にあたり違法であると評価する。
第3 設問3について
1 Xは、本件事業認定の取消訴訟における本案上の主張として、本件事業認定は、国土交通大臣の裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)に当たり、違法であると主張すべきである。
2 本件事業認定には、要件裁量が認められるものの、裁量権の逸脱・濫用があれば違法となる(行訴法30条)。具体的には、判断の過程において、考慮すべき事情を考慮せず(考慮遺脱)、裁量処分を行った場合には、当該処分は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
3 法20条3号の比較衡量を行うにあたっては、事業により失われる利益を正当に評価する必要があるところ、本件事業の対象土地は、先住民族たるA民族の聖地であり、その独自の文化が根付いた場所である。そして、A民族の文化を享有する権利は憲法13条によって保障されていることからすれば、本件事業がA民族の文化に与える影響は、比較衡量において当然に考慮されるべき重要な事項である。
にも関わらず、国土交通大臣は、本件事業がA民族にいかなる影響を及ぼすかということについてまったく検討しなかった。これは、判断過程において本来考慮すべき事項を考慮しなかった考慮遺脱に該当し、本件事業認定には裁量権の逸脱・濫用が認められる。
4 よって、本件事業認定は違法であり、取り消されるべきであると主張すべきである。
以上

コメント