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参考答案 Law Practice 民法Ⅰ総則・物権編〔第5版〕 問題29 取消しと登記

目次

 

【参考答案】

 1(1) Xは、Yに対し、所有権(民法(以下法令名省略)206条)に基づく物権的妨害排除請求権としての甲土地所有権移転登記抹消登記請求に代わる所有権移転登記請求を求めることが考えられる。

  (2) 物権的妨害排除請求権の要件は、①甲土地のX所有と②Y名義登記の存在である。そして、Xは、①を基礎づけるため、XB間での甲土地売買契約の詐欺取消し(96条1項)を主張すると考える。そこで、詐欺取消しの要件は、(ⅰ)欺罔行為、(ⅱ)欺罔の故意、(ⅲ)錯誤に基づく意思表示、(ⅳ)欺罔行為の違法性である。

  (3) Bは、乙土地の売却話やビル建設プロジェクトの話というでまかせを言ってXを騙しており((ⅰ)充足)、これによりXを錯誤に陥らせて、甲土地の売買契約を締結しようとする二段の故意も認められる((ⅱ)充足)。また、このようなBの行為は、Xの判断を誤らせるものであり、取引上の信義則に反し違法である((ⅳ)充足)。そして、XはBの言葉を信用してBの支払能力等について錯誤に陥り、それに基づいて本件契約を締結している((ⅲ)充足)。
 したがって、Xによる詐欺取消しの要件を充足し、Xが8月28日に取消しの意思表示をしたことで、本件売買契約は遡及的に無効となる(121条)。
 その結果、Xは、現在も甲土地の所有権を有しているといえる(①充足)。また、甲土地にはY名義の登記が存在する(②充足)。
 以上より、Xの物権的妨害排除請求権は、要件を充足している。

 2(1) これに対し、Yは、自身が96条3項の「第三者」に当たるとして、Xの詐欺取消しをYに「対抗することができない」結果、Xは所有権を喪失し、要件①を充足しないとの所有権喪失の抗弁を主張すると考える。
 そこで、96条3項の「第三者」の意義が、条文上明らかでなく、問題となる。

  (2) 96条3項の趣旨は、取消しの遡及効(121条)を制限することによって、詐欺により形成された法律関係を基礎として、利害関係を有するに至った第三者を保護することで、取引の安全を確保することにある。
 そこで、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、詐欺取消し前に、詐欺により形成された法律関係を基礎として新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する。

  (3) 本件において、Yは、Xが詐欺取消しの意思表示を行った8月28日の後である9月5日に甲土地を買い受けている。そのため、Yは、96条3項の「第三者」には当たらず、この抗弁は認められない。

 3(1) そこで、Yは、Xが甲土地の登記を備えていないことから、177条の「第三者」であるYに対して、所有権の復帰を対抗することができない結果、Xは要件①を充足しないとの、対抗要件の抗弁を主張すると考える。
 しかし、Xの取消しによって本件売買契約は遡及的に無効となる(121条)ところ、そもそも取消権者であるXと取消し後の第三者であるYとの間に177条が適用されるのか。適用されるとして、Yは177条の「第三者」に当たるかが問題となる。

   (2)ア 確かに、96条3項は取消しの遡及効から第三者を保護する趣旨であるため、取消「後」の第三者であるYは同条項では保護されない。
 しかし、取消しによる遡及的無効(121条)も法的擬制にすぎず、取消しまでは有効な法律行為が存在していたのであるから、取消し時点において観念的にBからXへの復帰的物権変動が生じたといえる。そうすると、Bを起点として、Xへの復帰とYへの譲渡という二重譲渡がなされたものと同様に構成できるため、取消後の第三者と被欺罔者の関係は対抗問題となり、177条が適用されると解する。

    イ そして、177条の趣旨は、自由競争の枠内にある者の不測の損害を防ぐことにあるため、同条にいう「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいうと解する。
 ここで、単なる悪意者は「第三者」に含まれるが、自由競争の枠を超え、登記の欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反すると認められる背信的悪意者は「第三者」に当たらないと解する。

  (3) 本件において、YはBから甲土地を6000万円で買い受けており、通常の取引関係に入った者といえる。また、YがXを害する目的を有していた等の背信的悪意者であることをうかがわせる事情は認められない。
 したがって、Yは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者として、177条の「第三者」に当たる。
 そして、Yは9月5日に甲土地の所有権移転登記をすでに備えているのに対し、Xは登記を備えていない。よって、Xは所有権の復帰をYに対抗することができず、要件①を充足しないことになる。

4 以上より、XのYに対する所有権(民法(以下法令名省略)206条)に基づく物権的妨害排除請求権としての甲土地所有権移転登記抹消登記請求に代わる所有権移転登記請求は認められない。

以上

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