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【参考答案】
1 Yの代理人Aは、Xの主張する「2023年8月10日に工事を完成させてYに引き渡した」との事実を認める陳述をしている。当該事実は、請負契約に基づく報酬支払請求権の主要事実であり、Yにとって不利益な事実である。また、相手方Xの主張と一致する。したがって、Aの陳述は、裁判上の自白に当たる。
裁判上の自白が成立する以上、当該事実には不要証効が生じるとともに、相手方の信頼保護の観点等から、不可撤回効が生じるのが原則である。そこで、例外的にYによる本件自白の撤回が認められないか、その要件が問題となる。
2 この点、裁判上の自白が成立する場合であっても、①相手方の同意がある場合、または②刑事上罰すべき他人の行為により自白がなされた場合(民事訴訟法338条1項5号参照)には、例外的に撤回が許される。これらに加えて、③自白の内容が真実に反し、かつ、自白が錯誤に基づくことが証明された場合には、撤回が認められると解する。なぜなら、不可撤回効の根拠は、証明不要に対する相手方の信頼保護と自白当事者の自己責任、および真実の蓋然性にあるところ、真実に反する自白を錯誤によりしてしまった場合にまで拘束力を認める必要はないからである。
なお、錯誤の証明は困難であるため、反真実の証明がなされれば、特段の事情がない限り、当該自白は錯誤に基づくものと推定されると解するのが相当である
3 本件において、Yは、Xに依頼した水周りの部分のうち、洗面所の工事が未完成であり、未だ引渡しを受けていない旨を主張している。仮に、この事実が立証されれば、Aによる「2023年8月10日に工事を完成させてYに引き渡した」との自白は客観的真実に反することになる。したがって、Yとしては、洗面所の工事状況や未引渡しの事実を裏付ける証拠を提出し、反真実の証明を行う必要がある。
上記の通り、Yが反真実の証明に成功した場合には、特段の事情がない限り、Aは思い違いにより完成・引渡し済という反真実の陳述をしたもの、すなわち錯誤に基づく自白であったと推認される。
この点、Aは法律の専門家である弁護士であることから、事実調査において過失があった可能性も否定できない。しかし、錯誤に陥ったことについて過失があったとしても自白の撤回は妨げられないため、Aの過失の有無にかかわらず、錯誤の要件は満たされる。
4 以上より、Yは、工事が未完成であり引渡しを受けていない事実を主張・立証することにより、本件自白を撤回することができる。
以上

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