目次
【答案構成】
第1 設問1について
1(1) 規範定立(権限の委任の定義)
(2) 当てはめ(本件の委任に基づく行為の主体はA市福祉事務所長)
2(1) 規範定立(専決の定義)
(2) 当てはめ(本件の専決に基づく行為の主体も外部的にはA市福祉事務所長)
第2 設問2について
1(1) 規範(取消訴訟の被告適格の原則(行訴法11条1項1号))
(2) 当てはめ(本件の処分庁はA市福祉事務所長、所属公共団体はA市→被告はA市)
2(1) 規範(義務付け訴訟の被告適格の原則(行訴法38条1項による11条準用))
(2) 当てはめ(処分等を行うべき行政庁はA市福祉事務所長、所属公共団体はA市→被告はA市)
第3 設問3について
1 問題提起:(拒否処分の効力の停止の申立ては認められるか。)
2 規範定立(執行停止における申立ての利益)
3 当てはめ(拒否処分の効力を停止しても申請が認容された状態にはならず、Xの権利保全につながらない。)
4 結論
第4 設問4について
1 問題提起と要件の列挙(本件で問題となる要件の特定。)
2(1) 規範定立(「償うことのできない損害」の定義・判断基準)
(2) 当てはめ( Xの具体的状況・損害の性質から要件充足性を肯定。)
3(1) 規範定立(「緊急の必要」の定義)
(2) 当てはめ(Xの金銭的余裕のなさ→危険が間近に迫っていると評価し、要件充足。)
4 結論
【参考答案】
第1 設問1について
1(1) 権限の委任とは、法律の根拠に基づき、特定の権限が委任行政庁から受任行政庁へと移転することをいう。委任により、委任行政庁は当該権限を失い、受任行政庁が自己の名と責任において権限を行使する。
(2) A市福祉事務所長が、生活保護法第19条第4項及びA市福祉事務所長委任規則第2条1号に基づき、市長から保護開始決定に関する権限の委任を受けて行う行為は、国民との関係では、福祉事務所長自身の行為として、その名と責任において行われる。よって、その主体はA市福祉事務所長となる。
2(1) 専決とは、行政庁が有する権限について、その内部の補助機関に事務処理上の決定権を委ねることをいう。これはあくまで内部的な事務処理の分担であり、権限そのものが移転するわけではない。したがって、専決に基づいてなされた行為は、外部の国民との関係では、本来の権限を有する行政庁の名で表示される。
(2) 福祉事務所長がA市福祉事務所長委任規則第8条に基づき、所属職員が行う専決行為は、外部に対する表示は福祉事務所長の名で行われる。したがって、その行為主体は、法的にはA市福祉事務所長となる。
第2 設問2について
1(1) 取消訴訟の被告適格は、「処分をした行政庁が所属する国又は公共団体」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)11条1項1号)に認められる。
(2) 本件では市長から福祉事務所長へ権限の委任(生活保護法第19条第4項、A市福祉事務所長委任規則第2条1号)がなされているため、国民であるXとの関係で処分名義人となるのはA市福祉事務所長である。したがって、処分庁はA市福祉事務所長となる。
そして、処分庁である福祉事務所長が所属する公共団体は、問題文の前提よりA市である。
よって、Xが拒否行為の取消訴訟を提起する場合、A市を被告とすべきである。
2(1) 申請満足型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)の被告適格は、取消訴訟の被告適格を定めた行訴法11条が準用されている(行訴法38条1項)。したがって、申請満足型義務付け訴訟の被告適格も、取消訴訟と同様に、「処分又は裁決をした行政庁が所属する国または公共団体」となる。
(2) 本件で保護開始決定を行うべき行政庁は、権限の委任を受けたA市福祉事務所長であり、その所属する公共団体はA市である。
よって、Xが保護開始決定の義務付け訴訟を提起する場合、A市を被告とすべきである。
第3 設問3について
1 Xによる拒否処分の効力の停止を求める執行停止の申立て(行訴法25条2項本文)は認められるか。
2 執行停止制度は、本案判決確定までの間、法状態の暫定的な安定を図り、申立人の権利保全及び損害の発生・拡大防止を目的とするものである。
したがって、申立てによって何らかの法的利益が回復される見込みがなければ、申立ての利益を欠き、不適法となる。
3 本件でXが申立ているのは、申請拒否処分の効力の停止である。仮に、この申立てが認められ、拒否処分の効力が停止されたとしても、その効果は、Xの申請に対し行政庁が未だ応答していないという、申請が係属している状態に戻るにすぎない。そして、執行停止決定の従って処分庁が改めて処分をやり直す効果は認められない(行訴法33条4項は同条2項を準用しない)。
そうだとすれば、拒否処分の効力を停止したとしても、Xが本案訴訟で求める権利の保全には全くつながらず、Xの置かれた状態は何ら回復されない。
4 よって、本件申立ては、Xの権利利益を実際上回復させるものではないから、申立ての利益を欠き、認められない。
第4 設問4について
1 Xによる保護開始決定の仮の義務付けの申立て(行訴法37条の5第1項)は、認められるか。
仮の義務付けの要件は、①義務付けの訴えの提起があること、②処分がされないことにより生ずる償うことのできない損害があること、③当該損害を避けるため緊急の必要があること、④本案について理由があるとみえること(要件①~④につき、行訴法37条の5第1項)、⑤公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと(同条3項)が必要である。
本問では、①、④、⑤の要件は満たされていることが前提とされているため、要件②「償うことのできない損害」と③「緊急の必要」の有無が問題となる。
2(1) 「償うことのできない損害」とは、執行停止の要件である「重大な損害」(行訴法25条2項)よりも高度な、回復困難な損害をいう。具体的には、事後的な金銭賠償がなされたとしても、社会通念上、それによって償われない性質の損害を指す*1。
その有無の判断に際しては、明文規定はないものの、仮の救済が認められるための「損害」の程度の評価基準として共通するから、行訴法25条3項の諸事情を総合考慮して判断すべきである*2。
(2) Xは身寄りのない高齢者であり、重病により就労できず、生活を支える金銭的余裕が全くない状態にある。このような状況で保護が開始されなければ、Xは日々の食事や医療を受けることすらできなくなり、その生命・身体に重大な危険が及ぶことは明らかである。このような生命・身体に対する侵害は、一度生じてしまえば事後的な金銭賠償による回復は不可能か、著しく困難である。
また、生活保護費の不支給による損害は金銭的な側面を持つものの、Xにとっては、それは単なる金銭ではなく、生命を維持するための不可欠な糧そのものである。身寄りもなく自力で収入を得る途もないXに対し、本案判決を待って事後的な賠償を受ければよいと甘受させることは、社会通念上著しく不相当である。
したがって、Xには「償うことのできない損害」が生ずるおそれがあると認められる(要件②充足)。
3(1) 「緊急の必要」とは、損害の発生を避けるために、本案判決を待つことなく直ちに仮の救済を認める必要があることをいう。
(2) 本件において、Xは金銭的余裕が全くない状況にあるから、保護が開始されなければ、直ちに生活が困窮し、上記のような生命・身体への危険が現実化する可能性が高い。そうであるならば、損害の発生が間近に迫っているといえ、本案判決を待っていては救済が間に合わない。よって、「緊急の必要」も認められる。
4 よって、本件申立ては行政事件訴訟法37条の5の要件を全て充足するため、当該申立ては認められる。
以上

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