【関係図】

【答案構成】
1 Y₁らの主張①・②の提示
2 主張①について
(1)ア 前提処理(合意管轄の有効性(11条1項))+問題提起1(A・Y₁間合意を債権譲渡を受けたXが援用可能か。)
イ 規範定立(管轄合意の承継)
ウ 当てはめ・結論
(2)ア 問題提起2(本件管轄合意は公序良俗(90条)違反として無効とならないか。)
イ 規範定立(管轄合意はいなかる場合に公序良俗違反となるか)
ウ 当てはめ(A銀行=貸主⇔Y₁=両者の取引上の立場には、一定の差が存在。+ 本件取引は、A銀行奈良支店で行われた。Y₁の本店も奈良市所在→本件紛争と実質的な関連性を有する場所は奈良 + 東京との関係は、A銀行の本店所在地であるという点⇄Y₁に東京地裁での応訴を強いることは、相当の時間的・経済的負担を課す
→本件管轄合意は、著しく合理性を欠き、公序良俗に反し無効。)
(3) 管轄違いを否定する理由(債権者Xの本店所在地にも管轄権あり(5条1号、民法484条1項)→東京地裁にも管轄が認められ、管轄違いはない。)
→結論(管轄違いを理由とする16条1項に基づく移送不可。)
3 主張②について
(1) 問題提起(主張②の17条に基づく移送の申立ては認められるか。)
(2) 規範(民事訴訟法17条の提示)
(3) 当てはめ(Y₁は奈良市に本店を置く=奈良地裁にY₁の普通裁判籍に基づく管轄あり(4条1項・4項)。Y₂に対する請求は、併合請求の裁判籍により奈良地裁に管轄あり(7条)。→奈良地裁は、17条にいう「他の管轄裁判所」に当たる。
証拠は奈良に集中→証拠調べは奈良地裁で行うのが効率的。+ Y₁・Y₂の本拠は奈良=東京地裁での訴訟追行は時間的・経済的負担大⇔Xは本件債権をA銀行から譲り受けたにすぎない。→Y₁らが東京での応訴を強いられるという不利益を甘受すべき理由は乏しい。
→「当事者間の衡平を図るため必要があると認め」られ、17条に基づく移送の申立ては可能)
【参考答案】
1 Y₁らは、主張①として、A銀行とY₁との間の専属的管轄合意が公序良俗ないし独占禁止法に反して無効であり、東京地裁には管轄権がないため、民事訴訟法(以下、法令名省略)16条1項に基づいて奈良地裁に移送されるべきであると主張している。
また、主張②として、仮に東京地裁に管轄権が認められるとしても、奈良地裁で審理する方が当事者間の衡平に資するため、17条に基づいて奈良地裁に移送されるべきであると主張している。
そこで、上記、Y₁らによる移送の申立ては認められるか、各主張について検討する。
2 主張①について
(1)ア 前提として、当事者間の合意で管轄裁判所を定めることは、第一審に限って有効である(11条1項)。そして、本件では、A銀行とY₁との間の合意を、A銀行から債権譲渡を受けたXが援用している。この援用は認められるか。
イ 管轄合意は訴訟法上の合意であるものの、その債権をどの裁判所で行使するかを定めるものであり、債権行使の条件として、その債権と不可分一体の関係にあると考えられる。
そうだとすれば、債権譲渡に伴い、債権行使の条件として、債権譲渡と一体となって管轄合意の効力も債権の譲受人に引き継がれるべきである。
ウ そうすると、債権譲渡を受けたXには、A・Y₁間の本件管轄合意の効力も一体として譲渡されており、Xは本件管轄合意を援用することができる。
(2)ア 次に、本件管轄合意は公序良俗(90条)に反し、無効とならないか。
イ 当事者間の合意による管轄の定め(11条)も、契約の一種である以上、その内容が著しく不合理である場合には公序良俗(民法90条)に反し無効となりうる。
具体的には、当事者間の立場、合意された管轄裁判所と紛争との関連性、一方当事者に生じる応訴の負担等を総合考慮して判断すべきである。
ウ 本件では、A銀行は東京都中央区に本店を置き、奈良県にも支店を有する銀行であるのに対し、Y₁は奈良市に本店を置き、A銀行から融資を受ける立場にあった。そのため、A銀行とY₁との間には、取引上の立場に一定の差があったと考えられる。
また、本件取引はすべてA銀行奈良支店で行われており、Y₁も奈良市に本店を置いている。このため、本件紛争と実質的な関連性を有する場所は奈良である。
これに対し、東京との関係は、A銀行の本店が東京にあるという点にある。A銀行にとっては、各支店に関する紛争を本店所在地の裁判所に集中させることに一定の合理性が認められるものの、Y₁に東京地裁での応訴を強いることは、相当の時間的・経済的負担を課すことになる。
以上からすれば、本件管轄合意は、紛争と東京との関連性が乏しい一方で、Y₁に大きな応訴上の負担を課すものとして、公序良俗に反し無効となる。
(3) もっとも、上記のとおり本件管轄合意が無効だとしても、債権譲渡により債権者はXとなっている。そのため、Xの本店所在地である東京都を管轄する裁判所にも管轄権が認められる(5条1号、民法484条1項)。
したがって、東京地裁は義務履行地の管轄裁判所として管轄権を有するため、管轄違いはない。
よって、管轄違いを理由とする16条1項に基づく移送は認められない。
3 主張②について
(1) 主張①で検討したとおり、本件管轄合意は無効である。もっとも、東京地裁には義務履行地としての管轄権(5条1号)が認められる。そこで、主張②として、17条に基づく移送の申立ては認められるか。
(2) 民事訴訟法17条は、第1審裁判所が「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」は、申立てにより又は職権で、訴訟を他の管轄裁判所に移送することができると規定する。
その判断にあたっては、当事者・証人の住所、検証物の所在地等を考慮する。
なお、当事者が専属的管轄合意をしていた場合であっても、17条による移送は排除されない(20条1項括弧書)。
(3) まず、Y₁は奈良市に本店を置いているため、奈良地裁にはY₁の普通裁判籍に基づく管轄が認められる(4条1項・4項)。Y₂に対する請求についても、併合請求の裁判籍により奈良地裁に管轄が認められる(7条)。したがって、奈良地裁は、17条にいう「他の管轄裁判所」に当たる。
そして、本件取引は、すべてA銀行奈良支店において行われていたことから、貸付契約に関する書類等の物証や、契約締結に関与したA銀行の担当者、Y₂の保証意思を知る関係者といった人証は、そのほとんどが奈良に集中していると考えられる。したがって、証拠調べは奈良地裁で行うのが最も効率的であるといえる。
被告であるY₁およびY₂は奈良に本拠を置いているため、東京地裁で訴訟追行をすることになれば、そうとうな時間的・経済的負担を強いられる。他方、原告Xは東京に本店を置くものの、本件債権をA銀行から譲り受けたにすぎない。元々の債権者であったA銀行の取引窓口が奈良支店であったことを踏まえれば、Xが債権を譲り受けたことによって、Y₁らが東京での応訴を強いられるという不利益を甘受すべき理由は乏しい。
以上を総合すると、本件訴訟を東京地裁で審理することは、被告らに著しい負担を強いる一方で、訴訟の効率的な進行にも資さない。
よって、「当事者間の衡平を図るため必要があると認め」られることから、17条に基づく移送の申立ては認められる。
以上

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