参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題16 新株予約権の無償割当て

目次

 

【参考答案】

第1 小問(1)について

 1(1) XはY社による新株予約権無償割当ての差止めを求めるところ、新株予約権無償割当てには、直接の差止め規定がないため、その根拠条文が問題となる。

  (2) 新株無償割り当てに差止規定が設けられなかったのは、新株予約権無償割当てが、既存株主の持株数に応じて割当てが行われるため、株主が不利益を受けるおそれがないと考えらえたことによる。しかし、差別的行使条件等の定め方次第で既存株主に不利益を与える可能性があり、募集新株予約権発行同様、事前の救済手段を認める必要性が高い。
 そのため、新株予約権無償割当てにも、株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には、247条が類推適用されると解される。

  (3) 本件において、XはY社株式の約34.9%を保有している。これは、株主総会の特別決議(309条2項)を単独で否決できる持株比率であり、Xは会社の経営に対して重大な影響力を有しているといえる。
 一方、本件新株予約権無償割当てが実行され、X以外の株主がこれを全て行使すると、Xの議決権比率は11.8%まで低下することになる。そうすると、Xは単独で特別決議を否決することができなくなり、その会社に対する影響力は著しく低下することになる。株主総会における拒否権を失うことは株主の地位に極めて重大な影響を及ぼすものだといえるから、本件新株予約権無償割当ては「株主の地位に実質的変動を及ぼす場合」に当たり、247条類推適用が認められる。

 2(1) では、差止事由が認められるか。本件新株予約権には差別的行使条件が付されていることから、株主平等原則(109条1項)の趣旨に反し、法令違反(247条1号類推適用)とならないかが問題となる

  (2) この点、新株予約権の差別的行使条件は、株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等原則(109条1項)に反するものではない。
 しかし、新株予約権無償割当ては株主としての資格に基づいて行われるものであり、会社法278条2項も割り当てる新株予約権の内容及び数が株主の有する株式数に応じたものであることを要求しているから、会社法109条1項に定める株主平等原則の趣旨が及ぶと解すべきである。
 もっとも、株主平等原則は絶対的なものではなく、個々の株主の利益は、会社の存立・発展なしには考えられない。したがって、①特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、株主の共同の利益が害されることになるような場合には、②当該株主を差別的に取り扱うことが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、例外的に差別的取扱いをすることも許されると解する。
 そして、①の必要性の判断は、会社の利益の帰属主体である株主自身によってなされるべきであるから、株主総会の手続が適正を欠くなど、その判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵がない限り、株主総会の判断が尊重されるべきである。

  (3) 本件の新株予約権無償割当ては、株主総会決議ではなく、Y社の取締役会決議によってのみ決定されている。そうすると、Xによる経営支配権の取得がY社の企業価値を本当に毀損するか否かにつき、株主自身の判断が示されていないことになる。そのため、①の必要性要件を充足しない。
 したがって、本件新株予約権無償割当ては、株主平等原則の趣旨に反し、法令違反(247条1号類推)が認められる。

 3(1) 次に、本件新株予約権無償割当てが「著しく不公正な方法」により行われたとして、差止事由とならないか。

  (2) この点、取締役の選解任は、株主総会の専決事項である(329条1項、339条1項)から、被選任者である取締役が選任者たる株主の構成を変更する目的で新株予約権無償割当てを行うことは、会社法が定める機関権限の分配秩序に反する。  
 したがって、現経営陣の経営支配権の維持・確保を主要な目的として行われている場合には、原則として「著しく不公正な方法」に当たると解すべきである。  
 もっとも、株主全体の利益保護の観点から、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するために行われる場合には、例外的に不公正発行には当たらないと解する。

  (3) 本件では、2024年1月に経営陣を入れ替える株主提案がなされたことを発端として、Y社の経営陣とXとの間で激しい支配権争いが生じている。このような状況下で、Y社取締役会は、Xの議決権比率を約3分の1(34.9%)から拒否権を持たない水準(11.8%)まで大幅に低下させるような、差別的行使条件付き新株予約権無償割当てを強行しようとしている。
 これらの事情からすれば、本件割当ては、Y社の現経営陣が自らの経営支配権を維持・確保することを主要な目的としていると推認される。そして、Xによる支配権取得が企業価値を毀損するかどうかについて株主総会決議を経ておらず、正当化事由も認められない。
 したがって、本件割当ては「著しく不公正な方法」により行われるものといえる。

  (4) 以上より、本件新株予約権無償割当てには、法令違反(247条1号類推)及び著しく不公正な方法(同条2号類推)による瑕疵があり、Xが不利益を受けるおそれ(同条柱書)も認められるため、Xの差止請求は認められる。

第2 小問(2)について

1 (ⅰ)Xの持株比率が設例の34.9%よりも低い場合、Xは特別決議の拒否権を有していないことになる。そのため、Xにおいて「拒否権の喪失」という事情がない場合でも、なお247条を類推適用して差止めを請求できるかが問題となる。
 また、(ⅱ)Y社において本件割当てにつき株主総会の特別決議を経ていることから、(ⅰ)の事情と併せて、株主平等原則違反の判断における「必要性」や、不公正発行の判断における「主要目的」の認定に影響し、Xの差止請求が認められないのではないかが問題となる。

2 まず、247条類推適用の可否について検討する。
 確かに、小問(1)と異なり、Xは単独で特別決議を否決できる地位(拒否権)を有していないため、本件割当てによってその地位を失うわけではない。
 しかし、新株予約権無償割当てが実行されれば、Xの持株比率は大幅に低下することになり、会社経営に対する影響力が減殺されることに変わりはない。したがって、このような場合でも、なお株主の地位に重大な影響を及ぼす「実質的変動」があるといえるから、247条の類推適用自体は認められる。

 3(1) では、株主平等原則(109条1項)違反として、法令違反(247条1号類推)が認められるか。第1-2(2)の基準に従い判断する。

   (2)ア 本件では、株主総会特別決議が可決されている。これはXに経営権を委ねることは企業価値の毀損につながるという点について、株主自身の判断が示されたことを意味する。そして、当該判断に正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められないから、その判断は尊重されるべきであり、必要性が認められる。

    イ 本件新株予約権には、非適格者であるXは権利行使できないものの、Y社が現金またはそれに相当する対価でこれを取得する旨の条項が付されている。これにより、Xは持株比率が低下しても、その経済的価値に見合う対価を受け取ることができるため、経済的な損害まで被るわけではない。
 したがって、差別的取扱いが衡平の理念に反し相当性を欠くとまでは言えず、相当性も認められる。

  (3) 以上より、本件割当ては株主平等原則の趣旨に反せず、法令違反には当たらない。

 4(1) 次に、本件新株予約権無償割当てが「著しく不公正な方法」(247条2号類推)により行われたとして、差止事由が認められるか。第1-3(2)の基準に従い判断する。

  (2) そもそも、株式会社における経営支配権の帰趨は、株主総会の専決事項である(329条1項、339条1項)。したがって、特定の株主による支配権取得が企業価値や株主共同の利益を害するかどうかの判断は、最終的にはその利益の帰属主体である株主自身によってなされるべきである。
 そこで、本件割当てを行うにあたり、株主総会の特別決議を経ていることからすると、株主自身がXに経営権を委ねることは企業価値を毀損すると判断し、防衛策の導入を支持したという総意が形成されたことを意味する。そうすると、本件割当ては現経営陣の経営支配権の維持・確保を主要な目的とするものではなく、株主共同の利益の確保を目的とするものとして正当化され、機関権限の分配秩序にも反しない。
 したがって、「著しく不公正な発行」(247条2号類推)に当たらない。

5 以上より、Xによる差止請求は認められない。よって、Xの持株比率が設例より低く、Yにおいて、株主総会決議の特別決議経る場合、結論は異なることになる。

第3 小問(3)について

1 新株予約権が割り当てられてしまった場合、その行使に基づく新株発行を差し止めることができるか(210条)。

2 この点、新株予約権無償割当ては、将来その権利が行使されて新株が発行されることを当然に予定した一連の手続きである。
 したがって、先行する新株予約権無償割当てに法令違反や著しく不公正な方法といった瑕疵がある場合には、それに続く新株発行手続も、当然にその瑕疵を引き継いだものと解すべきである。 

3 小問(1)で検討した通り、本件新株予約権無償割当てには、法令違反および著しく不公正な方法による瑕疵がある。
 よって、当該新株予約権の行使に基づく新株発行についても同様の瑕疵が認められるため、Xは会社法210条に基づき、新株発行を差し止めることができる。

以上

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