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【参考答案】
1 民事訴訟においては、権利義務の帰属主体が当事者適格を有するのが原則である。
もっとも、民事訴訟法は、他人の権利利益のために本人が訴訟当事者として訴訟追行をする場合として、訴訟担当を認めている。訴訟担当として選定当事者(民事訴訟法(以下法令名省略)30条)のような明文規定がある場合は当然に認められるが、本問のB銀行のように明文規定がない場合、当事者の授権に基づく任意的訴訟担当が認められるかが問題となる。
2 この点について、任意的訴訟担当を無制限に認めると、弁護士代理の原則(54条1項本文)や訴訟信託の禁止(信託法10条)の趣旨を潜脱するおそれがある。
そこで、①本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があり、②当該訴訟担当が上記各規定を回避・潜脱するおそれがなく、かつ、③これを認める合理的必要がある場合には、明文がなくとも任意的訴訟担当が許容されると解する。
3(1) 本問において、債券保有者かB銀行への個別の明示的な訴訟委任はなされていない。しかし、A国とB銀行間の管理委託契約には、B銀行が債券保有者のために一切の裁判上の行為をする権限を有する旨の授権条項が含まれている。そして、この授権条項を含む要項の全文は債券の裏面に印刷され、目論見書にもその内容が記載されていた。そのため、債券保有者はこれらの記載内容を認識し、または認識し得る状態で債券を購入していることから、購入行為をもって、上記管理委託契約に基づくB銀行の権限行使を承認し、B銀行に対して包括的に訴訟追行権を授与する意思表示を行ったものと評価できる。
したがって、①の授権要件は充たされる。
(2) B銀行は、銀行法に基づく免許を受けた銀行であり、高い社会的信用と業務遂行能力を有する主体である。また、管理委託契約に基づき、債券保有者の利益のために公平かつ誠実に業務を行う義務を負っていると考えられる。これは会社法上の社債管理者(会社法702条以下)に類似した仕組みであり、その職務遂行の公正さは担保されている。
したがって、B銀行が訴訟追行を行うことについて、不当な目的での訴訟提起や、代理人資格の濫用による弊害が生じるおそれはなく、同原則等を潜脱するものではないといえる(要件②充足)。
(3) 本件のようなソブリン債は、多数の一般投資家を含む不特定多数の者によって購入されており、債券保有者は極めて多数に上る。これら多数の保有者が個別にA国に対して訴訟を提起することは、費用や労力の面で過大な負担となり、権利行使を事実上困難にする。
他方、B銀行が管理会社として一括して訴訟を追行すれば、紛争の統一的かつ迅速な解決が図られ、債券保有者の利益保護に資する。また、B銀行と債券保有者との利益相反の可能性についても、本件では抽象的な懸念にとどまり、具体的弊害は認められない。
したがって、B銀行に訴訟担当を認める合理的必要性は十分に認められる(要件③充足)。
4 以上より、B銀行による訴えは、明文なき任意的訴訟担当として適法であり、B銀行に原告適格が認められる。
以上

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