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参考答案 Law Practice 民法Ⅰ総則・物権編〔第5版〕 問題12 民法94条2項類推適用とその限界② 

目次

 

 

【関係図】

Law practice 民法Ⅰ 問題12関係図

【答案構成】

1(1) kg(請求原因):所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消請求
 (2) 規範定立(要件①・②)
 (3) 当てはめ
2(1)ア E(抗弁):所有権喪失の抗弁(1-(2)要件①を否定)*1
  イ 前提問題(94条2項直接適用の否定)

 (2) 規範定立(論点:94条2項類推適用)(要件(a)~(c))
 (3)ア 要件(a)当てはめ

  イ 要件(b)下位規範定立 当てはめ

  ウ 要件(c)下位規範定立 善意・無過失(調査義務違反の程度とその違反)当てはめ

  エ 94条2項類推適用の可否に関する結論

 (4) 論点:登記の要否
3 結論

 

【参考答案】

1(1) Xは、Yに対し、所有権(民法(以下、法令名省略)206条)に基づく妨害排除請求権としての甲所有権移転登記抹消登記請求をするものと考える。

(2) その要件は、①Xが所有権を有していること、②Y名義の所有権移転登記の存在である。

(3) Xは、少なくとも2022年1月時点において甲を所有しており、A名義の所有権移転登記はAがXに無断で作出したものであるから、未だ甲所有権は、Xが有している(要件①充足)。また,Yは、2022年4月、Aから甲の所有権移転登記を受けている(要件②充足)。

 したがって、上記物権的妨害排除請求権の要件充足が認められるとも思われる。

2(1)ア これに対し、Yは、所有権喪失の抗弁を主張するものと考える。

 すなわち、甲土地には、A名義の不実登記がなされており、その登記を信頼したのであるから、94条2項類推適用により、Xは善意の第三者であるYに虚偽の外観たるX・A間の不実登記の無効を対抗できない結果、Xは甲不動産の所有権を喪失し、要件①を充足しないとの主張である。

イ 前提として、X・A間の甲不動産所有権移転登記は、AがXに無断で作出したものであるから、X・A間に「相手方と通じてした虚偽の意思表示」(94条1項)が認められず、94条2項を直接適用することはできない。

(2) もっとも、94条2項の趣旨は、虚偽の外観作出に帰責性のある者と虚偽の外観を信頼した第三者とを利益衡量し、後者を保護することで、取引安全を図る点(権利外観法理)にある。

 そこで、(a)虚偽の外観の存在、(b)虚偽の外観作出について真の権利者の帰責性、(c)第三者の虚偽の外観への正当な信頼が認められる場合には、上記趣旨が妥当し、94条2項を類推適用することができると解する。

(3)ア 本件では、甲不動産にA名義の不実登記が存在するから、虚偽の外観の存在が認められる(要件(a)充足)。

イ 真の権利者(本人)の意思によらず、他人によって虚偽の外観が作出された場合、虚偽の外観作出に対する本人の帰責性は、本人の意思と虚偽の外観が対応している場合に比して小さい。そのため、真の権利者が外観作出に積極的に関与した場合やあえて放置した場合と同視し得る程度の重大な帰責性が認められる場合に、要件(b)の充足が認められる。

 本件では、真の権利者であるXの意思とは無関係に、AによってA名義登記という虚偽の外観作出がなされている。しかし、Xは、Aに実印と印鑑登録証明書を乞われるまま引き渡しており、甲をAに売却する旨を記した売渡証書にその内容を確認せず署名している。また、登記申請書にAがXの実印を用いて押印するのを漫然とみていた。

 これらの事情から、Xには、虚偽の外観たるA名義をあえて放置したと同視しうる程度に重大な帰責性があるといえる(要件(b)充足)。

ウ 外形作出につき、真正権利者の積極的意思関与や承認は存在しない点において、帰責性は小さいといえるから、110条を重畳的に類推適用*2し、第三者の正当な信頼が認められるためには、善意無過失まで要求されると解する。

 本件では、Yは、A名義の登記が不実登記であることは知らなかったのであるから、善意である。

 確かに、XA間所有権移転登記は2022年2月頃になされたものであり、わずか2か月後に売却していることから、AY間売買契約に際し、不審事由が存在するといえる。
 しかし、転売目的で土地を買受けることや資金調達の必要性などから、短期間で売買が行われることはあり得るので、取引の異常性がそれほど高いとはいえない。そうすると、YがAに対し甲を処分する事情について特に説明を求めなかったことは、取引において通常取るべき行動とまではいえない。

 また、Yは、Aから甲を買い受けるにあたり登記簿の記載を確認しており、専門家でない一般人に通常要求される確認行為はしているといえるから、過失は認められない。

 したがって、Yは善意無過失であるから、正当な信頼が認められる(要件(c)充足)。

エ 以上より、いずれの要件も充足するから、94条2項類推適用が認められる。

(4) XとYは、前主・後主の関係に立ち、対抗関係とならないから、対抗要件としての登記(177条)は不要である。
 また、虚偽の外観作出に対する帰責性の大きいXと善意者Yとの利益衡量上、権利保護要件としての登記も要求するべきでない。

3 以上より、Yの所有権喪失の抗弁が認められるから、Xの請求は認められない。

以上

 

【思考プロセス】

 本問の問いは、XのYに対する所有権移転登記の抹消登記手続請求が認められるかである。これは、Xが所有権を有する甲不動産がY名義登記により妨害されているのを排除したいということであるから、請求権は、所有権に基づく妨害排除請求権と分かる。

 所有権に基づく妨害排除請求権の要件は、①X所有と②Y名義登記(妨害となる事実)である。本問の事実上、Xは少なくとも2022年1月時点において甲を所有しており、XがAに甲を売却した事実はないことから、要件①X所有を認定した。また、Y名義の所有権移転登記の存在は問題文から明らかであるから要件②も認められる。

 

 これに対し、Yは、甲不動産の所有権は自身にあるということを主張して、Xの主張を退けたい。そのため、Xの所有権に基づく妨害排除請求権の要件である①Xが所有権を有していることを否定する所有権喪失の抗弁を主張したい。
 そこで、本問では、A名義所有権移転登記の事実がある。このA名義登記は、虚偽のものではあるが、これを信頼して取引関係に入ったYは権利外観法理(94条2項類推適用)により保護される結果、Xは甲所有権を喪失するとの主張が成り立ち得ると読み取れる。

 94条2項類推適用に当たっては、真の権利者(本問ではX)の帰責性の程度が第三者保護要件(答案中での要件(c))との関係で問題となる。110条が重畳適用されるか否かにより、無過失を要するかが変わるためである。

表:94条2項類推適用の類型

類型 真の権利者の帰責性 適用条文 第三者保護要件
意思外形対応型 真の権利者がその意思で虚偽の外観を作出した場合 94条2項類推適用 善意
真の権利者が虚偽の外観を事後的に明示・黙示的に承認した場合
意思外形非対応型 真の権利者が承認した範囲を越えて虚偽の外観が作出された場合 94条2項類推適用+110条法意 善意・無過失
真の権利者による虚偽の外観作出も事後的承認もないが、虚偽の外観作出に積極関与した場合や知りながらあえて放置したのと同視し得る重大な不注意がある場合 94条2項類推適用+110条類推適用

 本問では、A名義登記は、Aが勝手に作出したものであり、真の権利者Xがそれを知って事後的に承認したという事情も存在しない。しかし、登記識別情報、実印・印鑑登録証明書の交付や売渡証書への署名、AがXの実印で押印するのを漫然と見ていたという事実が、虚偽の外観作出に積極関与した場合や知りながらあえて放置したのと同視し得る重大な不注意に該当するといえる。

 そのため、意思外形非対応型に当たり、94条2項類推適用に加えて、110条類推適用され、Yは善意・無過失を主張・立証する必要がある。

 権利外観法理の要件充足を認定した後は、登記の要否について述べ、Yの抗弁が認められるから、Xの請求は認められないと結論付けた。

 

【悩みどころ】

・Yの無過失検討における調査確認義務の程度をどの程度に設定し、その違反が認められるかに悩んだ。参考答案では、調査確認義務を負うとした上で、調査確認義務の程度を設定する個別事情*3のうち、不審事由として短期間での連続した取引の存在を、Yの属性として専門家ではないことを挙げた。

 

*1:抗弁としては、XA間売買契約(555条)による所有権喪失の抗弁もあり得るが、XA間売買契約自体不存在として否定されるため省略した。

*2:「類推適用」か「法意に照らして」かは、判例上は分かれているようですが、先生に伺ったところでは、どちらを使用してもいいとのことでしたので、採点はいずれによっても変わらないのだろうと思います。一応、外形承認型――一部承認型は「110条の法意に照らして」、外形与因型――重過失型は「110条類推適用」としています。類型につき、山本敬三『民法講義Ⅰ 総則』〔第3版〕178頁参照。

*3:個別事情として、取引の異常性の程度、調査の難易度、相手方の属性等が挙げられる。佐久間毅『民法の基礎1 総則』〔第5版〕292頁参照。

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