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参考答案 Law Practice 民法Ⅰ総則・物権編〔第5版〕 問題25 時効利益の放棄・喪失

目次

 

【答案構成】

 1(1) Xは、Yに対し、消費貸借契約(民法(以下法令名省略)587条)に基づく貸金返還請求権としての残元本70万円およびこれに対する遅延損害金の支払請求をすると考える。

  (2) その要件は、①金銭消費貸借契約の成立、②返還時期の合意、③返還時期の到来・経過である。

  (3) Xは、2024年12月14日、Yに対し、金70万円を貸し付けこれを交付した(要件①充足)。また、その際、弁済期を1年後(2025年12月14日)とする合意をした(要件②充足)。そして、上記弁済期は経過した(要件③充足)。
 なお、Yは2032年3月7日に1万円を弁済しているが、これは既に発生していた遅延損害金の一部に充当される(491条)ため、元本70万円は消滅していない。 
 よって、Xの請求は認められるのが原則である。

 2(1) これに対して、Yは、消滅時効の抗弁(166条1項1号)を主張する。

  (2) その要件は、(ⅰ)権利を行使することができることを知った時から5年(166条1項1号)の経過、(ⅱ)時効の援用(145条)である。

  (3) Yは2026年1月17日に利息を支払っており、これは債務の承認(152条1項)に当たるため、時効は更新されている。したがって、Xは、その翌日である2026年1月18日から権利を行使することができることを知っていたといえ、同時点から5年を経過した2031年1月17日の経過をもって、消滅時効期間は満了している(要件(ⅰ)充足)。そして、YはXに対し、本件訴訟において時効を援用するとの意思表示をした(要件(ⅱ)充足)。
 以上より、本件債権には、消滅時効が完成したといえる。

 3(1) もっとも、Yは時効完成後の2032年3月7日に本件債務の一部として1万円を弁済している。そこで、この弁済行為は時効完成後の債務承認に該当するが、その効果につき、明文規定のないことから問題となる。

  (2) まず、時効利益の放棄(146条)といえるためには、時効完成の事実を知っていることを要するため、これを知らずに承認したにすぎない場合は、時効利益の放棄とは認められない。
 しかし、時効完成後に債務を承認することは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においてもはや時効の援用をしない趣旨であると信頼するのが通常である。そこで、相手方の信頼保護の観点から、信義則(1条2項)上、以後の時効援用権を喪失するのが原則であると解する。
 もっとも、この法理は相手方の信頼を保護するためのものであるから、債権者の側に信義則違反の事情が認められるなど、保護すべき正当な信頼が生じたといえない場合には、この限りではないと解すべきである。

  (3) Yは消滅時効完成後である2032年3月7日に、本件債務の一部として1万円を弁済している。これは、債務の存在を前提とする行為であり、時効完成後の債務の承認にあたる。
 したがって、信義則上、Yによる時効の援用は許されないのが原則である。

 4(1) しかし、Xは貸金業者であり、本件債務について消滅時効が完成していることを知っていたにもかかわらず、あえて「裁判にかける」「差押えをする」等の威圧的な文言を用いた督促状を送付している。
 さらに、これに畏怖したYが連絡をしてきた際にも、Xの従業員Aは、Yの生活状況を把握していながら、一括弁済が必要であり分割弁済には応じられない旨の虚偽の事実を告げてYを心理的に圧迫し、1万円の弁済をさせている。
 他方、Yは年金生活者で経済的に困窮しており、上記のようなXの威圧的な言動により恐怖心を抱き、その結果として少額の一部弁済を行ったにすぎない。

  (2) これらの事情を総合すれば、本件におけるYの一部弁済は、XがYの無知と窮状に乗じ、不当な手段を用いて誘発させたものといえる。そうだとすれば、Xにおいて、Yがもはや時効の援用をしないだろうという保護すべき正当な信頼が生じたとはいえない。したがって、Yが改めて消滅時効を援用することは、信義則に反するとはいえず、許される。

5 よって、本件債権は時効により消滅しており、Xの請求は棄却される。

以上

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