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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題43 法令違反と取締役の責任

目次

【答案構成】

 1(1) 請求の特定(A社取締役Y₁ないしY₃に対し、株主代表訴訟により、任務懈怠責任に基づくA社が被った損害93億5020万円の損害賠償請求権)

(2) 423条の要件(①「役員等」(423条1項)、② 会社に対する任務懈怠、③ 損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②についての帰責事由の存在(故意・過失))
 問題提起(①「役員等」である取締役Y₁ないしY₃に任務懈怠が認められるか。)

 2 規範定立(任務懈怠の意義+「法令」の範囲)

 3(1) 要件②当てはめ1(Y₁・Y₂の焼売販売継続行為)(Y₁は、Cの情報により、本件焼売に添加物Tが含まれているという食品衛生法令違反の事実を認識→Y₂は報告により認識+了承→特約小売店への影響等を考慮し、直ちに販売を中止せず、販売を継続。=A社を名宛人とする食品衛生法に違反する業務執行→法令違反に該当。→Y₁及びY₂には、本件焼売の販売継続行為につき②任務懈怠あり。)

(2) 要件②当てはめ2(Cに対する口止め料の支払い)(法令違反事実を隠蔽する目的による行為→隠蔽行為は、会社の業務執行として著しく不合理=善管注意義務及び忠実義務に違反。→Y₁には口止め料としてCに5000万円を支払った行為に②任務懈怠あり。
 +Y₂も違法な販売継続という隠蔽方針を了承した→Y₁の業務執行の監視義務(362条2項2号)として、不法な支出を阻止しなかった点で、監視義務違反として②任務懈怠あり。)

(3) 要件②当てはめ3(Y₃はA社代表取締役として、他の取締役の業務執行を監視する広範な義務を負う(362条2項2号)。→Y₃は、添加物混入の事実を知り、Y₂らに事情を聞いている=同時点で、社内で重大な法令違反の疑いが生じているという特段の事情を認識。
 ⇔Y₃は抽象的な報告を受けただけで、具体的な事実関係の再調査や、取締役会への報告、自ら是正措置を講じることをせず、特段の指示をしなかった。→監視義務を怠ったものとして、善管注意義務違反にあたり、Y₃に②任務懈怠あり。)

 4(1) 要件③当てはめ(A社は、特約小売店の売上げ減少への営業補償として50億円、信頼回復キャンペーンの費用として20億円、在庫品の廃棄費用として3億円、営業利益の減少20億円、罰金20万円、Cへの口止め料5000万円、合計93億5020万円の③損害あり)

(2) 要件④当てはめ(本件での適法行為=Y₁らが添加物混入を認識した時点で、直ちに販売中止+事実公表+在庫破棄。→仮に適法行為をとっていれば、添加物T自体は健康への影響なく、他国では認められているもの→A社の信用失墜は最小限であった可能性高。
→損害は、在庫廃棄費用の3億円や、一時的な営業利益の減少程度にとどまった。
 →営業補償50億円、信頼回復費用20億円、莫大な営業利益減少20億円は、Y₁らの違法な販売継続・隠蔽工作とマスコミ報道によりA社の信用が決定的に失墜した結果生じたもの。
 →Y₁らの任務懈怠と④相当因果関係が認められる③損害の範囲は、任務懈怠行為そのものである口止め料5000万円+それ以外の損害93億20万円のうち、適法行為をとった場合でも生じたであろう損害額を控除した額の合計)

(3) 要件⑤当てはめ(Y₁及びY₂は、法令違反を認識しながら販売継続・隠蔽→故意または少なくとも過失あり。
 Y₃も、特段の事情を認識しつつ、具体的調査・是正措置を怠った監視義務違反に過失あり。)

 5 結論

 

【参考答案】

 1(1) 株主Xは、A社取締役Y₁ないしY₃に対し、株主代表訴訟(会社法(以下法令名省略)847条)により、任務懈怠責任(423条1項)に基づき、A社が被った損害93億5020万円の賠償請求をするものと考えられる。

(2) その要件は、①「役員等」(423条1項)、② 会社に対する任務懈怠、③ 損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②についての帰責事由の存在(故意・過失)である。
 そこで、①「役員等」である取締役Y₁ないしY₃に任務懈怠が認められるか。

 2 任務懈怠とは、善管注意義務(330条・民法644条)・忠実義務違反、および具体的法令違反(355条)をいう。
 この「法令」には、取締役自身を名宛人とする規定だけでなく、会社を名宛人とする全ての法令が含まれる。なぜなら、取締役は会社の業務執行者として、会社をして法令に違反させることのないようにする職務上の義務を会社に対して負っているためである。

 3(1) Y₁は、Cからの情報により、本件焼売に食品衛生法が禁止する添加物Tが含まれているという法令違反の事実を認識した。そして、Y₁はこれを専務取締役Y₂に報告し、Y₂の了承のもと、特約小売店への影響等を考慮し、直ちに販売を中止せず、販売を継続させている。これら行為は、A社を名宛人とする食品衛生法に違反する業務執行であり、法令違反に当たる。したがって、Y₁及びY₂には、本件焼売の販売継続行為につき②任務懈怠が認められる。

(2) Y₁がCに対し5000万円を支払った行為は、法令違反の事実を隠蔽する目的による行為である。このような隠蔽行為は、会社の業務執行として著しく不合理であり、善管注意義務及び忠実義務に違反する。したがって、Y₁には口止め料としてCに5000万円を支払った行為に②任務懈怠が認められる。
 また、Y₂もY₁から報告を受け、違法な販売継続という隠蔽方針を了承したことにつき、Y₁の業務執行の監視義務(362条2項2号)として、不法な支出を阻止しなかった点で、監視義務違反として②任務懈怠が認められる。

(3) Y₃はA社代表取締役であり、他の取締役の業務執行を監視する広範な義務を負う(362条2項2号)。Y₃は、添加物混入の事実を知り、Y₂らに事情を聞いているから、この時点で、社内で重大な法令違反の疑いが生じているという特段の事情を認識したと言える。
 にもかかわらず、Y₃はY₂らから問題はすでに対処済みとの抽象的な報告を受けただけで、販売が継続されているか、隠蔽工作はないか等の具体的な事実関係の再調査や、取締役会への報告、自ら是正措置を講じることをせず、特段の指示をしなかった。これは、代表取締役としての監視義務を怠ったものとして、善管注意義務違反にあたり、Y₃に②任務懈怠が認められる

 4(1) 本件において、A社は、特約小売店の売上げ減少への営業補償として50億円、信頼回復キャンペーンの費用として20億円、在庫品の廃棄費用として3億円、営業利益の減少20億円、罰金20万円、Cへの口止め料5000万円、合計93億5020万円の③損害を被っている。

(2) 本件での適法行為は、Y₁らが添加物混入を認識した時点で、直ちに販売を中止し、事実を公表し、在庫を破棄することだった。仮にこの適法行為をとっていれば、添加物T自体は健康への影響がなく、他国では認められているものであったことから、A社の信用失墜は最小限に抑えられた可能性が高い。そうすると、損害は、在庫廃棄費用の3億円や、一時的な営業利益の減少程度にとどまったといえそうである。
 一方で、現に発生した営業補償50億円、信頼回復費用20億円、莫大な営業利益減少20億円は、Y₁らが違法な販売を継続し、隠蔽工作を行ったことで、マスコミ報道によりA社の信用が決定的に失墜した結果生じたものと言える。
 したがって、Y₁らの任務懈怠と④相当因果関係が認められる③損害の範囲は、任務懈怠行為そのものである口止め料5000万円と、それ以外の損害93億20万円のうち、現に生じた損害額から、適法行為をとった場合でも生じたであろう損害額を控除した額の合計となる。

(3) Y₁及びY₂は、法令違反を認識しながら販売継続や隠蔽を行っており、故意または少なくとも過失が認められる(要件⑤充足)。また、Y₃も、特段の事情を認識しながら具体的な調査・是正措置を怠っており、監視義務違反につき過失が認められる(要件⑤充足)。

 5 以上より、その要件を充足するから、Y₁ないしY₃は、A社に対し、連帯して(430条)、上記4(2)の損害額の賠償責任を負う。
 よって、Xの請求は、上記損害額の範囲で認められる。

以上

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