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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題66 高価品の紛失に関するホテルの責任

目次

 

【参考答案】

第1 小問(1)について

1 Xは、Yに対し、商法(以下法令名省略)596条1項に基づき、寄託物の滅失による損害賠償請求として、本件自動車の時価350万円および本件カメラの時価20万円の合計370万円の支払いを求めることが考えられる。

2 その要件は、①「場屋営業者」であること、②客からの「寄託」を受けた物品であること、③受寄物が滅失又は損傷したこと、④損害、⑤③と④の間の因果関係である。

 3(1)ア 「場屋」とは、客の来集に適する物的・人的施設を備えてこれを利用させる営業をいう(502条7号)。

   イ Yが経営する甲ホテルは、宿泊客の来集を目的とし、客室、駐車場等及び従業員等を備えた旅店であり、場屋に該当する。したがって、甲ホテルを経営するYは「場屋営業者」に当たる(要件①充足)。

  (2)ア 寄託契約は、受寄者が寄託者の委託に基づき物品の保管を承諾することにより成立する(民法657条)。ここにいう「保管」とは、単に物を置く場所を提供することではなく、受寄者において物品を支配下に置いて滅失・損傷を防ぎ、現状維持の方途を講じることをいう。

   イ 一般に、駐車場の利用契約は、場所の提供にとどまるものであり、寄託契約には該当しないのが原則である。
 もっとも、本件では、甲ホテル入口従業員Aが、「本件駐車場が空いたときに、本件自動車を本件駐車場まで移動させますので鍵を預からせてもらえますか」と申し出ており、Yの従業員において本件自動車を支配下に置き管理する意思を表明している。そして、Xは本件自動車のスペアキーを受付従業員Bに預け、Bはこれを受領し、Xの部屋番号・名前・自動車のナンバーを控えた上で受付の所定位置に保管している。また、本件駐車場は甲ホテル内に存する施設である。これらの事情を総合すると、Yの従業員は、単に駐車場所を提供するにとどまらず、本件自動車を自らの支配下に置き、管理する義務を引き受けたと評価できる。
 したがって、本件自動車についてXとYの間に寄託契約が成立したといえる(要件②充足)。

   ウ 加えて、本件カメラは本件自動車のトランク内に置かれていたものであり、Xが本件カメラを個別にYに寄託する旨の合意をしたものではない。しかし、自動車のトランク内に物品が置かれていることは社会通念上通常予想し得ることであり、自動車を寄託した場合、その内容物も含めて寄託されたと解するのが相当である。したがって、本件カメラについても寄託の対象に含まれると解する。

  (3) 本件自動車は、2023年9月26日午前1時頃までに甲ホテル玄関前部分から盗難にあい、滅失した(要件③充足)。これにより、Xは本件自動車の時価350万円及び本件カメラの時価20万円相当の損害を被った(要件④充足)。本件盗難と当該損害の間に因果関係があることは明らかである(要件⑤充足)。
 したがって、596条1項に基づく損害賠償責任の要件を充足する。

第2 小問(2)について

1 Yは抗弁として、不可抗力であったこと(596条1項但書)、免責掲示、高価品の明告義務違反(597条)を主張することが考えられる。

 2(1) まず、Yは、本件盗難が不可抗力によるものであるとして、596条1項但書に基づく免責を主張することが考えられる。
 そこで、いかなる場合に「不可抗力」といえるかが問題となる。

  (2) 「不可抗力」とは、事業外部から発生した出来事で、通常必要と認められる予防方法を講じてもなお防止できない危害をいう。

  (3) 本件盗難は、第三者による窃盗行為であり、ホテルとしては適切な監視体制や施錠管理等を行うことにより防止し得るものであった。一方、Yの従業員Aが本件自動車の鍵を預かりながら、甲ホテル玄関前という施錠されていない場所に本件自動車を放置し、少なくとも9月25日午後9時頃から翌26日午前1時頃までの間、適切な監視を行わなかったと推認される。
 したがって、通常必要と認められる予防方法を講じてもなお防止できなかったとはいえず、本件盗難が不可抗力によるものとは認められない。したがって、Yの不可抗力の抗弁は認められない。

 3(1) 次に、Yは、甲ホテル受付に「当ホテル内及び本件駐車場内での盗難・事故については一切責任を負いません」との掲示をしており、Xもこれを確認していたことから、Yは免責される旨を主張することが考えられる。

  (2) この点、596条3項は、場屋の主人が寄託を受けた物品について責任を負わない旨の告示をしたときであっても、その責任を免れることができない旨を規定する。その趣旨は、場屋営業における客の保護を図るため、場屋営業者の一方的な免責表示による責任の回避を認めない点にある。

  (3) 本件掲示は、まさに場屋主人であるYが盗難について一切責任を負わない旨の告示であり、596条3項により、かかる掲示によってYは免責されない。
 したがって、Yの免責掲示の抗弁も認められない。

 4(1) 最後に、Yは、本件カメラに関し、597条に基づく高価品免責の抗弁を主張することが考えられる。
 すなわち、Xは本件カメラを寄託するに際し、その種類及び価額をYに明告しておらず、A・Bともに本件カメラの存在に気づいていなかったのであるから、Yは本件カメラの滅失について損害賠償責任を負わないとの主張である。

  (2) 597条は、客が場屋の主人に貨幣、有価証券その他の高価品を寄託した場合において、客がその種類及び価額を明告しなかったときは、場屋の主人は、その物品の滅失又は毀損によって生じた損害を賠償する責任を負わない旨を定める。
 同条の趣旨は、高価品の寄託につき種類及び価額の明告を求めることにより、場屋主人に対し、寄託を受けるか否かも含め、相応の注意を払う機会を与える点にある。
 そこで、「高価品」とは、容積又は重量の割に著しく高価なものをいい、容積・重量ともに巨大であるか、又はその高価なことが一見して明瞭であるものは含まれないと解する。

  (3)ア 本件自動車は、容積・重量ともに巨大であり、かつ、その高価なことも外観上一目で認識できるものであるから、597条にいう「高価品」には該当しない。
 したがって、Yは本件自動車について高価品免責の抗弁を主張することはできない。

   イ 本件カメラは、時価20万円の高級カメラであり、容積・重量は自動車のトランク内に収容できる程度の大きさにすぎないにもかかわらず、その価額は著しく高いものである。したがって、本件カメラは「容積又は重量の割に著しく高価なもの」に該当し、597条にいう「高価品」に当たる。
 そして、Xは、本件カメラの寄託に際し、その種類及び価額をYに対して明告していない。また、A・Bともに本件カメラの存在に気づいていなかった。
 したがって、本件カメラについては、高価品免責の抗弁の要件を充足する。

 5(1) そこで、Xは、仮に本件カメラが高価品に該当し、明告がなかったとしても、Yが悪意又は重過失である場合には、597条による免責は認められないとの再抗弁を主張することが考えられる。
 もっとも、597条には、運送人の高価品免責(577条2項)とは異なり、悪意又は重過失がある場合には免責されない旨の例外規定が置かれていないことから、場屋営業者に悪意又は重過失がある場合に高価品免責が排除されるかが問題となる。

  (2) この点、場屋営業に故意又は重大な過失がある場合においてまで責任の限定を認めることは、信義則に反し、公平の理念に悖る。そこで、場屋主人に悪意又は重大な過失がある場合にまで、客が明告義務を怠ったことのみをもって場屋主人を免責することは、信義則(民法1条2項)に照らし許されないと解すべきである。

  (3) 本件において、Yの従業員Aは、Xから本件自動車のスペアキーを預かり、本件自動車及びその内容物を管理する義務を負っていたにもかかわらず、甲ホテル玄関前という外部に開放された場所に本件自動車を長時間放置し、その間十分な監視を行わず、本件盗難を招いている。このような管理態様は、受寄者としての基本的な注意義務を著しく欠くものであり、重大な過失に当たると評価し得る。
 もっとも、本件カメラの存在にA・Bとも気づいていなかった以上、本件カメラの滅失についてYに悪意があるとはいえない。
 しかし、自動車のトランク内に相応の価値を有する物品が積載されていることは社会通念上十分に予見し得ることであり、鍵を預かって自動車全体の管理を引き受けた以上、その内容物の保全についても相応の注意義務を負うと考えるべきである。そうであれば、上述のような杜撰な管理態様は、本件カメラについても重大な過失に基づく管理義務の懈怠と評価し得る。
 したがって、本件カメラについてもYの重過失が認められるため、597条による高価品免責の主張は排斥される。

6 以上より、Yの抗弁はいずれも認められず、Xの寄託物の滅失による損害賠償請求は、370万円全額、認められる。

以上

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