【参考答案】
第1 設問1について
1 B₁らの提起する抗告訴訟として、本件許可の取消訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)が考えられる。しかし、B₁らが訴訟提起を検討しているのは2020年2月であり、出訴期間(行訴法14条1項、2項)を徒過している。
また、出訴期間内に取消訴訟を提起していたとしても、本件許可は、その成立時において申請書に示された計画が法令上の許可要件を満たしており適法であったから、本案での勝訴は見込めなかった。
したがって、本件許可の取消訴訟を提起することはできない。
さらに、出訴期間の制限のない無効等確認訴訟(行訴法3条4項)を提起することも考えられる。しかし、成立時において適法な本件許可には、重大かつ明白な瑕疵は認められないため、やはり本案での勝訴は見込めない。
2(1) そこで、B₁らは、甲県に対し、法19条の5第1項に基づき、生活環境の保全上の支障の除去などの措置を講ずべきことを命ずる処分(以下「本件措置命令」という。)の直接型義務付け訴訟(行訴法3条6項1号)を提起すべきである。
(2) 本件において、A社は法令の基準(法施行令6条3号)に反して安定5品目以外の有害な廃棄物を混入して埋立処分しており、鉛を含む汚水が流出するなど生活環境の保全上支障が生じているため、甲県知事は、法19条の5第1項に基づき、本件措置命令をする権限を有する。
そして、本件措置命令は、行政手続法(以下「行手法」という。)2条4号の不利益処分にあたるところ、B₁らに当該処分の発動を求める法令上の申請権を認める規定はなく、申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)を利用することはできない。
したがって、B₁らは、直接型義務付け訴訟により甲県に対して本件措置命令を求めるべきである。
第2 設問2について
1(1) 直接型義務付け訴訟の訴訟要件は、① 処分性(行訴法3条2項)、② 一定の処分(行訴法3条6項1号、37条の2第1項)、③ 重大な損害を生ずるおそれ(行訴法37条の2第1項、同条第2項)、④ 補充性(行訴法37条の2第1項)、⑤ 狭義の訴えの利益、⑥ 原告適格(行訴法37条の2第3項)、⑦ 被告適格(行訴法38条、11条)、⑧ 裁判管轄(行訴法38条、12条)である。
(2) これらのうち、本件措置命令が行手法2条4号の不利益処分であり、①「処分」に当たることに争いはなく、その根拠法条の特定がなされていることから、裁判所が審理判断を行うことが可能な程度の特定性も認められ、②「一定の処分」も充たす。
また、④補充性につき、B₁らは民事上の仮処分決定を得ているものの、抗告訴訟は公益的見地から行政の適法な権限行使を通じて抜本的な是正を図るものであり制度趣旨が異なるため、民事上の救済手段は原則として「他に適当な方法」には当たらず、この要件も充足する。
そして、本件においては現在も鉛を含む汚水が流出しており、本件措置命令を求める客観的な実益が消滅したような事情は見当たらず、⑤狭義の訴えの利益も認められ、甲県を被告として甲県の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所に訴訟提起することで⑦被告適格及び⑧裁判管轄の要件も充足する。
2(1) そこで、③ 重大な損害を生ずるおそれが認められるか。重大な損害の判断は、行訴法37条の2第2項の考慮勘案事項に従って判断される。
(2) 本件では、本件処分場に由来する有害な重金属を含む汚染水が、乙川やこれと水脈がつながる地下水を通じて、B₁らの飲用水である井戸水や農業用水に混入している。法施行規則所定の上限の4倍にも達する鉛が浸透水から検出されていることからすれば、B₁らに健康被害をもたらす可能性が相当程度に認められる。
そして、このような生命・身体ないし健康に対する被害は、その性質上、一たび発生すれば事後的な金銭賠償による回復になじまず、「損害の回復の困難の程度」が極めて高い。
また、B₁らは主に農業によって生計を立てているところ、汚染水の農業用水への混入により、農地が長期にわたり利用不能となるおそれがある。現に、B₁らの中には乙川の河川水の農業利用を断念する者も現れている。このような被害は財産的損害ではあるが、B₁らの生計の基盤を奪うものであり、その損害の性質及び程度に鑑みれば、事後的な回復が極めて困難な著しい損害である。
したがって、本件措置命令がなされないことにより、B₁らに「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。
3(1) では、⑥B₁らに原告適格が認められるか。
(2) 処分の取消しを求めるにつき、「法律上の利益を有する者」とは、処分の根拠法規において法律上保護された利益を侵害される者をいい、処分の根拠法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としてもこれを保護している場合も含まれる。
なお、この判断は行訴法9条2項の考慮勘案事項に沿って判断されなければならない。
(3)ア 本件措置命令の根拠となる法19条の5第1項は、要件として「生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるとき」と定めている。また、法の目的を定める法1条は「生活環境の保全及び公衆衛生の向上」を掲げ、さらに関係法令である法15条の2第1項2号も施設の設置許可基準として周辺地域の生活環境への配慮を求めている。
以上の規定からすると、法は、本件措置命令の発動に際して、周辺住民の生命、身体の安全や健康などの生活環境上の利益を、少なくとも一般的公益として法律上保護しているといえる。
イ 次に、本件措置命令の根拠規定や関係法令の仕組みに照らすと、法19条の5第1項所定の要件を満たすにもかかわらず本件措置命令が発令されない場合には、処分場から排出される有害物質が地下水や河川に流入することにより、これを利用する周辺住民には、生命・身体ないし健康にかかわる重大で回復困難な被害が発生することが想定される。このような被侵害利益の内容・性質に鑑みれば、これらの利益はもはや一般的公益の中に吸収解消させることはできない。
以上のことからすると、法は、本件措置命令の発動に際して、周辺住民の生活環境上の利益を、単に一般的公益として保護しているにとどまらず、本件措置命令が発令されないことにより生命・身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の者の当該利益を、個々人の個別的利益としても保護していると解するのが相当である。
ウ B₁らは、いずれも本件処分場から500m以内、汚水が流入する排水溝の接続箇所から300m以内の下流域という極めて近接した地域に居住している。加えて、B₁らの集落には上水道が配備されておらず、本件処分場からの排水が混入する乙川の河川水や、これと水脈がつながる井戸水を、農業用水及び飲用その他の生活用水として恒常的に利用している。
このような居住地の距離的近接性及び水利用の実態に照らすと、B₁らは、本件措置命令が発令されないことにより、有害な汚染水を通じて自己の生命・身体等の個別的利益に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の者に該当する。
したがって、B₁らには「法律上の利益」が認められ、本件訴訟の⑥原告適格を有する。
4 以上より、本件直接型義務付け訴訟はすべての訴訟要件を充足する。
以上


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