スポンサーリンク

参考答案 Law Practice 民事訴訟法〔第5版〕 問題42 文書提出義務(2):職業の秘密

目次

 

【参考答案】

 1(1) 裁判所は、本件自己査定文書について文書提出命令を発令することができるか。
 まず、本件文書は、民事訴訟法(以下法令名省略)220条4号ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当し、提出義務が否定されないか。

  (2) 220条4号ニの趣旨は、内部文書の開示による所持者の不利益防止にある。
 そこで、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」とは、①専ら内部利用目的で作成され外部への開示が予定されておらず(外部非開示性)、②開示により所持者に看過し難い不利益が生じるおそれがあり(不利益性)、③特段の事情がない文書をいうと解する。

  (3) 本件文書である自己査定文書は、金融機関が法令によって資産査定を義務付けられていることに基づき作成されるものであり、監督官庁による検査においても、その正確性を裏付ける資料として利用されるものである。そうであれば、所持者であるY自身が利用するのみならず、それ以外の者である監督官庁等による利用が予定されているといえるため、外部への開示が予定されていない文書とはいえない(要件①不充足)。
 したがって、本件文書は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」には該当しない。

 2(1) 次に、220条4号ハ・197条1項3号の「職業の秘密」に関する事項が記載されている文書として、提出義務が否定されないかが問題となる。

  (2) 「職業の秘密」とは、その事項が公開されると当該職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものをいう。
 もっとも、「職業の秘密」に該当する場合であっても、直ちに提出を拒絶できるわけではなく、文書提出義務の有無は、(ⅰ)当該情報の内容、性質、開示により所持者に与える不利益の内容・程度と、(ⅱ)当該民事事件の内容、性質、証拠としての必要性の程度等の諸事情を比較衡量し、保護に値する秘密であるか否かによって決すべきである。

   (3)ア 本件文書には、顧客Aから取得した財務情報等の事実に関する部分と、Yが独自に行った分析評価に関する部分が含まれている。両者は保護されるべき利益の帰属主体や性質が異なるため、以下、これらを区分して検討する。

    イ 第1に、顧客Aから取得した事実部分について、金融機関は顧客情報について守秘義務を負う。しかし、守秘義務は個々の顧客との関係において認められるにすぎないため、顧客自身が訴訟において開示義務を負う場合には、守秘義務により保護されるべき「正当な利益」が認められず、「職業の秘密」として金融機関も開示を拒絶できない。
 本件では、Aについて既に民事再生手続が開始されており、その財務状況は債権者らに開示されている。したがって、本件訴訟でこれを開示してもAが被る不利益は小さく、A自身が開示義務を負うといえる以上、Yはこれを拒絶できない。

    ウ 第2に、Yが独自に行った分析評価情報は、Yのノウハウを含み、開示によりYの業務に影響を与え得るため、「職業の秘密」に該当する。
 しかし、Aの破綻は既に公になっており、過去の分析結果の開示がYの将来の業務に与える不利益は限定的である。他方、本件訴訟はYの詐欺的行為等の不法行為責任が争点であり、Yが当時Aの経営状態を主観的にどう認識していたかを証明するために、本件文書は代替性のない極めて重要な証拠である。  
 よって、証拠としての必要性が秘密保護の利益を上回るため、保護に値する秘密とはいえず、Yは提出義務を負う。

4 以上より、裁判所は本件文書について提出命令を発令することができる。

以上

コメント