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【参考答案】
1 本件において、Yは弁済の抗弁を主張するのみで、賭博契約である旨の事実は主張していない。民事訴訟においては、当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできないとする弁論主義の第1テーゼが妥当し、その適用対象は主要事実であるところ、公序良俗違反(民法90条)を基礎づける具体的事実は主要事実に当たる。
そうだとすれば、Yによる主張がない以上、裁判所は賭博の事実を認定して請求を棄却することはできないのが原則である。
もっとも、公序良俗規定は私的自治の限界を画する公益的な規定である。そこで、このような公益性の高い一般条項についても、弁論主義が妥当するか、その適用範囲が問題となる。
2 この点について、弁論主義の根拠は私的自治の訴訟法的反映にあるから、実体法上当事者の自由な処分が認められていない公序良俗違反のような公益的事項については、私的自治の要請が働かず、弁論主義の適用が後退し得るとも解される。
しかし、弁論主義には、当事者に攻撃防御の機会を付与し、不意打ちを防止するという手続保障機能も認められる。公序良俗違反の成否を判断するにあたっては、その評価根拠事実に対する評価障害事実が存在する可能性もあり、これらについて当事者に十分な弁論の機会を与える必要がある。
したがって、公序良俗違反についても弁論主義の適用があり、裁判所がこれを認定するためには、公序良俗違反の評価根拠事実が当事者によって主張されている必要があると解する。もっとも、公序良俗違反か否かといった法的評価は裁判所の専権事項であるから、事実の主張があれば足り、公序良俗違反による無効の主張までは不要であると解すべきである。
3 本件において、公序良俗違反の評価根拠事実は、消費貸借契約がYの野球賭博の資金とすることを目的とし、そのことを両者が認識していたという具体的事実である。 ところが、Yは債務を弁済した旨を主張するのみで、上記の評価根拠事実については一切主張していない。したがって、たとえAの証人尋問の結果から上記の事実が明らかになったとしても、当事者による主張がない以上、裁判所がこれを判決の基礎とすることはできない。
4 よって、裁判所は、公序良俗違反を理由にX・Y間の契約を無効と認定することはできず、Xの請求を棄却することはできない。
なお、公序良俗違反の事実が証拠上顕れているにもかかわらず、これを看過して請求を認容することは司法の廉潔性を害するおそれがある。そのため、裁判所としては、釈明権(民事訴訟法149条1項)を行使してYに事実の主張を促すべきであり、Yがこれに応じた場合には、請求を棄却することができる。
以上

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