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参考答案 基礎演習行政法〔第2版〕第Ⅰ部 法的手段の選択 第2問 抗告訴訟と実質的当事者訴訟

目次

【答案構成】

第1 設問1について

1 結論(Xが提起すべき訴訟は、本件処分の取消訴訟)

 2(1) 争いなく充足する訴訟要件(処分性、原告適格、訴えの利益)

  (2) 本件で問題となる訴訟要件の検討(①不服申立て前置主義(法51条の2、行訴法8条1項但書)の充足、②出訴期間(行訴法14条2項)の充足)

3 結論

第2 設問2について

1 執行不停止原則(行訴法25条1項)と執行停止の申立て(同条2項)の必要性について

2 執行停止の種類(「処分の効力の停止」を申立てるべき)

第3 設問3について

1 問題提起(取消訴訟は出訴期間徒過により不適法→無効確認訴訟を検討→補充性(行訴法36条後段)が実質的当事者訴訟との関係で問題となる)

2 規範定立(補充性要件における「目的を達することができない」の解釈)

3 当てはめ(Xの真の目的は地位回復→地位確認訴訟の方がより直截的かつ適切→地位確認訴訟により「目的を達することができる」ため、補充性要件不充足)

4 結論

第4 設問4について

1 問題提起(執行停止(行訴法25条)も仮処分(行訴法44条)も条文上利用できない→権利救済の空白(憲法32条)→ 行訴法44条の解釈が問題)

2  規範定立(行訴法44条の解釈・制限許容説──形式仮処分・実質執行停止説*1

3 当てはめ(第1次的判断である本件処分の事後的審査である→行訴法44条は適用されない)・結論(職員としての地位を仮に定める仮処分(民事保全法23条2項)の申立て)

 

【参考答案】

第1 設問1について

1 Xは、甲山市の職員として勤務し続けるという法律上の地位を回復するため、本件懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)の効力を争うため、本件処分の取消訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)を提起するのが適切である。

 2(1) 懲戒免職は、「行政庁の処分」に当たる(行訴法3条2項)。また、Xは本件処分の名宛人であるから、「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に当たり、訴えの利益(同条括弧書)も有する。

  (2) 地方公務員法(以下「法」という。)51条の2は、「審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会……の裁決を経た後でなければ、提起することができない」旨規定し、同規定は行訴法8条1項但書の不服前置主義を定めた規定に当たる。
 本件処分は職員たるXに対する懲戒免職処分であり、法49条の2第1項により人事委員会に対して審査請求をすることができる処分に当たる。 そして、Xは、法49条の3所定の期間内に甲山市人事委員会に対して審査請求を行い、2016年7月1日にこれを棄却する旨の裁決を得ている。したがって、「裁決を経た後」という不服申立て前置の要件を充足する。
 また、出訴期間(行訴法14条についても、「審査請求をすることができる場合」で「審査請求があつた」場合に当たり、Xが人事委員会からの裁決を知ったのは2016年7月1日であって、現在は同年11 月1日であるから6箇月の出訴期間内にある(行訴法14条3項本文)。

3 よって、Xは本件処分の取消訴訟を提起すべきである。

第2 設問2について

1 取消訴訟の提起は、「処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」(執行不停止原則、行訴法25条1項)。そのため、Xは執行停止の申立て(行訴法25条2項本文)をすべきである。

2 本件の懲戒免職処分は、公務員の身分を一方的に剥奪する形成的行為であり、その執行や手続の続行を観念できない。
 よって、Xは処分の効力の停止を申立てるべきである。

第3 設問3について

1 現在が2017年4月1日である場合、裁決があったことを知った日(2016年7月1日)から6か月以上が経過しているため、本件処分の取消訴訟を提起することは出訴期間の徒過により不適法となる。
 そこで、出訴期間の定めがない無効等確認訴訟(行訴法3条4項)を提起することが考えられる。
 もっとも、無効確認訴訟は「当該処分……の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」(行訴法36条後段)に限り提起できるという補充性の要件が課されている。本件でXは、本件処分が無効であることを前提として、自己の公務員たる地位の確認を求める訴え(実質的当事者訴訟、行訴法4条)を提起することでも、「職員として勤務する」という目的を達成できる可能性がある。
 そのため、本件でXは無効確認訴訟と地位確認訴訟のいずれを提起すべきか、補充性要件における「目的を達することができない」の解釈が問題となる。

2 「目的を達することができない」(行訴法36条後段)とは、訴訟の勝ち目や実効性に係わりなく、ただ形式上現在の法律関係に関する訴えに還元できない場合に限る(還元不能説)のではなく、無効確認訴訟と現在の法律関係に関する訴訟とでどちらの訴訟がより直截的かつ適切な訴訟かを判決効や仮の救済などの観点から総合的に判断して決するべきである。

3 本件におけるXの最終的な目的は、本件処分が無効であることの確認に留まらず、職員としての地位を回復し、再び勤務することにある。そうだとすれば、処分の効力という過去の行為を審理対象とする無効確認訴訟よりも、現在の「公務員たる地位」という法律関係そのものを審理対象とする地位確認訴訟(実質的当事者訴訟)の方が、Xの求める権利救済にとって、より直截的かつ適切な解決手段であるといえる。
 したがって、本件では地位確認訴訟によって「目的を達することができ」るから、無効確認訴訟は補充性の要件(行訴法36条後段)を満たさず、不適法となる。

4 よって、Xは、公務員としての地位の確認を求める実質的当事者訴訟を提起すべきである。

第4 設問4について

1 Xが公務員としての地位確認訴訟を提起した場合、その本案判決が確定するまでの間、Xの権利利益を暫定的に保全する必要性は極めて高い。しかし、執行停止は取消訴訟等を前提とする制度であり当事者訴訟には利用できない(行訴法25条2項)。一方で、民事保全法上の仮処分は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」についてはすることができない(行訴法44条)。
 このように、条文を形式的に読めば、Xは一切の仮の救済手段から閉ざされてしまう。しかし、実効的な権利保護なき裁判は、憲法32条が保障する「裁判を受ける権利」を形骸化させかねない。そこで、行訴法44条の解釈が問題となる。

2 行訴法44条が行政処分に対する民事保全法上の仮処分を一般的に禁止した趣旨は、行政行為には公定力が認められており、その効力を暫定的に覆すことは行政作用に大きな影響を与えるため、仮の救済制度を用意し、民事保全という一般的手段による安易な介入を防ぐことで、行政の安定性と個人の権利救済との調和を図る点にある。この趣旨からすれば、行政庁の第一次判断権を先取りする形での仮処分の方法を禁止したものと解される。

3 本件のような当事者訴訟は、現在の法律関係の存否を審理する中で、すでに行政庁が下した第一次的判断を前提問題として事後的に審査するものであるから、その訴訟に付随する仮処分は、公権力の行使に対する積極的な侵害ないし先取りには当たらない。そのため、行訴法44条は適用されず、仮処分が許されると解する。
 よって、Xは職員としての地位を仮に定める仮処分(民事保全法23条2項)の申立てによるべきである。

以上

*1:44条に関する解釈については、室井力=芝池義一=浜川清『コンメンタール行政法Ⅱ 行政事件訴訟法・国家賠償法(第2版)』(日本評論社、2006年)460頁以下〔村上博〕参照。

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