スポンサーリンク

参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題35 違法行為の差止請求

目次

【答案構成】

 1 設問に対する応答(株主Aは、Bによる乙社株式の総数引受契約の履行を阻止するため、本件契約の差止請求訴訟を提起し、併せて、Bの業務執行を差止める仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てるべき。)
 +(仮処分の要件充足性:被保全権利+保全の必要性の説明)

 2 規範(違法行為差止請求の要件:① 6箇月前から引き続き株式を有する株主であること、 ② 取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をするおそれがあること、③ 当該行為によって株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあること)

3(1) 当てはめ1(Aは甲社の共同創業者であり、設立以来3万株を保有=要件①充足)

(2)ア 問題提起(Bによる本件契約の履行は、取締役会決議を欠く点で法令違反。以下、本件契約が決議を要する理由(イ・ウ部分)と決議が存在しないこと(エ部分)を検討)

  イ 本件契約が取締役会決議を必要とする理由1(356条1項2号「第三者のために」株式会社と取引をする場合=第三者の名義において取引をすること。
 →甲社取締役Cが、乙社(第三者)代表取締役として、乙社名義で甲社との間で本件契約を締結。→本件契約は直接取引に該当→その締結・履行には取締役会の承認が必要。)

  ウ 本件契約が取締役会決議を必要とする理由2(取締役会設置会社において「重要な財産の譲受け」は取締役会の法定決議事項(362条4項1号)。「重要な財産の譲受け」の判断基準は(ⅰ)~(ⅳ)の総合考慮。
 →本件契約の払込金額1億2500万円は、甲社総資産10億円の12.5%、経常利益1000万円の12.5倍にものぼる高額な支出((ⅰ)・(ⅱ))。当該資金は不採算店舗整理+新規出店という経営戦略の根幹に関わるもの=本件契約の履行が会社の経営に与える影響は極めて大((ⅲ)・(ⅳ))。
 →本件契約の締結・履行は「重要な業務執行」に該当=決定には取締役会決議が必要。)

  エ 当てはめ2(取締役会決議の欠缺:B及びCは、取締役D、Eに対して個別に説明したにすぎず、取締役間の十分な議論を経て決議を行われたとはいえない)
 →小結論(Bの行為は取締役会決議を欠く点で法令違反あり=要件②充足)

(3) 当てはめ3(本件契約の履行→甲社は不採算店舗撤退と新規出店という事業再建の機会を失う。→金銭賠償では容易に回復できない損害。
 払込先の乙社は資金繰りに窮している→事後的返還請求による回復困難。
 →本件契約の履行によって、甲社に「回復することができない損害」が生ずるおそれあり(要件③充足))

 4 結論

 

【参考答案】

 1 株主Aは、Bによる乙社株式の総数引受契約(以下、「本件契約」という。)の履行を阻止するため、本件契約の差止請求訴訟(会社法(以下法令名省略)360条1項)を提起し、併せて、Bの業務執行を差止める仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てるべきである。
 なお、本件仮処分の申立ては、360条1項に基づく差止請求権を被保全権利とし、払込期日が目前に迫っていることから保全の必要性も認められる。

 2 甲社は、公開会社かつ監査役設置会社であるから、株主による取締役の違法行為差止請求が認められる要件は、① 6箇月前から引き続き株式を有する株主であること(360条1項)、 ② 取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為(以下、「法令違反行為」という。)をするおそれがあること、③ 当該行為によって株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあること(360条1項、同条3項)が必要である。

3(1) Aは甲社の共同創業者であり、設立以来3万株を保有している(要件①充足)。

(2)ア Bによる本件契約の履行は、必要な取締役会決議を欠く点で法令に違反する。以下、本件契約が決議を要する理由と、決議が存在しないことについて検討する。

  イ 356条1項2号が定める「第三者のために」株式会社と取引をする場合とは、第三者の名義において取引をすることを意味する。
 本件では、甲社の取締役であるCが、第三者である乙社の代表取締役として、乙社の名義で甲社との間で本件契約を締結している。したがって、本件契約は同号の利益相反取引(直接取引)に当たり、その締結・履行には取締役会の承認が必要である(365条1項)。

  ウ 362条4項1号は、取締役会設置会社において「重要な財産の譲受け」を取締役会の法定決議事項と規定する。「重要な財産の譲受け」に当たるか否かは、(ⅰ)当該財産の価額、(ⅱ)当該財産が会社の総資産に占める割合、(ⅲ)保有目的、(ⅳ)行為の態様、(ⅴ)会社における従来の取扱いなどの事情を総合考慮して判断する。
 本件契約の払込金額1億2500万円は、甲社総資産10億円の12.5%、経常利益1000万円の12.5倍にものぼる高額な支出である((ⅰ)・(ⅱ))。そして、当該資金は不採算店舗の整理と新規出店という甲社の経営戦略の根幹に関わるものであったことからすれば、本件契約の履行が会社の経営に与える影響は極めて大きい((ⅲ)・(ⅳ))。
 したがって、本件契約の締結・履行は「重要な業務執行」にあたり(362条4項)、その決定には取締役会決議が必要である。

  エ 以上より、本件契約の締結・履行には、利益相反取引の観点(365条1項)および重要な業務執行の観点(362条4項)の双方から取締役会の承認決議が必要である。
 にもかかわらず、B及びCは、取締役D、Eに対して個別に説明したにすぎず、取締役間の十分な議論を経て決議を行うという法が取締役会に求めた趣旨に照らして有効な取締役会決議があったとはいえない。
 したがって、Bの行為は法令に違反し、要件②を充足する。

(3) 本件契約の履行により、甲社は不採算店舗の撤退と新規出店という事業再建の機会を失うことになる。これは金銭賠償では容易に回復できない損害である。
 また、払込先である乙社は資金繰りに窮しており、一度支払いがなされれば、事後的にその返還を求めることは極めて困難であると予想される。
 したがって、本件契約の履行によって、甲社に「回復することができない損害」が生ずるおそれが認められる(要件③充足)。

 4 以上より、Aによる差止請求は要件をすべて充足するから、Aが講じるべき仮処分を伴う差止請求は認められる。

以上

コメント