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参考答案 Law Practice 憲法〔第3版〕 基本問題3 公務員の人権

Law Practice 憲法〔第3版〕
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【参考答案】

第1 国家公務員の争議行為を一律に禁止する法令の合憲性について

1 Xらは、国家公務員法(以下「法」という)98条2項による争議行為の一律禁止は、憲法(以下法令名省略)28条に違反すると主張している。

2 28条は、「勤労者」に対し、「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」、すなわち、労働基本権を保障している。
 そして、国家公務員も、自己の労働力を提供して生活の資を得ている者である点において、一般の「勤労者」と異なるところはないことから、原則として、公務員にも28条の保障する労働基本権が及ぶ。

3 これに対し、法98条2項は、国家公務員による争議行為を一律に禁止している。これは、28条により保障される争議権の行使を禁止するものであるから、28条の保障する労働基本権を制約する。

 4(1) 労働基本権は、経済的に劣位に立つ勤労者が使用者と対等な立場に立ち、その労働条件を維持・改善するために保障された、生存権とも密接に関連する重要な権利である。また、法98条2項は、争議行為そのものを一律に禁止するものであるから、制約の程度は大きい。
 他方、公務員は、15条2項の定める「全体の奉仕者」であり、その労務提供義務を国民全体に対して負うという地位の特殊性を有する。また、その勤務条件は、私企業の労働者と異なり、労使間の自由な交渉によってではなく、国会の制定する法律及び予算等によって定められるという特殊性との調整が必要となる。
 そこで、制約の目的が重要な利益の保護にあり、かつ、規制手段がその目的との間に実質的関連性を有するといえる場合には、憲法28条に違反しないといえる。

  (2) 法98条2項は、争議行為による公務の停廃を防止し、公務の円滑かつ安定的な運営を確保するとともに、法律及び予算による民主的な勤務条件決定過程を維持することを目的とするものと解される。公務の円滑な運営は国民生活の基盤に関わり、また、国会による民主的な勤務条件決定過程を維持することも憲法上重要であるから、これらの目的は重要なものといえる。
 そして、公務員の争議行為を禁止すれば、労務提供の停止による公務の停廃を防ぐことができる。また、公務員の勤務条件は、私企業の労働者と異なり、国会の制定する法律及び予算によって決定されるところ、争議行為によって政府に圧力を加えることを禁止することは、このような民主的な勤務条件決定過程を維持することにも資する。したがって、争議行為の禁止と上記目的との間には実質的関連性が認められる。
 もっとも、国家公務員の職務内容は多様であるから、国民生活への影響が特に大きい職種や、重大な支障を生じさせる態様の争議行為のみを禁止するなど、より制限的でない規制によって目的を達成することができるとも思われる。
 しかし、公務員は、実質的には国民全体を使用者として公共の利益のために勤務するものであり、各職務は行政組織の中で相互に関連しているため、その停廃は程度の差こそあれ公務の円滑な運営に影響を及ぼし得る。また、公務員の勤務条件は、職種ごとの労使間の自由な交渉ではなく、法律及び予算によって統一的かつ民主的に決定されるから、一部の職種について争議行為を認めれば、争議行為による圧力によってこの決定過程がゆがめられるおそれが残る。
 加えて、私企業では企業経営や市場を通じた抑制が争議行為に働くのに対し、公務員についてはこのような市場の抑制力が十分に働かない。他方、争議権の制約に対応して、人事院制度等の勤務条件を保障するための代償措置が設けられている。
 以上からすれば、職種や争議行為の態様等に応じた限定的な規制のみでは、上記目的を同程度に達成することは困難であり、これと同程度に目的を達成し得る、より制限的でない代替手段が存在するとはいえない。

5 したがって、法98条2項による争議行為の禁止は憲法28条に反しない。

第2 あおり行為を刑罰の対象とすることの合憲性

1 Xらは、争議行為を行ったこと自体ではなく、争議行為のあおり行為を行ったとして法110条1項17号により刑事責任を問われている。そこで、争議行為をあおる行為に刑罰を科すことが、憲法28条との関係で許されるかが問題となる。

2 28条の団体行動権は、勤労者が争議行為に参加することのみならず、労働組合が正当な争議行為を組織し、実施するために必要な範囲で組合員にその参加を呼びかけ、指令するなどの行為にも及ぶと解される。
 したがって、労働組合が正当な争議行為を組織・実施するために行う参加の呼びかけや指令等の行為も、28条の保障範囲に含まれる。

3 法110条1項17号は、争議行為の遂行を「共謀し、そそのかし、若しくはあお」る行為を刑罰の対象としており、正当な争議行為を組織・実施するための呼びかけや指令等についても刑罰を科すことにより、かかる団体行動権の行使を抑制するものである。
 したがって、法110条1項17号は、28条の保障する団体行動権を制約する。

 4(1) 28条の労働基本権は、生存権とも密接に関連する重要な権利である。また、法110条1項17号は、正当な争議行為を組織・実施するための行為をも処罰対象に含み得るのみならず、これに刑罰を科すものであるから、その制約の程度は大きい。
 他方、公務員の争議行為を禁止する必要性については前述のとおりであり、その禁止の実効性を確保する必要も認められる。
 そこで、法110条1項17号による制約が正当化されるためには、その目的が重要な利益の保護あり、かつ、刑罰という規制手段がその目的との間に実質的関連性を有する場合には、憲法28条に違反しないといえる。
 特に、刑罰が国家による強度の制裁であることに鑑み、その必要性については慎重に判断すべきである。

  (2) 法110条1項17号の目的は、法98条2項による争議行為禁止の実効性を確保し、違法な争議行為の発生・拡大を防止することにある。この目的は、公務の円滑な運営を確保するため重要である。
 また、あおり行為は他の職員に争議行為への参加を働きかけ、その発生・拡大を促進するものであるから、これを刑罰によって抑止することは上記目的の達成に資し、実質的関連性が認められる。
 もっとも、あおり行為に対して懲戒処分等の非刑罰的制裁を科すことや、処罰対象を違法性の強いあおり行為に限定することによっても、争議行為の発生・拡大を相当程度抑止し得るため、直ちに、あおり行為を刑罰によって規制する必要があるとはいえない。
 しかし、懲戒処分等の非刑罰的制裁は、公務員たる身分を前提とするため、公務員でない第三者によるあおり行為には及ばない。また、あおり行為は、単なる争議行為への参加とは異なり、他の公務員に働きかけて違法な争議行為を発生・遂行させる原動力となるものである。そうすると、懲戒処分等の非刑罰的制裁のみでは、このようなあおり行為を抑止し、違法な争議行為の発生・拡大を防止するという目的を同程度に達成できるとはいい難い。
 また、違法性の強弱によって処罰対象を区別することは、基準が曖昧となり、処罰範囲の明確性を害するおそれがある。加えて、争議行為は、一般に指令や働きかけによって開始・継続されるものであるから、争議行為に通常随伴する指令・呼びかけ等を処罰対象から除外すれば、かえって違法な争議行為の原動力となる行為が規制から脱落し、争議行為禁止の実効性を十分に確保できない。
 したがって、懲戒処分等の非刑罰的制裁又は違法性の強いあおり行為に限定した処罰によって、法110条1項17号による処罰と同程度に目的を達成することができるとはいえず、より制限的でない代替手段が存在するとはいえない。

5 したがって、Xらのあおり行為について、法110条1項17号による刑罰を科すことも、28条に反しない。

以上

【悩みどころ】

 本件争議行為は、警職法改正反対を目的とする政治ストであり、労働条件の維持・改善を目的とする争議ではない。そのため、本件Xらの具体的行為について憲法28条の保障の有無を検討すれば、その行為は、そもそも28条の保障範囲外であるとして、保障範囲の段階で検討を終える余地があると考えられる。
 また、日本の裁判所が付随的違憲審査制を採用していることからすれば、Xらの具体的行為に憲法28条の保障が及ばないのであれば、本件の解決に必要な限度を超えて、28条による保障を受ける争議行為に適用される場合までを含めて、法98条2項及び110条1項17号の合憲性を判断する必要があるのか、という疑問もある。
 もっとも、本問は「この事例に含まれる憲法上の問題点」を問うことで、国家公務員の争議行為の禁止及びそのあおり行為の処罰という法制度自体の憲法28条適合性を検討することを予定していると考えられる。そこで、本文では、Xらの行為が政治ストであるという具体的事情から、憲法28条の保障範囲外であるとして検討を終えるといった構成にはしなかった。そのため、あえて、本件争議行為が政治ストであるという事情に触れず、国家公務員にも原則として争議権が保障され、保障範囲に含まれることを前提に、各規定による制約の正当化を検討した。

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