目次
【答案構成】
1(1) kg(請求原因):交換契約(民法(以下法令名省略)586条1項)に基づく甲土地所有権移転登記請求権
(2) 問題提起(XY間に交換契約が有効に成立するためには、Bの代理行為の効力がYに帰属する必要あり→有権代理の要件である代理権授与×→無権代理→109条1項の表見代理が成立しないか)
2(1)ア 規範(109条1項の要件①代理権授与表示、②代理権の範囲内の行為)
イ 規範定立(代理権授与表示の判断基準)
(2) 当てはめ1(要件①について:非輾転予定型・直接型の事案+登記済証等の重要書類一式をBに交付→Yの帰責性大→要件①充足)
(3) 当てはめ2(要件②について:BX間での交換契約締結→売買契約の代理権の範囲を超える行為→要件②不充足)・小結論(109条1項の表見代理は成立しない)
3(1) 問題提起(109条2項の表見代理が成立しないか)+109条2項の成立要件
(2) 規範定立(「正当な理由」の意義と判断基準)
(3) 当てはめ(重要書類一式の呈示+一般人(=専門家でない人物)が売買と交換の代理権限の違いについて認識するのは困難→「正当な理由」肯定→109条2項の要件充足)
4 結論
【参考答案】
1(1) Xは、Yに対し、交換契約(民法(以下法令名省略)586条1項)に基づく甲土地所有権移転登記請求をすると考える。
(2) Xの上記請求が認められるためには、XY間に交換契約が有効に成立している必要がある。
本件交換契約はYの代理人と称する(顕名)Bによって締結された(代理行為)ものであるが、YがBに対して本件交換契約を締結する代理権を授与したとはいえない(99条1項)。
なぜなら、Yが白紙委任状等の書類を交付したのは、あくまで甲土地の売買契約に基づく所有権移転登記手続をAに委託する趣旨であって、委任状を輾転流通させ、A以外の者に交換契約締結の権限を与える意図はなかったからである。
したがって、Bの行為は代理権のない者によってされた無権代理行為であり、原則として、その効果は本人であるYに帰属しない(113条1項)。
そこで、Xの請求が認められるため、109条1項の表見代理の成立が認められるか。
2(1)ア その要件は、①「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した」こと(109条1項本文)、②表示された「代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為」であることである。
イ そして、白紙委任状が交付された事案における授権表示(要件①)の有無については、外観作出についての本人の帰責性と相手方の信頼保護との調和の観点から、授権表示の有無を判断すべきである。
具体的には、誰が白紙委任状を行使したか、及びどの部分が濫用され、本来の委任事項と質的に乖離しているか等の事情を総合考慮し、本人の帰責性が相手方の信頼を犠牲にできないほど重いといえる場合に認められると解する。
(2) 本件では、YがAの代理人であるBに対し、直接書類を交付し、そのB自身が無権代理行為を行っているから、非輾転予定型・直接型の事案である。
直接型の場合、本人は、白紙委任状等とそれに伴う外観が、そのまま第三者に示されることを予見すべきであるから、その外観を作出したことについての帰責性は重いといえる。
よって、Yが甲の登記済証、印鑑証明書、白紙の売渡証書及び白紙の委任状という極めて重要な書類一式をBに交付した行為は、社会通念上、Bに少なくとも甲の売買契約に関する代理権を授与した旨を表示したものと評価できる(要件①充足)。
(3) しかし、BがXとの間で締結したのは交換契約である。これは、表示された売買契約の代理権の範囲を超える行為である。そのため、要件②を充足せず、109条1項の表見代理は成立しない。
3(1) 上記のとおり、本件では代理権授与の表示(要件①)は認められるものの、Bの行為は表示された権限の範囲外であるから、要件②を充たさず、109条1項は成立しない。そこで、表示された権限の範囲外の行為について定める109条2項の成否を検討する。
109条2項の要件は、要件①代理権授与の表示に加え、第三者Xが、Bの行為について代理権があると信ずべき「正当な理由」があることである。
(2) 「正当な理由」とは、代理権の存在を信じたことにつき、過失がないことを意味すると解する。
その判断は、取引の内容・状況等の諸般の事情を総合して客観的に判断する。
(3) 本件において、XはBから、甲の登記済証、Yの印鑑証明書、白紙の売渡証書及び委任状という不動産取引の根幹をなす書類一式を呈示されている。これらの書類が揃っていれば、本人がこれらを所持する者に不動産の処分権限を与えていると信じることは、取引における一般的な感覚に照らして当然のことといえる。
確かに、書類の中に売渡証書が含まれていたことから、Bの代理権限は売買に限られるのではないかと疑う余地も全くないわけではない。しかし、不動産取引の専門家でもない一般人にとって、売買と交換の代理権限の違いを厳格に意識し、その点を確認することまで要求するのは酷である。
そうであるならば、重要な書類一式が揃っていることを基礎とした信頼は保護されるべきである。
したがって、XがBに本件交換契約を締結する代理権があると信じたことに過失はなく「正当な理由」が認められ、109条2項の表見代理が成立する。
4 以上より、Bの無権代理行為の効果は本人であるYに帰属する。
よって、XY間には有効に交換契約が成立しているといえるから、XのYに対する甲の所有権移転登記手続請求は認められる。
以上
【悩みどころ】
解説にあるように本問では、110条・112条の適用可能性がある。しかし、説例文中にYを代理する何らかの権限がこれまでに1度でも授与されたという記載はないことから、仮定的に検討する必要まではないと考え、110条・112条については、参考答案中において検討しないこととした。
Yとしては、109条1項但書の抗弁(相手方の悪意または過失による不知)があり得るが、「正当な理由」の存在を妨げる事実に含まれることから、「正当な理由」を肯定した時点で109条1項但書の抗弁は認められないといえ、あえて別個に検討しなかった。

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