スポンサーリンク

参考答案 Law Practice 民事訴訟法〔第5版〕 問題4 移送

目次

【関係図】

Law Practice 民事訴訟法〔第5版〕 問題4 関係図

【答案構成】

 1 Y₁らの主張①・②の提示

 2 主張①について

 (1)ア 前提処理(合意管轄の有効性(11条1項))+問題提起1(A・Y₁間合意を債権譲渡を受けたXが援用可能か。)

イ 規範定立(管轄合意の承継)

ウ 当てはめ・結論

 (2)ア 問題提起2(本件管轄合意は公序良俗(90条)違反として無効とならないか。)

イ 規範定立(管轄合意はいなかる場合に公序良俗違反となるか)

ウ 当てはめ(A銀行=全国展開する大銀行⇔Y₁=奈良県に本店を置く一企業→交渉力・経済力に相当の格差が存在。+ 銀行取引約定書は、A銀行が一方的に作成→Y₁の交渉機会は実質的に不存在。+ 証拠等は奈良県に集中→東京地裁での訴訟追行は時間的・経済的に著しい困難あり。
→本件管轄合意は、著しく合理性を欠き、公序良俗に反し無効。)

(3) 管轄違いを否定する理由(債権者Xの本店所在地にも管轄権あり(5条1号、民法484条1項)→東京地裁にも管轄が認められ、管轄違いはない。)
→結論(管轄違いを理由とする16条1項に基づく移送不可。)

3 主張②について

(1) 問題提起(主張②の17条に基づく移送の申立ては認められるか。)

(2) 規範(民事訴訟法17条の提示)

(3) 当てはめ(証拠は奈良に集中→証拠調べは奈良地裁で行うのが効率的。+ Y₁・Y₂の本拠は奈良=東京地裁での訴訟追行は時間的・経済的負担大⇔Xは本件債権をA銀行から譲り受けたにすぎない。→Y₁らが東京での応訴を強いられるという不利益を甘受すべき理由は乏しい。
→「当事者間の衡平を図るため必要があると認め」られ、17条に基づく移送の申立ては可能)

 

【参考答案】

 1 Y₁らは、主張①として、A銀行とY₁間における専属的管轄合意は公序良俗ないし独占禁止法に違反し、無効であるから東京地裁は管轄権を有しない。よって、管轄違いにより民事訴訟法(以下、法令名省略)16条に基づき奈良地裁に移送されるべきである。また、主張②として、仮に東京地裁に管轄が認められるとしても、奈良地裁における審理のほうが当事者間の衡平に資するため、17条に基づき奈良地裁に移送されるべきであるとの主張をするものと考える。
 上記、Y₁らによる移送の申立ては認められるか。

 2 主張①について

 (1)ア 前提として、当事者間の合意で管轄裁判所を定めることは、第一審に限って有効である(11条1項)。本件では、AとY₁との合意を、Aから債権譲渡を受けたXが援用しているが、この援用は認められるか。

イ 管轄合意は、訴訟法上の合意であり、債権の譲渡人と債務者との間での管轄合意を、譲受人が当然に援用できるとは限らないように思える。しかし、管轄合意の内容は、債権者が債権の内容について実現を図る際の合意であり、債権行使の条件として、債権と不可分一体の合意といえる。そうだとすれば、債権譲渡に伴い、債権行使の条件として、債権譲渡と一体となって、管轄合意の効力も債権の譲受人に引き継がれるべきである。

ウ そうすると、債権譲渡を受けたXには、A・Y₁間の本件管轄合意の効力も一体として譲渡されており、Xは本件管轄合意を援用することができる。

 (2)ア 次に、本件管轄合意は公序良俗(90条)に反し、無効とならないか。

イ 当事者間の合意による管轄の定め(11条)も、契約の一種である以上、その内容が著しく不合理である場合には公序良俗(民法90条)に反し無効となりうる。
 具体的には、当事者間の格差の程度、合意された管轄裁判所と事件の具体的実情との関連性、一方当事者に応訴の著しい困難を強いるものとならないか等を総合考慮して判断すべきである。

ウ 本件では、A銀行は全国的に展開する大銀行であるのに対し、Y₁は奈良県に本店を置く一企業にすぎず、両者間には交渉力・経済力に相当の格差が存在する。そして、本件管轄合意が定められている銀行取引約定書は、A銀行が一方的に作成したものであり、Y₁がその内容について交渉する機会は実質的になかったものと推認される。
 また、この取引はすべてA銀行奈良支店において行われていたことから、本件貸付に関する契約書類等の証拠や、取引に関与したA銀行の担当者といった証人も、奈良に集中していると考えられる。にもかかわらず、単にA銀行の本店所在地であるというだけの理由で、事件の実情とは関連性の乏しい東京地裁を管轄裁判所としている。そして、その結果、奈良に本拠を置くY₁らは、東京地裁での訴訟追行を強いられることになり、防御権の行使に時間的・経済的に著しい困難を強いられることになる。
 以上を総合すれば、本件管轄合意は、優越的地位にあるA銀行が取引の実態を無視し、Y₁らに一方的な不利益を課すものであり、著しく合理性を欠く。
 したがって、本件管轄合意は公序良俗に反し無効である。

(3) もっとも、上記のとおり本件管轄合意が無効だとしても、債権譲渡により債権者はXとなっている。そのため、Xの本店所在地である東京都を管轄する裁判所にも管轄権が認められる(5条1号、民法484条1項)。
 したがって、東京地裁は義務履行地の管轄裁判所として管轄権を有するため、管轄違いはない。
 よって、管轄違いを理由とする16条1項に基づく移送は認められない。

3 主張②について

(1) 主張①で検討したとおり、本件管轄合意は無効である。もっとも、東京地裁には義務履行地としての管轄権(5条1号)が認められる。そこで、主張②として、17条に基づく移送の申立ては認められるか。

(2) 民事訴訟法17条は、第1審裁判所が「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」は、申立てにより又は職権で、訴訟を他の管轄裁判所に移送することができると規定する。
 その判断にあたっては、当事者・証人の住所、検証物の所在地等を考慮する。

(3) 本件取引は、すべてA銀行奈良支店において行われていたことから、貸付契約に関する書類等の物証や、契約締結に関与したA銀行の担当者、Y₂の保証意思を知る関係者といった人証は、そのほとんどが奈良に集中していると考えられる。したがって、証拠調べは奈良地裁で行うのが最も効率的であるといえる。
 被告であるY₁およびY₂は奈良に本拠を置いているため、東京地裁で訴訟追行をすることになれば、多大な時間的・経済的負担を強いられる。他方、原告Xは東京に本店を置くものの、本件債権をA銀行から譲り受けたにすぎない。元々の債権者であったA銀行の取引窓口が奈良支店であったことを踏まえれば、Xが債権を譲り受けたことによって、Y₁らが東京での応訴を強いられるという不利益を甘受すべき理由は乏しい。
 以上を総合すると、本件訴訟を東京地裁で審理することは、被告らに著しい負担を強いる一方で、訴訟の効率的な進行にも資さない。
 よって、「当事者間の衡平を図るため必要があると認め」られることから、17条に基づく移送の申立ては認められる。

以上

コメント