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参考答案 Law Practice 民法Ⅰ総則・物権編〔第5版〕 問題2 制限行為能力者:高齢者

目次

 

【参考答案】

 1 XはYに対し、乙建物の賃貸借の本件予約に付された本件特約(民法(以下法令名省略)420条1項)に基づき、3000万円の損害賠償を請求する。

 2(1) そこで、Yは次のように反論することが考えられる。本件予約は、AがYに無断で締結したものであり、Aに代理権は認められないことから無権代理(113条1項)である。その後、AはYの成年後見人(859条1項)として、本件予約の追認を拒絶する意思表示をしている。したがって、Yに効果が帰属しない。

(2) これに対してXは、Aには少なくとも家賃受領や更新交渉の基本権限があった(110条)、YはAに実印や印鑑登録カードを預けており、代理権授与表示があった(109条)などと表見代理の成立を再反論することが考えられる。

(3) しかし、Xは、Yが認知症になってからは、AがXとの間で交渉等を行っていたという事情を知っており、Y本人が事理弁識能力を欠く常況にあることを認識していたか、少なくとも容易に認識することができたはずである。
 そのため、Xには過失が認められ、表見代理は成立しない。

 3(1) そこで、Xは、無権代理人であるA自身が、後に後見人になったからといって、自らが行った行為の追認を拒絶することは、信義則(1条2項)に反し許されないと再反論することが考えられる。では、無権代理人であったAによる後見人としての追認拒絶が、信義則に反し無効となるか。

(2) この点、後見人は、本人の財産を守るために包括的な代理権(859条1項)を有すると同時に、本人の利益のために行動すべき善管注意義務(869条、644条)を負う。そこで、成年被後見人保護と取引安全との調和を図る必要がある。
 したがって、無権代理人であった後見人による追認拒絶が信義則(1条2項)に反するか否かは、契約締結に至る経緯、契約内容の合理性、契約相手方の制限行為能力に関する認識等の諸般の事情を考慮し、追認した場合に成年被後見人が被る経済的な不利益と、追認拒絶により相手方が被る経済的な不利益とを比較して判断する。

(3) 本件特約の内容は、損害賠償金を3000万円とするものである。一方で、Aは乙建物をCに1500万円で売却していることからすると、乙建物の客観的価値は1500万円程度であったといえ、3000万円という損害賠償額は、乙建物の客観的価値の2倍にもなる、著しく高額で不合理なものといえる。そうすると、Yの財産を守るべき後見人Aとしては、本件特約を追認することは善管注意義務(869条、644条)に反することになりかねない。
 また、XはY本人の判断能力が不十分であることを認識していたか、少なくとも容易に認識できたはずであったことから、過失が認められる。そのため、Xの保護の必要性は相対的に低いといえる。
 加えて、Xは、Yに対して、乙建物賃借権の負担を免れることによってYが得た乙建物の賃借権評価額に相当する利益について、不当利得返還請求(703条)できる。また、Aに対して、無権代理人の責任(117条)を追及して、損害賠償請求でき、救済手段が残されている。
 これらのことからすると、Yの保護の必要性は、Xの保護の必要性に比して高いといえ、後見人Aによる本件予約の追認拒絶は信義則(1条2項)に反しない。

(4) 以上より、Aによる追認拒絶は有効であり、本件予約および本件特約の効果はYに帰属しない。

 4 よって、XのYに対する3000万円の損害賠償請求は認められない。

以上

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