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参考答案 事例研究 行政法〔第4版〕第1部 行政法の基本課題 第2問 特商法の業務停止処分をめぐる紛争

目次

 

【参考答案】

第1 Aが主張しうる違法事由について

1 Aが主張しうる違法事由として、① 本件処分が処分要件を充足していないこと、② 本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たること、③ 本件処分に先立つ本件立入検査が違法であることが想定される。

第2 ① 本件処分が処分要件を充足していない旨の主張について

 1(1) 第1に、①本件処分が処分要件を充足していないとの主張が予想される。

  (2) 本件処分の根拠は法23 条1 項である。同項の要件は、(ⅰ)事業者が法16条から21条等の規定に違反し、または法22条1項各号に掲げる行為をしたこと(以下、併せて「要件(ⅰ)」という。)、かつ、(ⅱ)それによって「取引の公正及び購入者等の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき」(以下、「要件(ⅱ)」という。)である。

 2(1) まず、要件(ⅰ)について、第1に、Aの従業員は、マニュアルに基づき、勧誘目的であることを隠して雑談を続け、会話の最後になって初めて展覧会への出展勧誘を行っている。これは「勧誘に先立って」販売目的等を告げることを義務付けた法16条に違反する。
 第2に、Aの従業員は、顧客が断っても執拗に勧誘を続けており、契約を締結しない意思を表示した者に対する勧誘を禁じた法17条に違反する。
 第3に、Aは交付書面に費用の総額のみを記載し、内訳を明示していない。これは契約内容を明らかにする書面の交付義務を定めた法19条1項に違反する。
 第4に、Aの従業員は、美術評論家の評価や価格について虚偽の事実を告げており、顧客の判断に影響を及ぼす重要事項についての不実告知(法21条1項7号)に該当する。
 第5に、マニュアルにある「まくしたてる」等の勧誘態様は、顧客に「迷惑を覚えさせるような仕方」(法22条1項5号、施行規則23条1号)に該当する。
 以上より、Aには多数かつ明白な法令違反が認められ、要件(ⅰ)を充足することは明らかである。

  (2) 次に、要件(ⅱ)について、Aに対しては過去に行政指導が行われたにもかかわらず、改善が見られず苦情が増加している。また、違反行為は現場の判断ではなく、経営陣が是正措置を講じないコンプライアンス体制の欠如や、違法行為を推奨するマニュアルに基づく組織的なものである。これらに鑑みれば、被害の拡大防止と取引の公正確保のため、将来に向けて利益が著しく害されるおそれが認められ、要件(ⅱ)も満たす。

3 以上より、本件処分は処分要件を充足しており、Aの①本件処分が処分要件を充足していない旨の主張は失当である。

第3 ② 本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たる旨の主張について

1 本件処分の根拠法規である法23条1項は、複数の処分について「できる」と定めている。そのため、文言上、仮に処分要件を充足した場合であっても、処分をするかしないか、処分をするとしてどのような処分を選択するのかについて裁量が認められる点については否定しがたい。
 もっとも、裁量がある場合でも、比例原則違反や考慮事項の考慮不尽等があれば裁量権の逸脱濫用として違法となる(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)30条)。
 なお、本件においては、本件基準が定められており、(a)事業者によるコンプライアンス体制の状況、(b)違反行為の悪質性、及び(c)被害の現実の広がりや将来の拡大可能性等を総合的に考慮するとしている。これは法の目的に合致し合理的であるから、本件処分の適法性はこの基準に照らして判断されるべきである。

 2(1) Aは、本件弁明書において、契約チェック体制の強化や研修の実施、マニュアルの改定予定などを挙げ、違反状態は解消されつつあるため、業務停止処分は重きに失し、比例原則に反すると主張することが想定される。

  (2) (a)コンプライアンス体制について、経営者が現場の実態を把握しておらず、機能不全に陥っている状況にある。
 次に、(b)悪質性は、違反行為がマニュアルに基づき組織的かつ継続的に行われており、極めて高い。
 また、(c)被害の拡大可能性は、Aが主張するマニュアル改定は未だ予定にとどまっており、違法勧誘の根本原因が除去されていないため、依然として高いといえる。
 加えて、Aは過去の行政指導に従わず、かえって苦情が増加していた経緯がある。
 これらの事情を考慮すれば、6ヶ月間の業務停止処分は、消費者被害の拡大防止という公益目的達成のために必要かつ合理的な範囲内であり、比例原則に反するとはいえず、裁量権の逸脱濫用は認められない。

3 以上より、本件処分に裁量権の逸脱濫用は認められず、Aの②本件処分が裁量権の逸脱・濫用に当たる旨の主張も失当である。

第4 ③ 本件処分に先立つ本件立入検査が違法である旨の主張について

 1(1) 最後に、Aは、本件立入検査について、(ア)職員が身分証明書を提示しなかった点(法66条6項違反)、(イ)必要性の不存在(同条1項違反)、(ウ)選挙のためのパフォーマンスであり職権濫用に当たる点を挙げて違法であると主張する事が想定される。

  (2) これに対し、甲県としては、本件立入検査には、形式的に(ア)の手続違反がある点は否定できないが、本件処分の取消事由にはならないと反論する。
 そこで、行政調査の違法が、後行する本件処分の取消事由となるかが問題となる。

2 行政調査は、あくまで処分の資料収集のための事実行為であり、処分そのものとは別個の手続である。したがって、調査過程の瑕疵が行政処分の内容自体に直ちに影響を及ぼすわけではないから、行政調査の瑕疵が常に行政処分の違法を根拠づけると解するべきではない。
 もっとも、適正手続(憲法31条参照)の重要性に鑑み、行政調査の過程における重大な違法は、それに基づく行政処分の違法を根拠づけると解すべきである。具体的には、調査に重大な違法がある場合には、当該調査により得られた資料を処分の証拠とすることが許されず、その結果、処分要件を認定する証拠を欠くことになり、当該処分も違法となると解するのが相当である。

 3(1) まず、Aが主張する(イ)必要性の不存在および(ウ)職権濫用の点について、行政指導後もAに関する苦情が増加傾向にあり、法令違反の有無を確認するために立入検査を行う必要性は客観的に高かったといえる。また、仮にメディアの同行があったとしても、上記必要性に基づいて行われた正当な職務執行である以上、職権濫用とはいえない。したがって、(イ)および(ウ)の点について違法はない。

  (2) 次に、(ア)身分証明書の不提示の点について、確かに、職員が身分証明書を提示しなかった点は法66条6項に違反し、手続的な瑕疵がある。
 しかし、本件においては、担当職員とAの従業員は以前からの行政指導を通じて顔見知りであり、A側において相手が県の職員であることを認識するのに支障はなかった。そうすると、当該瑕疵は、法の定める適正手続の要請を没却するような実質的な権利侵害を伴うものとはいえない。したがって、当該瑕疵は、本件立入検査によって得られた本件マニュアル等の証拠価値を否定すべき「重大な違法」には当たらない。

4 よって、本件立入検査の瑕疵を理由として、本件処分が違法となることはない。

第5 結論

1 以上より、Aが主張する本件処分の違法事由はいずれも認められず、本件処分は適法である。

以上

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