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参考答案 基礎演習行政法〔第2版〕第Ⅳ部 国家補償 第1問 国家賠償法1条

目次

【答案構成】

第1 設問1について

1 Xの主張(国賠法1条1項の「違法」を公権力発動要件欠如説で解すべきである)

2 当てはめ(公権力発動要件欠如説による「違法」要件への当てはめ)

 3(1) 当てはめ(「過失」要件)

  (2) 当てはめ(「損害」・「因果関係」要件)

4 結論

第2 設問2について

1 国の主張(国賠法1条1項の「違法」を職務行為基準説で解すべきである)

 2(1) 規範定立(職務行為基準説による国賠法1条1項「違法」性の判断基準)

  (2) 当てはめ(職務上の注意義務違反の不存在認定)

3 結論(国賠法1条1項の「違法」性要件の不充足)

第3 設問3について

1 問題提起(職務行為基準説には、以下の2・3・4において主張する問題点があるため、公権力発動要件欠如説によるべきである)

 2(1) 批判①(国家賠償制度の趣旨の提示)

  (2) 批判①(公権力発動要件欠如説の優位性の提示)

  (3) 批判①(職務行為基準説の問題点の指摘)

 3(1) 批判②(国賠法1条1項の文言(条文構造)の提示)

  (2) 批判②(職務行為基準説の問題点(要件を混同する不自然な解釈となる点))

4 批判③(職務行為基準説の国民の権利救済の観点上の問題点)

5 結論

 

【参考答案】

第1 設問1について

1 Xは本件通知の違法性主張にあたり、「違法」(国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項)とは、「公権力の行使」を行うための法律要件が充足されていなかったにもかかわらず、「公権力の行使」が行われた場合をいう(公権力発動要件欠如説)と解すべきであると主張する。

2 本件通知は、関税法69条の11第3項に基づき、税関長が、本件写真集が同条1項7号の「風俗を害すべき書籍、図画」(以下、「わいせつ物」という)に該当すると認める相当の理由があるとして行ったものである。これは、税関長という「公務員」による「公権力の行使」であり、「その職務を行うについて」なされたものである。
 そして、本件通知は、その後の取消訴訟において、「本件写真集が高い芸術性を有し、関税法第69条の11第1項第7号の『風俗を害すべき書籍、図画』に該当しない」との理由で取り消され、その判決は確定している。この確定判決は、本件通知が、その根拠となる関税法上の実体法的要件たるわいせつ物該当性を客観的に欠いていたことを法的に確定させたものである。
 したがって、公権力発動要件欠如説に立てば、本件通知は、その発動要件を欠くものであり、客観的に「違法」であったといえる。

 3(1) 公権力発動要件欠如説からは、客観的違法性があれば足り、必ずしも過失は独立の要件ではない、と考える余地もある。
 しかし、仮に国賠法1条1項の文言通り過失が必要であるとしても、本件では、取消訴訟で本件通知の実体法上の要件欠如が確定している。わいせつ物に該当しないものを該当すると判断した点において、税関長には、客観的な法解釈・事実認定を誤ったことについて、少なくとも職務上通常尽くすべき注意義務を怠った「過失」が認められる。

  (2) Xは、本件通知により、本件写真集の輸入・所持が妨げられることに起因する「損害」を被っており、本件通知と損害との間には「因果関係」が認められる。

4 以上のように、Xは、国に対して損害賠償を請求できると主張すべきである。

第2 設問2について

1 Xの主張に対し、国は「違法」(国賠法1条1項)とは、公権力発動要件を充足されていなかったことに加え、職務上通常尽くすべき注意義務違反があった場合をいうと解すべきであると主張する。

 2(1) 確かに、後の取消訴訟での判断から、公権力発動要件たる「風俗を害すべき書籍、図画」に本件写真集は該当しないから、要件充足は認められない。しかし、職務行為基準説によれば、取消訴訟における違法性(取消違法)と国賠法上の違法性(国賠違法)は必ずしも一致するものではない。国賠法上の違法性は、行為時点における職務上の注意義務違反の有無によって判断されるべきである。

  (2) 税関長が本件通知を行った時点では、Xが帰国する半年ほど前に、本件各写真の一部と同一の写真を掲載したA氏の写真集について、これを関税法第69条の11第1項第7号の「風俗を害すべき書籍、図画」に該当するとの最高裁判決(以下「先行判決」という)が出されていた。
 加えて、本件写真集には、本件各写真、すなわち「男性性器を直接的、具体的に写し、これを画面の中央に目立つように配置」し、「性器そのものを強調し、その描写に重きを置くものとみざるを得ない写真」が、合計で19頁分も収録されていた。
 この先行判決と本件写真集の客観的内容という二つの要素から、本件写真集が「風俗を害すべき書籍、図画」に該当すると認めたことには「相当の理由」がある(関税法69条の11第3項)。
 すなわち、通知時点において、税関長として依拠しうる判断である先行判決と客観的な事実に従った判断であり、税関長に求められる職務上の注意義務を尽くした、合理的なものであったといえる。

3 したがって、本件通知は「違法」でない。

第3 設問3について

1 Xは、職務行為基準説には、以下のとおり、国家賠償制度の趣旨や国賠法1条1項の構造に照らして重大な問題点があると指摘する。そして、これらの問題点を踏まえれば、本件においては公権力発動要件欠如説によって本件通知の違法性を判断することが、国民の権利救済及び法の支配の観点から正当であると主張すべきである。

 2(1) 国家賠償制度の趣旨は、損害填補に加え、行政活動が法律に適合しているかをチェックし、違法な行政活動を是正させることで「法律による行政の原理」を確保するという機能にある。

  (2) 公権力発動要件欠如説によれば、行政行為が客観的に法律要件を欠く場合に違法性を認めるため、このチェック機能は有効に働く。

  (3) しかし、職務行為基準説によると、客観的に法律要件を欠く行政行為であっても、公務員に「職務上の注意義務違反」がなければ国賠法上の違法性は否定される。そうすると、結果としてそのような違法な行政活動が是正されずに放置される事態を招きかねず、法の支配を確保するという観点から重大な問題である。
 すなわち、職務行為基準説は、国家賠償請求訴訟が有すべき「法秩序維持機能」を弱めてしまうという問題点がある。

 3(1) 国賠法1条1項は、「違法に」という要件と、「故意又は過失によって」という要件を、文言上、区別して規定している。これは、原則として、まず行為の客観的な違法性を判断し、次に行為者の主観面である故意・過失を判断するという構造を予定していると解するのが自然である。

  (2) ところが、職務行為基準説は、「職務上の注意義務違反」という、本来「過失」の中核をなす要素を、「違法性」の判断要素として取り込んでしまっている。これは、法律が区別している二つの要件を混同するものであり、国賠法1条1項の条文の構造に適合しない、不自然な解釈であるといわざるを得ない。

4 上記と関連して、国民から見れば、行政行為に取消訴訟により取り消しを受ける違法があり、それによって損害を受けたという事実があれば、国がその責任を負うべきだと考えるのが自然である。
 しかし、職務行為基準説は、公務員の注意義務という、国民には窺い知れない要素によって賠償の可否を左右し、違法な公権力行使によって現実に発生した損害について、国民が救済を受けられないという不合理な結果をもたらす可能性がある。このように国民の権利救済という国賠制度の根源的な目的を十分に達成できない場面を生じさせる解釈は、法の制度趣旨から妥当性を欠く。

5 以上より、本件において職務行為基準説に依拠し、判断することは妥当ではないから、公権力発動要件欠如説によって本件通知の違法性を判断すべきである。

以上

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