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【参考答案】
1 Xは貸金返還請求訴訟において、主要事実である消費貸借契約の成立(民法587条)を立証するため、借用証書を提出している。私文書である借用証書が証拠として採用されるためには、「その成立が真正であることを証明しなければならない」(民事訴訟法(以下法令名省略)228条1項)。
本問において、X提出の借用証書について、Yは印影がYの印章により顕出されたものであることを認めている。一方で、Yは義父Aによる盗用を主張し、228条4項の「押印」、すなわち本人の意思に基づく押印であることを争っている。そこで、Yがいかなる立証を行えば、裁判所は文書の真正を否定しうるか。
2(1) 文書に押捺された印影が本人又は代理人の印章によって顕出されたものであるならば、それが意思に基づく押印であることが事実上推定されると解される。なぜなら、本人の印鑑を他人が勝手に使用することは、通常はあり得ないという経験則が認められるからである(一段目の推定)。
その結果、228条4項の「署名又は押印」の要件を充足し、228条4項が適用されて文書全体の成立の真正という事実が推定されることになる(二段目の推定)。
(2) もっとも、この推定の法的性質は、経験則に基づく事実上の推定にすぎないと解される。したがって、挙証者の相手方としては、事実上の推定を破るため、裁判所にこれについての合理的な疑いを抱かせる程度の反証を行い、意思に基づく押印の事実を真偽不明の状態に持ち込むことにより、文書の成立の真正を否定することができる。
3 本件では、印影の一致を認めているため、二段の推定が及ぶのが原則である。
しかし、Yの主張する「義父Aによる盗用」は、1段目の推定の前提となる意思に基づく押印を否定する事実である。 Yとしては、Aが印章を持ち出し可能な状況にあったこと等の具体的事実を立証し、裁判所にYの意思に基づく押印ではないのではないかという合理的な疑いを抱かせるに至れば、第1段の推定は覆る。
その結果、Xが別途立証しない限り、裁判所は借用証書の偽造を認定できる。
以上

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