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参考答案 Law Practice 民事訴訟法〔第5版〕 問題24 訴え取下げの合意

目次

 

【参考答案】

第1 設問前段部分について

1 裁判所が、Yの主張する和解契約の成立およびYの示談金の支払の事実が認められると判断する場合、裁判所はいかなる判決をなすべきか。
 この点、民事訴訟法には、訴訟外における訴え取下げの合意の効力や、その不履行時の処理について明文の規定がない。 そこで、かかる合意の有効性、および合意が有効であるとして、いかなる訴訟上の効果が生ずるかが問題となる。

 2(1) 訴え取下げ合意の有効性について、民事訴訟法には明文の規定がないが、処分権主義(246条)や弁論主義の妥当する事項については、当事者に処分権限が認められている。したがって、①当事者が自由に処分しうる権利関係を対象とし、かつ、②合意の効果が明確で当事者に予測可能性がある場合には、原則として有効であると解する。

  (2) 本件訴訟の訴訟物は本件家屋の所有権確認請求権等であり、私的自治の原則が妥当する財産権上の紛争に関するものであるから、当事者が自由に処分しうる事項といえる(①充足)。
 また、本件合意は、Yが解決金を支払う代わりにXが訴えを取下げるという和解契約の一部としてなされたものである。訴えの取下げという行為は、訴訟係属を遡及的に消滅させる(262条1項)という訴訟法上明確な効果を伴うものであり、Xにおいてその効果によって生じる紛争解決の機会の喪失等の不利益は十分に予測可能であったといえる(②充足)。
 したがって、本件における訴え取下げの合意は有効である。

 3(1) 次に、合意が有効である場合の法的性質および訴訟上の効果について、訴訟上の合意に直接的な訴訟法上の効果を認める見解もある。しかし、現行法上、訴訟行為の要件・効果は法定されていることからすれば、明文なき合意に直接的な訴訟法上の効果を認めることは慎重であるべきである。
 そこで、訴訟上の合意はあくまで私法上の契約であり、合意内容通りの作為・不作為義務を生じさせるものにとどまると解する。
 もっとも、原告がこの合意上の義務に違反して訴えを提起・維持し、被告がその合意の存在を抗弁として主張した場合には、信義則(2条)上許されず、もはや審判による紛争解決の必要性を欠くに至ったといえる。したがって、裁判所は、当該訴えを権利保護の利益を欠く不適法なものとして、却下すべきである。

  (2) 前述の通り、XとYの間では本件訴訟を取下げる旨の有効な合意が成立しており、Yはその合意に基づき示談金を支払っている。にもかかわらず、Xは訴えを取下げず、本件訴訟を維持している。これに対し、Yは口頭弁論において上記合意の成立および履行の事実を主張して、Xの請求を争っている。 そうすると、Xによる本件訴訟の維持は、自ら締結した合意に反する不誠実な挙動といえ、信義則に反する。
 したがって、本件訴えは権利保護の利益を欠き、不適法である。

4 よって、裁判所は本件訴えを却下する旨の判決をすべきである。

第2 設問後段部分について

1 裁判所が、Yの強迫により取下書が作成された事実を認める場合、いかなる判断をすべきか。訴訟行為に民法上の意思表示の瑕疵に関する規定(民法96条等)が適用されるかが問題となる。

2 訴訟行為は、手続の積み重ねによって進行するものであり、その効力が内心的効果意思の有無によって左右されるとすれば、手続の安定性や明確性を著しく害する。したがって、訴訟行為には原則として民法の意思表示に関する規定の適用はなく、表示通りの効力を生ずると解する。
 もっとも、当該行為が刑事上罰すべき他人の行為によってなされた場合など、当事者の帰責性が全くないにもかかわらず、常に表示通りの効力を認めることは、著しく正義に反し妥当でない。そこで、民事訴訟法338条1項5号の再審事由があるような極めて重大な瑕疵がある場合には、同条の類推適用により、例外的に訴訟行為の無効を主張しうると解する。この場合、手続の安定を害することは少なく、他方で被害者救済の必要性が高いからである。
 なお、当該手続が未だ終了していない場合には、再審の訴えによるまでもなく、当該手続の中で無効を主張・判断できる。

3 本件では、Xの訴え取下げは、Yの脅迫によってなされたものである。かかる「脅迫」は、強要罪等の「刑事上罰すべき他人の行為」(338条1項5号)に該当する重大な違法行為である。
 したがって、本件訴え取下げには338条1項5号の再審事由に準ずる瑕疵があり、同条の類推適用により無効となる。

4 よって、本件訴訟の係属は消滅していないから、裁判所は、取下げが無効である旨を判断した上で、本案の審理を続行すべきである。

以上

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