目次
【答案構成】
1 前提処理(新株発行差止請求訴訟の請求の理由+保全処分)+問題提起(本件新株発行の払込金額が「特に有利な金額」(199条3項)に当たるか)
2 規範定立(「特に有利な金額」の意義と「公正な価額」の判断基準)
3(1) 「公正な価額」と比して「特に有利な金額」に当たるか
(2) 例外的に高騰後の市場価格を算定の基礎から排除することができるか
(3) 小結論(本件払込金額は「特に有利な金額」に当たる)
4 結論
【参考答案】
1 Xらは、Y社「株主」(210条柱書)として、本件新株発行の払込金額(199条1項2号)が「特に有利な金額」(199条3項)に当たり、持株比率低下・株価下落という「不利益を受けるおそれがある」(210条柱書)にも関わらず、株主総会特別決議(199条2項、309条2項5号)を経ていないことが新株発行の法令違反(210条1号)に当たるとして、本件新株発行の差止請求訴訟を提起する。
併せて、上記差止請求権を被保全権利とする差止仮処分(民事保全法23条2項)を申立てる。なお、処分の必要性は、差止請求訴訟係属中に新株発行がなされた場合、訴えの利益を欠くことになるから認められる。
そこで、本件新株発行の払込金額が「特に有利な金額」(199条3項)に当たるかが問題となる。
2 会社法199条3項の「特に有利な金額」とは、株式の公正な価額に比べて特に低い金額をいう。
そして、公正な価格は、原則として、払込金額の決定直前の株式価格に近接している必要がある。
なお、株式市場において投機的要素を無視することは困難であるから、株式が買占め等の対象となり市場価格が高騰している場合でも、原則としてその市場価格を基礎とすべきであるが、例外的に、①株式が極めて異常な程度まで投機の対象とされ、その市場価格が企業の客観的価値よりはるかに高騰し、かつ、②それが一時的現象に止まるような特段の事情がある場合に限り、高騰後の市場価格を算定の基礎から排除することができると解する。
3(1) 本件において、Y社社が定めた払込金額は1株393円である。これに対し、本件新株発行の取締役会決議直前日の市場価格は1010円であり、同月から遡って6か月間の平均株価も720円67銭であった。
この払込金額393円は、市場価格の4割にも満たない金額であり、6か月間の平均株価と比較しても6割未満の金額にすぎない。これは「公正な価額」に比べて特に低いものと評価できる。
また、実務上の目安とされる日本証券業協会の自主ルールによれば、適正な払込金額の下限は650円ないし909円と算出されるところ、本件払込金額はこれを大幅に下回っていることからも、その有利性は明らかである。
(2) 確かに、Y社の株価が高騰している要因として、Xらによる株式の大量取得という投機的要素が認められる。
しかし、その一方で、Y社自身の業績向上や、同業他社の株価も同様に高騰しているという業界全体の好況という企業価値の実体を反映した要素も存在する。 そうすると、現在の株価が「企業の客観的価値よりはるかに高騰」しており、それが「一時的現象に止まる」とまでは断定できない。したがって、高騰後の市場価格を算定の基礎から排除できる「特段の事情」は認められない。
(3) 以上より、本件では原則通り、高騰後の市場価格を基礎として公正な価額を判断すべきである。そして、本件払込金額393円は公正な価額に比べて著しく低いから、「特に有利な金額」に当たる。
4 したがって、本件新株発行は「特に有利な金額」による募集株式の発行に当たるにも関わらず、株主総会の特別決議を経ていないから、会社法199条2項・3項に違反する。
よって、Xらは、Y社に対し、210条1号に基づき本件新株発行の差止請求することができる。
以上

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