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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題54 会社分割における会社債権者の保護

目次

 

【参考答案】

第1 会社法764条4項に基づく履行請求について

1 XはY₂に対し、会社法(以下法令名省略)764条4項に基づき、リース料相当額を請求することが考えられる。

2 764条4項は、「新設分割会社が新設分割設立株式会社に承継されない債務の債権者」すなわち、残存債権者「を害することを知って新設分割をした場合には、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる」と規定する。

3 XはY₁に対しリース料債権を有している。しかし、同債権は本件新設分割計画において「承継の対象とされていな」かった。したがって、XはY₁の残存債権者に当たる。
 そして、Y₁は本件分割計画を作成した日から会社分割の効力発生日に至るまで、債務超過の状態にあったにもかかわらず、Y₁はクレープ飲食事業という主たる事業に関する権利義務をY₂に承継させている。これにより、Y₁に残されたリース料の支払原資となるべき責任財産がすべてY₂に移転することになるから、残存債権者であるXの債権回収を著しく困難にさせるもので、Xを「害する」行為といえる。
 Y₁は、自らが債務超過であることを認識し、Xのリース料債権が承継されないことを知った上で本件新設分割を行っているから、この分割によって残存債権者であるXを「害することを知って」いたといえる。

4 よって、Xは764条4項の要件を満たすから、新設分割設立会社であるY₂に対し、Y₂がY₁から承継した財産の価額を限度として、未払いのリース料相当額の支払いを請求することができる。

第2 民法424条1項に基づく詐害行為取消権の行使について

1 XはY₂に対し、Y₁・Y₂間の本件新設分割が詐害行為に当たるとして、民法424条1項に基づく詐害行為取消権として本件新設分割の取消請求をするとともに、価額賠償(424条の6第1項)としてリース料相当額の返還請求をすることが考えられる。
 そこで、会社法764条4項との関係で民法424条の規定の適用が認められるか、また、会社分割のような組織再編行為が詐害行為取消しの対象になるかが問題となる。

 2(1) 会社法764条4項は、残存債権者に直接履行請求権を認める規定であるのに対し、民法424条は、詐害行為の効力を相対的に否定して、責任財産を回復する規定である。このように、両制度は目的・効果が異なり、会社法にも民法の適用を排除する明文規定はないことから、互いに排除し合う関係にはないと解する。

  (2) 会社分割は組織再編行為であると同時に、実質的には事業という「財産権を目的とする法律行為」(民法424条2項)としての性質も有している。そのため、会社法が残存債権者に対して十分な保護を予定していない場合には、その保護の必要性から、詐害行為取消権の行使の対象となり得ると解する。

 3(1) 本件では、分割会社Y₁が設立会社Y₂の株式を株主に分配していない。そのため、残存債権者Xは、債権者異議手続の対象となっていない(810条1項2号)。そうすると、残存債権者に対して十分な保護が予定されておらず、保護の必要性が認められる。したがって、詐害行為取消権の適用対象となる。

  (2) Y₁は、債務超過の状態にあったにもかかわらず、その主たる事業であるクレープ飲食事業に関する権利義務をY₂に承継させている。これは、Y₁の「責任財産」を減少させ、残存債権者であるXがリース料債権の満足を得ることを困難にさせる行為だから、Xを「害する」行為に当たる。
 Y₁は、自らが債務超過であることを認識し、Xのリース料債権が承継されないことも知った上で、本件新設分割を行っている。そのため、この分割によって残存債権者であるXを「害することを知って」いたと認められる(424条1項本文)。
 Y₂は、本件新設分割によって設立された会社であり、Y₁が発行済株式の全部の交付を受け、Y₂の完全親会社となる関係にある。このように、Y₁とY₂が実質的に一体といえる関係にあることから、受益者であるY₂も、本件新設分割がXを「害することを知って」いたと強く推認される。そのため、424条1項但書の適用はない。

4 したがって、Xは詐害行為取消権の要件をすべて満たすから、Y₂を被告として、本件新設分割の取消請求は認められる。一方で、織再編行為は効力発生により多数の利害関係人が発生するため、法的安定を図るべきであり、無効判決に遡及効が否定されていること(839条)からすると、承継した事業そのものをY₁に返還することは、認めるべきでない。そのため、XはY₂に対し、「価額を賠償」する方法(424条の6第1項)で、未払リース料相当額の限度で支払請求することができる。

第3 会社法22条1項の類推適用について

1 Y₂は、Y₁の登録商標「クレープハウス・ユニ」をそのまま商号として使用している。ここで続用されているのは、あくまで登録商標であることから、22条1項を直接適用することはできない。そこで、22条1項類推適用により、Y₂に支払いを求めることが考えられる。

2 この点、22条1項の趣旨は、商号続用により生ずる同一事業主体による事業継続や債務承継の外観に対する信頼を保護することにある。
 そこで、「商号」以外の事業上の名称であっても、①それが分割会社の事業主体を表示するものとして用いられている場合には、②特段の事情のない限り、同一事業主体による事業継続や債務承継についての債権者の誤認が生じる危険が高いから、その類推適用が認められると解する。

3 Y₂は、Y₁がクレープ飲食事業で営業していた「クレープハウス・ユニ」という登録商標を、そのまま自社の商号として使用している。この「クレープハウス・ユニ」という名称は、Y₁のクレープ飲食事業そのものを指すものとして、Xを含む取引先や一般の消費者から広く認識されていたと考えられる。したがって、これは「分割会社であるY₁の事業主体を表示するものとして用いられている」場合に当たる(①)。
 そして、Y₂が債務を引き継がないことをXに通知したり、あるいはその旨の登記をした(22条2項)といった、「特段の事情」があったことはうかがえない(②)。

4 したがって、Xは、Y₂に対し、会社法22条1項を類推適用して、リース料相当額の支払いを請求することができる。

第4 結論

1 したがって、Xのとることのできる手段は、以上の3つの方法が考えられる。

以上

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