はじめに
本記事は、法学部の試験等において答案を書く際に必要となる「基礎的な作法」や、「暗黙知」とされている事項についてまとめたものです。
法学部の授業では、民法や刑法といった「法律の中身(=解釈論)」については詳しく教わります。一方で、「試験でどう書けばいいのか(=答案作成方法)」については、おそらく、1年生の「法学入門」などの授業の序盤において扱われているのではないかと思います。
しかし、多くの学生にとって、それは本格的な法律を学ぶ前の話です。そのため、「法的三段論法」というフレーズだけが、実体を伴わないまま記憶の片隅に残っている状態ではないでしょうか(少なくとも、私はそうでした……)。
その結果、いざ答案用紙を目の前にすると、「何から書き始めたらいいのか?」で迷ってしまい、筆が止まってしまう。「何か書かないと」と焦り、結局、自己流で「これで本当に合ってるのかな……?」と半信半疑のまま書き進めてしまう。
そんな書き方の迷子状態だった私が、これまでの学習の中で「この通りになぞれば、私にもちゃんと法律の答案が書けるかも!」と思えたポイントを、今回は総論としてまとめてみました。難しい理論を覚える前に、まずは、ここを整えるだけで、格段に読みやすくなるという実践的なコツをお伝えしたいと思います。これを知っているだけで、答案を書く際の心理的なハードルがぐっと下がるはずです。
以下では、まず、概観となるチェックリストを確認した上で、必要に応じて、個別・具体的に内容を一つ一つ掘り下げていきたいと思います。
チェックリスト
第1 形式面
□ 筆記用具:黒のボールペンか万年筆(※CBT導入前の司法試験の運用。各試験の指示を要確認。フリクション等の消せるボールペンは、改ざん防止の観点から不可)
□ 訂正方法:訂正箇所は「横二重線」で消去。例:訂正箇所
※1 数行をまとめて消す時は「\(斜線)」を引く。
※2 挿入の際は、以下のように挿入箇所が分かるように書く(「Gに対し、」の部分)。

□ ナンバリング:第1→1→(1)→ア→(ア)の順。
□ 文体:常体(~である。~と解する)で書く。
□ 締め:答案全体の最後に右詰めで「以上」と記載。※設問が複数ある場合、各設問毎には「以上」と書かない。
□ 特定答案となる記載の禁止:不必要な記号等、客観的に個人を特定させるような書き込みをしていないか。
第2 論理面
□ 法的三段論法を用いて書いているか:(問題提起)→規範定立→当てはめ→結論
□ 法令名の引用:「民法(以下「法」という。)」など定義したか、定義しないまま「刑訴法」など省略せずに書いていないか。
□ 条文の特定:○条だけでなく、「〇条〇項本文」等、正確に引いているか。
具体的内容と解説
1 ナンバリングについて
ナンバリングの順序は、前述の通り、第1、第2……→1、2……→(1)、(2)……→ア、イ……→(ア)、(イ)……の順で用います。
おそらく、根拠となっているのは、「公用文作成の要領〔公用文改善の趣旨徹底について〕(昭和27年4月4日 内閣閣甲第16号依命通知)」かと思います。もっとも、根拠については正確ではない点、ご容赦ください。
大切なのは、この順序が「共通のルール」として定着しているという点です。この階層を守ることで、読み手に当該ブロックでは何を論じているのかが明確になり、読み手は迷子にならずにあなたの論理を追うことができるようになります。
なお、(ア)以下については、いかなる記号を用いるかは不明確です。もっとも、(ア) より下の階層が必要となる場合は、(ア)より下の階層が必要となる場合は、構成そのものに問題があると考えるのが健全かもしれません。
【ポイント】
このうち、最上位の「第1」「第2」は、下の階層とは少し違う「検討対象の大枠を示す」用途で用いられているように思います。よくある使い方の具体例としては、以下の2パターンを覚えておくと便利です。
・問いごとに区切る場合
問題文に「(1)○○について答えなさい」「(2)××について答えなさい」と、複数の事項について独立して問われている場合、それぞれに対応させて「第1 設問(1)について」、「第2 設問(2)について」と大きな章立てとして用います。
・検討対象(人や請求)ごとに区切る場合
刑法で「Aの罪責を論じなさい」「Bの罪責を論じなさい」という場合や、請求が複数ある場合に、「第1 Aの罪責について」「第2 Bの罪責について」と、検討の対象を明示する用途として用います。
【補足】 インデントについて
ナンバリングに関連して、改行した後の書き出し位置(インデント)についても触れておきます。これには大きく分けて2つのスタイルがあります。
・スタイル①(判決文形式):見出しを振った場合でも、常に左端から書き出す。
・スタイル②(行政文書形式):階層が深くなるにつれて、書き出し位置を右にずらしていく(=インデント(字下げ)を行う)。
いずれによるべきかは、答案用紙の紙面の関係上、原則は、スタイル①によるべきだと考えます。もっとも、私は、刑事訴訟法の先生にスタイル②のインデントを付した形式で書くよう指導を受けた経験もあります。私の掲載している答案も紙面等の制限がないため、見やすいようスタイル②を採用しています。
結論としては、「基本はスペースを節約できるスタイル①で書きつつ、先生や科目ごとに指示がある場合はそれに従う」という柔軟な姿勢で良いのではないでしょうか。
なお、この点は岡山大学法科大学院公法系講座編著『憲法 事例問題起案の基礎』1頁(岡山大学出版会,2018)においても言及されています。
上記書籍は、私自身も憲法の答案を書く際に参考にしている一冊です。私的な推しポイントは、大きく2つあります。
・憲法答案における「合格ライン」の書き方が分かる点
「他の科目の足を引っ張らないレベルの答案」を目標に設定しており、「最低限守るべき合格ラインの書き方」を明確にしてくれるため、初学者段階から参照しやすい。また、司法試験考査委員を務められている田近 肇先生が執筆陣に参加されている点で、受験生としても安心感がある。
・安価かつ、薄いため参照が容易な点
専門書としては手頃な価格(1,324円)で、かつ100頁程度にまとまっているため、学習初期から、直前期の確認用として見直すのにも非常に重宝しています。
2 「締め」について
答案の最後には、必ず右詰めで「以上」と記載します。
私個人としては、記載しなくとも直接の採点対象ではないため、実質的な問題はないと考えています。しかし、先生(採点者)によっては、「以上」の記載がない場合は、途中答案とみなすといったことを明言される先生もいらっしゃいました。
そのため、途中答案とみなされて不利益を受けないためにも、最後には必ず「以上」と書き添えるようにしましょう。
3 法的三段論法について
法律の答案において、内容以外で一番重要といえるのが、法的三段論法で答案を書いているかです。
法的三段論法が重要である理由は、採点者の視点に立ってみるとよく分かると思います。
試験の採点者は、限られた時間の中で何百通という膨大な答案を読みます。そのため、採点基準も、基本的に法的三段論法の流れに沿って作られることになります。そうすると、法的三段論法を守っていない答案は、採点者に何について論じているのかという疑問を抱かせ、より精読を求めることになります。
答案を「精読される」というのは、一見良いことのように思えるかもしれません。しかし、試験においては逆効果です。精読されればされるほど、論理の飛躍や知識の不正確さといった「粗」が目立ちやすくなり、結果として思わぬ減点を受けたり、裁量点を失ったりすることに繋がります。さらに言えば、「法律論文における最低限の作法すら守れていないということは、正しい理解ができていないのではないか?」と、厳しい心証を抱かれかねません。
また、法的三段論法は採点者のためだけのものではありません。いざ白紙の答案用紙を前にしたとき、私たち受験生にとって「答案で何からどう書いたらよいのか」を示す指針にもなります。
以上の点から、法律の答案は必ず法的三段論法に基づいて書くことが極めて重要といえます。
具体的には、以下のような「(問題提起)→規範定立→当てはめ→結論」の順で論理を展開します。
・問題提起
厳密に言えば「問題提起」は、法的三段論法そのものには含まれません。しかし、答案においては極めて重要です。なぜなら、これがないといきなり規範定立が始まることになり、論点主義と判断されやすくなるからです。
なお、私は予備校の講義で、問題提起は問題文のオウム返し(=引き写し)を書けばよいと習いました。これは、一面では正解であるが、間違いでもあると考えています。
確かに、問題文の設問自体が「〇〇という行為に××罪が成立するか」といったように、そのまま問題提起の内容になっているような「親切な問題」であれば、引き写しで足ります。しかし、多くの問題はそのような設問になっていません。その場合、問題文の具体的な事情から、検討を求められる条文(要件)を特定し、なぜ、条文の解釈が必要となるか理由を説明する必要があり、これが問題提起となります。
・規範定立
問題提起で問題とした条文(文言)について、解釈を示し、「このような場合は要件を充足する」という一般的な判断基準を提示します。あくまで一般的なルールを示す場であり、個別・具体的な事実は混ぜてはいけない点に注意が必要です。
・当てはめ
問題文の事実を提示し、それがどういう意味を持つのかを評価して、先ほど定立した「規範」を充足するのか、あるいは充足しないのかを示します。
・結論
最終的に、問われている事項についての解答を示します。基本的には、当てはめの結果、要件を充足する(しない)→ゆえに法的効果が発生する(しない)という流れになります。
4 法令名の引用と条文の特定について
まず、法令名について、いきなり「民訴」「行訴法」といった略称を使うのは避けましょう。最初に登場した際に「行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)」と定義してから、略称を用いるのが作法です。個別法が登場する行政法では用いにくいですが、「民法(以下法令名省略)○条」と書くと、記載する文字数を削減できます。
次に、条文の特定について、単に「〇条」と書くだけでなく、「項」や「号」、さらには「本文」「柱書」「但書」「前段」「後段」まで、可能な限り正確に特定するよう心掛けてください。
条文が大切なのは、条文の指摘そのものに配点がある可能性が極めて高いからです。司法試験や予備試験のように、複数名の採点委員で採点する試験では、採点者によって評価に差が生まれないよう、客観的で明確な採点基準を設ける必要があります。その際、受験生ごとの表現力によってブレが生じやすい論述部分よりも、「〇条〇項という正しい条文番号が書かれているか」という誰が見ても明らかな客観的事実は、点数を割り振る基準として非常に設定しやすいと推察できます。
つまり、正確に条文を引くという基本作法を徹底するだけで、確実にベースとなる点数を積み重ねることができるため重要となります。
法律答案の作法について、私から強くおすすめしたい書籍がもう一冊あります。
本書は刑事訴訟法の演習書ですが、本編の設問に入る前の「設問を解く前に」という序論部分が非常に秀逸です。この本は、私が学部2年生の頃に、民事訴訟法の先生に答案の書き方について質問した際、「すごく参考になるから『設問を解く前に』だけでも読んでみるといいよ」と勧められたものです。刑事訴訟法のみならず、全科目に共通する「法律答案の書き方」について、学者の視点から極めて実践的かつ分かりやすく解説されています。
刑事訴訟法の学習経験がなくても該当部分は理解でき、わずか10頁程度です。まずは大学の図書館などで、この部分だけでも読んでみることを強くお勧めします。
なお、刑事訴訟法の演習書としては、私の周りでほぼ全員が持っていると言っても過言ではないほどの超定番書です。今後、予備試験や司法試験の受験を考えている方は、この機会に買ってしまうのも大いにありだと思います。



コメント