参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題65 運送人の責任制限約款

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【参考答案】

第1 XのYに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権について

 1(1) Xは、運送品が到達地に到着した後、荷送人Aが運送人Yに対して有する運送契約上の権利を取得する(商法(以下法令名省略)581条1項)。そこで、XはYに対し、運送品の紛失による債務不履行に基づく400万円の損害賠償請求(民法415条1項)をすることが考えられる。

  (2) これに対しYは、次の2点を主張して反論することが考えられる。本件CD-ROM等は「高価品」にあたるところ、Aは送り状の価格欄を空欄にしており、その種類および価額を通知していないため、Yは損害賠償の責任を負わない(577条1項)。仮に、上記主張が認められないとしても、本件約款に基づき、損害賠償額の上限は30万円であるとの主張である。

 2(1) 上記Yの反論に対し、Xは、本件約款には「当店の故意又は重大な過失によって……生じたときは、一切の損害を賠償します」との規定がある(本件約款25条6項)。また、高価品免責についても、運送人の「故意又は重大な過失」によって運送品の滅失等が生じた場合には、運送人は免責されない(577条2項1号)。
 そこで、本件において、「重大な過失」が認められるかが問題となる。

  (2) 「重大な過失」とは、わずかな注意を払えば容易に結果を予見し、回避できたにもかかわらず漫然と見過ごしたような、故意と同視し得る著しい注意義務違反をいうと解する。

3 本件において、Yの履行補助者であるBは、置き配の特約がないにもかかわらず、本件約款やY社の業務規定に反して、本件CD-ROM等を事務所ドア前の階段の上に置いたまま帰店している。この点において、Bに運送人としての注意義務違反があったことは否めない。
 しかし、Bが荷物を置いた場所は、道路に面したシャッターの内側にあるガレージの奥であり、さらにドアの前には棚が置かれていて道路の通行人からは隠れて見えない位置であった。また、送り状の価格欄は空欄であったため、Bが本件荷物を400万円もの価値がある高価品であると認識することは困難であったといえる。
 したがって、Bの行為は軽率な契約違反ではあるものの、結果の発生を容易に予見しながら漫然と見過ごしたような、故意と同視し得る著しい注意義務の欠如とまでは評価できない。

4 よって、Yに重大な過失は認められず、Yの高価品免責の主張が認められる。したがって、XのYに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は認められない。

第2 XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求権について

 1(1) Xは、本件CD-ROM等の所有権を侵害されたとして、Yに対し不法行為(民法709条)に基づく400万円の損害賠償請求をすることが考えられる。

  (2) これに対しYは、不法行為による請求であっても高価品免責(587条、577条1項)および本件約款の責任限度額規定が適用されると反論する。

 2(1) この点、587条により、不法行為による損害賠償責任についても高価品免責の規定である577条が準用される。

  (2) また、宅配便は、低額な運賃で大量の小口荷物を迅速に配送するシステムであり、故意又は重過失がない限り運送人の賠償額を限定することは、制度の運営上合理的である。そうだとすれば、不法行為責任についても責任限度額が適用されると解することが当事者の合理的意思に合致し、責任制限の趣旨を全うすることができる。
 したがって、荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、不法行為請求であっても約款の責任限度額を超えて運送人に損害賠償を求めることは許されないと解する。

3 本件において、XはAに対して文書化作業を依頼しており、完成品が宅配便で返送されてくることを当然に認容していたといえる。したがって、Xの不法行為請求にも本件約款の責任制限および高価品免責が適用される。
 そして、前述の通りYには重大な過失は認められないため、これらの免責および責任制限の適用を排除することはできない(587条、577条2項1号)。

4 よって、本件荷物は高価品にあたるものの種類・価額の明告がなく、かつYに重過失もないため、587条、577条1項により、不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。

以上

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