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【参考答案】
第1 小問(1)について
1 Xは、弁論準備手続内でのYの陳述内容を記載した逐語的な記録を書証として提出している(以下「本件書証」という。)。これに対し、裁判所は本件書証を採用すべきか。弁論準備手続における当事者の発言を記載した書面の証拠能力ないし証拠適格が認められるかが問題となる。
2 弁論準備手続(民事訴訟法(以下、法令名省略)168条以下)の趣旨は、当事者及び裁判所が非公開の場で自由闊達な議論を行い、法律的主張の当否や証拠の価値について率直に意見交換することで、争点を整理し、充実した審理を実現することにある。仮に、同手続内の発言が後に証拠化されれば、当事者は萎縮して自由な議論ができなくなり、争点整理という制度目的が没却されるおそれがある。
したがって、弁論準備手続における口頭のやりとりを逐語的に記録した文書は、特段の事情がない限り、信義則(2条)ないし手続の趣旨に反し、証拠として採用することはできないと解すべきである。
3 Xは、Yが当初工事内容に言及したにもかかわらず、後にこれを否定するに至ったという主張の変遷を立証し、Yの供述の信用性を弾劾するために本件書証を提出している。しかし、弁論準備手続においては、試行錯誤を伴う自由な議論が保障されるべきであり、その過程での発言の変遷や撤回は許容されるべき性質のものである。Xのこのような訴訟活動は、手続内での当事者の片言隻語を捉えて揚げ足を取る類のものであり、不意打ち的で不公正であるといわざるを得ない。
そうであれば、本件書証の提出は、弁論準備手続の趣旨を没却させるものであり、特段の事情も認められないため、許されない。
4 よって、裁判所は、本件書証を採用すべきではない。
第2 小問(2)について
1 Yは、弁論準備手続終結後の口頭弁論期日において、請負代金の減額を求める旨の新たな主張を行っている。これに対し、Xからその理由の説明を求められたにもかかわらず、Yは説明を拒否している。
裁判所は、このようなYの新主張をどのように取り扱うべきか。弁論準備手続終結後の新主張に対する説明義務違反の効果と、時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)の適否が問題となる。
2 現行法は、弁論準備手続終結の直接的効果としての失権効を規定していないため、手続終結後に新たな攻撃防御方法が提出されたとしても、直ちに「故意又は重大な過失」(157条1項)があるとはいえない。しかし、現行法は、争点整理手続終了後も当事者に説明義務(174条・167条)を課す新たな規律を定めており、これにより、終結後の攻撃防御方法の提出を間接的に規制している。
そこで、この説明要求に対する当事者の態様が、同項の却下要件である「故意又は重大な過失」を認定するための資料になり得ると解すべきである。
3 第一に、Yは弁論準備手続終結後の口頭弁論期日において初めて瑕疵の主張を行っており、これは整理された争点とは異なる新たな事項であるから、「時機に後れ」た提出といえる。
第二に、YはXから説明を求められたにもかかわらず、説明を拒否している。これは法の手続規定を無視する不誠実な態度である。また、工事の瑕疵の存在は、通常、Y自身が早期に把握し得る事実であり、特段の事情の説明もない以上、提出が遅れたことについてYに「故意又は重大な過失」があると認められる。
第三に、建築工事の「瑕疵」に関する主張は、その有無や補修費用の算定にあたり、通常、現場検証や専門家による鑑定などの複雑かつ時間を要する証拠調べを必要とする。争点整理が完了した段階でこのような新たな審理を開始することは、訴訟の完結を著しく遅延させることは明らかである。
4 以上より、157条1項の要件をすべて充たすため、裁判所は、Yの新たな主張を時機に後れた攻撃防御方法の提出として、却下すべきである。
以上

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