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参考答案 Law Practice 民事訴訟法〔第5版〕 問題72 訴訟承継の効果

目次

 

【参考答案】

第1 訴訟引受の可否について

1 Xは、係争建物をYから譲り受け、占有するZに対し、訴訟引受の申立て(民事訴訟法(以下法令名省略)50条1項)を行うことができるか。
 本件において、XのYに対する請求は「賃貸借契約終了に基づく建物収去土地明渡請求」である。これに対し、Zは契約当事者ではないため、Zに対する請求は「所有権に基づく建物退去土地明渡請求」となる。このように、旧請求が債権的請求、新請求が物権的請求であり、訴訟物が異なることから、直ちに同項の「訴訟の目的である義務」を承継したといえるかが問題となる。

2 この点、50条1項の趣旨は、訴訟係属中に係争物の譲渡等があった場合でも、判決の効力を承継人に及ぼすことで紛争の蒸し返しを防止し、訴訟経済を図る点にある。また、承継人は旧当事者のなした訴訟追行の結果を利用しうる関係にある。
 そこで、「訴訟の目的である義務」を承継したといえるためには、必ずしも旧債務そのものを承継したことを要せず、紛争の主体たる地位の承継があれば足りると解すべきである。具体的には、①新旧両請求において紛争の主要な争点が共通しており、②旧当事者による訴訟追行の結果を新当事者に及ぼすことが手続保障の観点から不当でない場合に、承継が認められる。

3 まず、XのYに対する請求の主要な争点は、建物所有を目的とする土地占有権原の有無であるところ、Yから建物を譲り受けたZにとっても、その建物を土地上に存置しうるか否かは、結局のところ当該敷地利用権の有無に帰着する。したがって、新旧両請求において紛争の主要な争点は共通しているといえる(①充足)。
 また、Zは係争物である建物をYから譲り受けた承継人であり、前主Yの占有権原の有無に依存する関係にある。そのため、Yによる訴訟追行の結果をZに及ぼしたとしても、Zに不意打ちを与えることにはならず、手続保障の観点から不当とはいえない(②充足)。
 以上より、Zは「紛争の主体たる地位」を承継したといえるから、50条1項の「訴訟の目的である義務」を承継したと認められる。

4 したがって、訴訟承継が認められ、XはZに訴訟を引き受けさせることができる。

第2 Yの権利自白の拘束力について

1 Zが訴訟を承継した場合、Zは、前主Yがなした「Xに土地所有権がある」旨の権利自白に拘束され、これを争うことができないのではないか。訴訟承継における訴訟状態の承継の範囲が問題となる。

 2(1) 訴訟承継がなされた場合、紛争解決の実効性と訴訟経済の観点から、承継人は被承継人が形成した訴訟状態を全面的に引き継ぎ、これに拘束されるのが原則である。
 この拘束力が認められる実質的根拠は、承継人の利益が前主の訴訟追行によって代表されており、それにより前主を通じて代替的な手続保障が与えられていたといえる点にある。

  (2) しかし、この前提を欠く場合、すなわち前主と承継人の利害が対立するなど、前主によって承継人の利益が十分に反映されていない特段の事情がある場合には、信義則上、訴訟状態の承継は制限されるべきである。
 具体的には、前主が自己の利益確保の観点からは慎重に行う必要のなかった訴訟行為の効果によって、その行為を慎重に行う必要のある承継人を拘束することは、手続保障の観点から許されない。したがって、このような場合、承継人は前主の自白等に拘束されず、独自の立場から主張・立証をなすことができると解する。

3 本件において、前主Yは、Xとの間に適法な賃貸借契約が存在するとの認識を有していた。そのため、仮にXの土地所有権を自白したとしても、賃借権の抗弁によって請求を拒絶できると考え、あえて所有権を争う必要性を感じず、慎重な配慮をすることなく便宜的に自白をしたものといえる。
 これに対し、承継人Zは、Xに無断でYから建物を譲り受けた者(民法612条)であり、Xから無断譲渡を理由に賃貸借契約の解除を主張されると、賃借権の抗弁が認められない可能性が高い法的地位にある。そのため、Zにとっては、Xの請求を拒絶するためには、「Xの所有権」そのものを争うことが重要となる。
 このように、YとZとでは利害状況が根本的に異なっており、Yのした自白はZの利益を代弁したものとは到底評価できない。したがって、Yが慎重に行う必要のなかった自白の拘束力を、これを争うことについて重大な利害を持つZに及ぼすことは、Zの手続保障を害し許されない。

4 よって、ZはYの権利自白に拘束されず、Xの土地所有権を争うことができる。

以上

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