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【参考答案】
第1 設問前段部分について
1 産業廃棄物処理施設設置許可処分は、専門的な知識経験に基づく判断を要する処分であり、行政庁に裁量権が認められる。もっとも、重大な事実誤認や判断過程の不合理により、裁量権の逸脱濫用が認められる場合には、当該処分は違法となる(行政事件訴訟法30条)。
では、かかる裁量処分の取消事由を基礎付ける事実について、いずれの当事者が主張・立証責任を負うかが明文上明らかでなく、問題となる。
2 行政処分の取消訴訟における主張・立証責任の分配について明文規定はないが、行政事件訴訟法7条により民事訴訟の原則である法律要件分類説が妥当すると解される。したがって、処分の取消しという法効果を主張する原告が、その権利発生要件たる取消事由、すなわち裁量権の逸脱・濫用(行政事件訴訟法30条)について主張・立証責任を負う。
また、「裁量権の逸脱・濫用」は法的な評価を伴う規範的要件であるから、原告は、かかる評価を基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)を主張・立証しなければならないと解する。
3 本件のような専門技術的裁量処分においては、用いられた具体的審査基準に不合理な点があること、あるいは、専門委員会の調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤・欠落があり、行政庁がこれに依拠して処分を行ったことのいずれかに該当する具体的事実を、評価根拠事実として、原告Xは、主張・立証しなければならない。
第2 設問後段部分について
1 第1の通り、Xは、裁量権の逸脱・濫用を基礎付ける評価根拠事実について主張・立証責任を負うものの、当該審査に関する資料等の多くは行政庁側に偏在しており、専門知識を有しないXがこれを主張・立証することは極めて困難である。
そこで、本来主張・立証責任を負わないYに対して、事案解明義務を課すことができるかが問題となる。
2 事案解明義務に関する明文規定はないものの、民事訴訟(行政事件訴訟法7条により準用)における当事者は、真実に基づく裁判とそれによる権利保護を可能にするため、公平の観点から、訴訟法上の一般的な義務として事案解明義務を負う場合があると解する。
具体的には、①主張・立証責任を負う当事者が事件の事実関係から隔絶されており、②その当事者が自己の主張につき可能な範囲で具体的な手がかりを示し、③相手方当事者に事案解明を期待することが可能であり、かつ、④事実関係から隔絶されていることについて主張・立証責任を負う当事者に非難可能性がない場合には、相手方当事者に事案解明義務が認められる。
そして、相手方が正当な理由なくかかる義務に違反し、具体的な主張・立証を尽くさない場合には、公平の観点から、要証事実が真実であると事実上推認されると解すべきである。
3 Xら周辺住民は行政庁での審査から許可処分に至る一連の事実経過の外に置かれており、判断の不合理性を基礎付ける事実関係から隔絶されている(要件①充足)。
このことにXらに非難可能性はない(要件④充足)。
他方、審査に要した資料を保持し専門家を擁しているYに対し、自らの判断が不合理でなかったことを基礎付ける主張・立証をさせることは十分に可能であり、期待可能性もある(要件③充足)。
したがって、XがYの判断の不合理さを基礎付ける具体的な手がかりを示した場合には(要件②充足の場合)、Yは処分が違法でなかったことを相当の根拠、資料に基づき具体的に主張・立証する事案解明義務を負う。
4 よって、Xが上記要件を満たす範囲で具体的な手がかりを示した場合には、Yに対し、処分が違法でなかったことを主張・立証させる義務を課すことができる。
以上

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