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【参考答案】
1(1) X社管財人(以下、「X」という。)は、Y監査法人(以下、「Y」という。)に対し、Yが会計監査人としての任務を怠ったことにより、違法な剰余金配当8億円の社外流出および従業員Bによる横領2億円の損害が生じたとして、会社法(以下法令名省略)423条1項に基づき、合計10億円の損害賠償を請求する。
(2) その要件は、①役員等、②任務懈怠、③会社への損害発生、④②・③の間の因果関係、⑤②につき帰責事由があること(428条1項反対解釈)である。
まず、Yは会計監査人であるため、「役員等」に当たる(要件①充足)。そこで、任務懈怠の意義が明らかでなく問題となる。
2(1) 任務懈怠とは、善管注意義務(330条・民法644条)をいう。そして、会計監査人が善管注意義務を尽くしたといえるかは、一般に公正妥当と認められる監査の基準に照らして、通常実施すべき監査手続を実施したか否かによって客観的に判断すべきである。
(2)ア 本件の粉飾決算は、架空の土木工事の売上計上という手口で行われている。Yは、2020年3月期の監査において、甲市の工事すべてについて工事代金が入金されず支払遅延が生じていた事実を把握していた。売上が計上されているのに代金が一切入金されない場合、売上げが架空である可能性を認識すべき状況にあったといえる。そして、会計監査人としては、当該工事の実在性について、甲市の工事現場に赴いて実地調査を行うなど、追加の監査手続を実施することが通常実施すべき監査手続であった。にもかかわらず、Yは2020年3月期にこの調査を怠っている。さらに、2021年3月期以降は、Xの従業員に案内された受注現場とは異なる場所を視察していたにすぎず、工事の実在性を確認する手続として極めて不十分であった。
したがって、Yには本件粉飾決算につき善管注意義務違反、すなわち任務懈怠が認められる(要件②充足)。
イ また、会計監査の主目的は計算書類等の適正性・信頼性を確保する点にあるところ、その前提として、不正の可能性は常に考慮しなければならない。そのため、従業員Bの横領のように計算書類の適正・信頼を失わせる行為については、会計監査人として当然に注意を払い、適切な監査手続を実施する必要があったといえる。
本件において、Yは、Bが偽造した預金通帳のコピー等で監査手続を済ませていた。しかし、監査要点である預金の実在性を確かめるための通常実施すべき監査手続は、特段の事情がない限り、預金先金融機関への直接の残高確認、または預金通帳の原本の実査が要求される。Yはこれらの基本的な手続を怠り、偽造されたコピーを鵜呑みにしてしまった。
したがって、Yには、従業員Bの横領を見逃した点についても善管注意義務違反、すなわち任務懈怠が認められる(要件②充足)。
3(1) Xには、違法配当による社外流出8億円と、Bの横領による被害2億円、合計10億円の損害が発生している(要件③充足)。
(2) 仮にYが任務懈怠をせず、2020年3月期の監査において粉飾決算を発見し、適正意見を表明していれば、Xは粉飾された決算に基づいて、8億円の違法な剰余金の配当を行うことはなかった。
また、仮にYが早期にBの横領を発見していれば、その後の横領被害の拡大を防止または軽減できた。したがって、Yの②任務懈怠とXの③損害との間には、相当因果関係が認められる(要件④充足)。
(3) Yには、上記2-(2)ア・イで認定したとおり、善管注意義務違反として過失が認められるため、帰責事由も認められる(要件⑤充足)。
4(1) これに対し、Yは、X側にも過失があるとして、過失相殺(民法418条類推適用)の主張をすることが考えられる。もっとも、会社法は役員等の責任について、連帯責任(430条)を課していることから、他の役員等の過失を理由とする過失相殺を認めるべきかが問題となる。
(2) この点、会計監査人は会社外部の専門家であり、会社の業務執行を担うものではない。これに対し、計算書類を作成し、適正な内部統制システムを構築する第一次的な責任は、会社の内部機関である取締役にある。そして、損害の発生・拡大の主たる原因が、第一次的責任を負う取締役の故意による粉飾決算や内部統制の不備にあるにもかかわらず、監査という第二次的責任を負う会計監査人に全額負担させることは、過失相殺の趣旨である損害の公平な分担に反する。
したがって、第一次的責任を負う取締役の故意・過失を会社側の過失として、過失相殺の類推適用を認めるべきである。
(3) 本件では、粉飾決算は、取締役であるAら経営陣が主導して、会社ぐるみで故意に行われたものである。また、Bの横領を許した背景には、X社の内部統制システムの重大な不備があり、取締役の内部統制システム構築・運用義務違反(362条4項6号)ともいえる。
このように、損害の発生・拡大には、X社経営陣の故意または重大な過失が寄与しており、X社側の帰責性も極めて重い。
したがって、Yの損害賠償額は過失相殺により減額される。
5 以上より、XのYに対する損害賠償請求は、過失相殺により減額された部分を除いて認められる。
以上

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