参考答案 基礎演習行政法〔第2版〕第Ⅲ部 本案上の主張 第8問 行政手続法(1)

目次

【答案構成】

第1 設問1について

1 問題提起(Xの主張(処分基準未設定の違法性)は適切か。)

 2(1) 前提処理(本件処分は不利益処分である。)

  (2) 規範定立(不利益処分の処分基準の設定・公表の性質と例外の判断基準)

 3(1) 当てはめ1(努力義務である以上、単に設定されていないという事実だけでは直ちに違法とならない。)

  (2) 当てはめ2(先例の不存在・技術的困難性から、特段の事情を否定)

4 結論

第2 設問2について

 1(1) Xの主張(本件処分は意見陳述手続を欠き、行手法13条1項に違反する。)

  (2) Xの主張の具体的内容(本件処分は不利益処分であり、原則として弁明の機会の付与が必要。それが執られていないため違法)

 2(1) 予想されるA市の反論1(「緊急性」(行手法13条2項1号)があったため、手続省略は適法である。)

  (2) 規範定立(「緊急性」の解釈)

  (3) 当てはめ(時間的余裕があり、公益上の必要性も低いため、「緊急性」要件不充足→13条1項違反を認定)

 3(1) 予想されるA市の反論2(仮に手続違反があっても、実体上違法なのだから結論は変わらず、処分の取消事由にはならない。)

  (2) 規範定立(手続的瑕疵が処分の取消事由となるか。)

  (3) 当てはめ(意見陳述手続が全く執られていないこと=重要な手続の重大な瑕疵)

4 結論

第3 設問3について

1 問題提起(Xが本件処分に従わない場合、行政代執行は可能か。)

2 規範(行政代執行の要件として、義務が「代替的作為義務」であることを要する。)

3 当てはめ(本件処分の義務は「工事の中止」=不作為義務≠代替的作為義務)

4 結論

 

【参考答案】

第1 設問1について

1 X社は、本件処分に先立ち、行政手続法(以下「行手法」という。)12条1項に定められた処分基準が定められていなかった点を捉え、本件処分の違法性を主張しようとしている。このような、本件処分の違法性主張は適切か。

 2(1) 前提として、本件処分は、道路管理者が、道路法(以下「法」という。)71条1項柱書に基づいて、X社に工事の中止という義務を課すものであり、行手法2条4号所定の不利益処分に該当する。また、その適用除外規定はない。
 では、処分基準が定められていなかったことは行手法12条1項違反となるか。

  (2) 行手法12条1項は、行政庁に対し、不利益処分の処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう「努めなければならない」と規定する。この文言から、申請に対する処分の審査基準の設定・公表義務(行手法5条1項、同条3項)とは異なり、処分基準の設定・公表は、努力義務と解すべきである。
 もっとも、行政庁がその努力を著しく怠ったと評価できる特段の事情がある場合には、例外的に違法となりうる。

 3(1) 本件処分の処分基準の設定・公表が努力義務である以上、単に本件で処分基準が設定されていなかったという事実のみをもって、直ちに行手法12条1項に違反するものではない。

  (2) では、行政庁がその努力を著しく怠ったと評価できる特段の事情が存在するか。
 本件において、A市ではこれまで道路法71条1項に基づく処分を行ったことがなく、先例が存在しなかった。また、違法な盛土工事等の態様は様々であり、あらかじめ一般的な基準として処分基準を設けることには技術的な困難が伴うと考えられる。加えて、A市が漫然と努力義務を怠ったと評価すべき特段の事情も認められない。
 したがって、本件で処分基準が設定されていなかったとしても、そのことをもって行手法12条1項に違反し、本件処分が違法であると評価することはできない。

4 よって、Xの行手法12条1項に定められた処分基準が定められていなかったことを根拠とする本件処分の違法性主張は適切とはいえない。

第2 設問2について

 1(1) Xは、本件訴訟において、本件処分が意見陳述のための手続を欠いたまま行われたという行手法13条1項違反を主張すべきである。

  (2) 具体的には、上記第1-2(1)の通り、本件処分は不利益処分であって、行手法13条1項1号イ~ニのいずれにも該当しないから、処分の名宛人Xに対し、原則として弁明の機会の付与という意見陳述手続を執らなければならない(行手法13条1項2号)。にも関わらず、本件では、意見陳述手続が執られておらず、違法である。

 2(1) これに対し、A市は、本件は「公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため」(行手法13条2項1号)の場合に当たり、意見陳述手続を執る必要はなく、行手法13条1項違反はなかったと反論することが予想される。
 そこで、Xは、本件においては「緊急性」の要件を欠くことを以下の通り主張すべきである。

  (2) 「緊急」性とは、公益を確保するために行政庁に臨機の対応が求められている場合で、処分をするまでに意見陳述手続を執る時間的余裕がないことをいう。

  (3) 本件では、A市は、遅くとも本件処分の内部的な方針を決定した2014年6月25日には処分の必要性を認識していたにもかかわらず、実際に処分を発したのは約1ヶ月後の同年7月25日であった。意見陳述手続に要する期間が2週間程度であることを考慮すれば、A市が手続を執ることは時間的に十分可能であった。
 また、A市の担当者が現場を確認した6月24日時点で、盛土はほぼ完了し、道路としての外形を失っていた。とすれば、そこから2週間程度の手続を経たとしても、公益に回復しがたい損害が生じるような切迫した状況にはなく、本件処分を緊急に発することにより確保すべき公益も認められない。
 以上より、本件では時間的余裕があり、かつ公益上の必要性も低かったのであるから、行手法13条2項1号の「緊急性」の要件を充足しない。
 したがって、A市の手続省略を正当化する理由はなく、本件処分は意見陳述手続を欠いたものとして行手法13条1項に違反し、違法である。

 3(1) もっとも、A市は、仮に上記のとおり手続違反が認められるとしても、Xの行為が実体法である道路法上、違法であることは明らかであり、手続を経ても結論は変わらなかったのであるから、かかる手続上の瑕疵は処分の取消事由とならない、と再反論することが考えられる。
 そこで、処分の手続における瑕疵が、処分の取消事由となるかが問題となる。

  (2) 法律上、手続規定が設けられている意義は尊重されなければならないが、他方、手続の瑕疵をとらえて処分がやり直されたとしても処分結果に変更が生ずる可能性がない場合等においてまで処分を取り消すと、訴訟経済・行政経済に反するといえる。
 したがって、手続的瑕疵は、原則として取消事由にはあたらないが、例外として、当該手続的瑕疵が処分結果に変更可能性をもたらす場合か、重要な手続きに重大な瑕疵がある場合に限り、取消事由となると解する。

  (3) この点、行手法13条の意見陳述手続は、不利益処分の名宛人となるべき者の権利利益の保護を図る趣旨の規定である。上記趣旨に鑑みれば、意見陳述手続がまったくとられていないことは極めて重要な手続違反といえ、独立の取消事由となると解すべきである。

4 よって、本件行手法13条1項違反は、本件処分の取消事由となる。

第3 設問3について

1 Xが本件処分に従わない場合、行政側が行政代執行を行うことができるか。行政代執行法(以下、「代執行法」という。)2条の要件を充足するかが問題となる。

2 行政代執行法に基づく代執行が認められるためには、義務が「代替的作為義務」であることを要する。「代替的作為義務」とは、義務者に代わって他の者が行っても、その義務が履行されたのと同一の状態が実現できる性質の作為義務をいう。

3 本件処分によりXに課された義務は、「工事を中止せよ」という内容であり、これは「工事をしない」という不作為義務である。不作為義務は、行政庁が義務者に代わってしないという状態を実現することは観念できず、代替的作為義務にはあたらない。

4 よって、本件処分の不履行を理由として、行政代執行法に基づく代執行を行うことはできない。

以上

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