参考答案 Law Practice 民法Ⅰ総則・物権編〔第5版〕 問題11 民法94条2項類推適用とその限界① 

目次

 

【関係図】

aw practice 民法Ⅰ 問題11関係図

 

【答案構成】

1(1) kg(請求原因):所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消請求
 (2) 規範定立(要件①・②)
 (3) 当てはめ
2(1)ア E(抗弁):所有権喪失の抗弁(1-(2)要件①を否定)
  イ 前提問題(なぜ、94条2項直接適用ができないか。)

 (2) 規範定立(要件(a)~(c))
 (3)ア~エ 当てはめ

 (4) 論点:登記の要否
3 結論

 

【参考答案】

1(1) XはYに対し、所有権(民法(以下、法令名省略)206条)に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消請求を主張するものと考える。

(2) 上記請求の要件として、①Xが所有権を有していること、②Y名義の所有権移転登記の存在を要する。

(3) 本件では、Xは2017年5月以前において甲不動産を所有しており、X・A間の所有権移転登記も移転原因の存在しない不実のものであるから、いまだXが甲不動産の所有権を有しているといえる(要件①充足)。そして、2022年4月、YはAから甲不動産の所有権移転登記を受けている(要件②充足)。

したがって、上記物権的妨害排除請求権の要件充足が認められるとも思われる。

2(1)ア 上記請求に対し、Yは、所有権喪失の抗弁をするものと考える。具体的には、94条2項類推適用により、Xは善意の第三者であるYに虚偽の外観たるX・A間の不実登記の無効を対抗できない結果、Xは甲不動産の所有権を喪失し、要件①を充足しないとの主張である。

イ 前提として、X・A間の甲不動産所有権移転登記は、AがXに無断で作出したものであるから、X・A間に「相手方と通じてした虚偽の意思表示」(94条1項)が認められず、94条2項を直接適用することはできない。

(2) もっとも、94条2項の趣旨は、虚偽の外観作出に帰責性のある者と虚偽の外観を信頼した第三者とを利益衡量し、後者を保護することで、取引安全を図る点(権利外観法理)にある。

 そこで、(a)虚偽の外観の存在、(b)虚偽の外観作出について真の権利者の帰責性、(c)第三者の虚偽の外観への正当な信頼が認められる場合には、上記趣旨が妥当し、94条2項を類推適用することができると解する。

(3)ア 本件では、甲不動産にA名義の不実登記が存在するから、虚偽の外観の存在が認められる(要件(a)充足)。

イ 上記不実登記は、AがX等の実印等を無断で持ち出し作出したものであるから、X自ら虚偽の外観を作出したわけではないものの、2018年3月以降、Xは虚偽の外観たるA名義の登記について認知しておりがら、2022年4月までの4年間という長期間放置している点において、真の権利者による黙示の承認があったといえ、自ら虚偽の外観を作出したのと同視しうる程度の帰責性が認められる(要件(b)充足)。

ウ 上記の通り、Xの帰責性が、自ら虚偽の外観を作出したのと同視しうる程度に重大であることからすれば、第三者たるYの虚偽の外観への正当な信頼とは善意であることと解する。

 Yは、Aによる「甲は5年ほど前に夫からもらった不動産であり、所有権移転登記も済ませている」という説明及びA名義の登記を信頼し、本件売買契約(555条)を締結したものであるから、善意であるといえ、正当な信頼が認められる(要件(c)充足)。

エ よって、その要件を充足するから94条2項類推適用が認められる。

(4) XとYは、前主・後主の関係に立ち、対抗関係とならないから、対抗要件としての登記(177条)は不要である。

 また、虚偽の外観作出に対する帰責性の大きいXと善意者Yとの利益衡量上、権利保護要件としての登記も要求するべきでない。

3 以上より、Yの所有権喪失の抗弁が認められるから、Xの請求は認められない。

以上

 

 

【思考プロセス】

  本問の問いは、「Xの請求は認められるか」である。そのため、まずは請求権を特定すると、XはYに対して甲のY名義所有権移転登記の抹消登記手続を求めたいとある。これは、Xの所有権がY名義登記によって妨害されているのを排除したいということであるから、所有権に基づく妨害排除請求権を選択すべきだと考える。
 

  これに対して、Yは、甲不動産の所有権は自身にあるということを主張して、Xの主張を退けたい。そのため、Xの所有権に基づく妨害排除請求権の要件である①Xが所有権を有していることを否定する所有権喪失の抗弁を主張したい。
 そこで、その法的根拠を問題文から探すと、XとAの間には通謀の事実はない(94条2項直接適用)ものの、甲不動産に虚偽の外観であるA名義登記の存在やその不実登記を知りつつあえて放置したというXの帰責性と読み取れる事実が存在する。そこで、94条2項類推適用を抗弁として主張すべきと考えられる。

 94条2項類推適用を主張するにあたり、110条が重畳適用されるかを考える必要がある。要件(c)の第三者の虚偽の外観への信頼の検討にあたり、第三者Yが「善意(事情を知らないこと)」であれば保護されるのか、それとも「善意かつ無過失(知らないことについて落ち度もないこと)」まで必要なのかが異なるためである。

表:94条2項類推適用の類型*1

類型 真の権利者の帰責性 適用条文 第三者保護要件
意思外形対応型 真の権利者がその意思で虚偽の外観を作出した場合 94条2項類推適用 善意
真の権利者が虚偽の外観を事後的に明示・黙示的に承認した場合
意思外形非対応型 真の権利者が承認した範囲を越えて虚偽の外観が作出された場合 94条2項類推適用+110条法意 善意・無過失
真の権利者による虚偽の外観作出も事後的承認もないが、虚偽の外観作出に積極関与した場合や知りながらあえて放置したのと同視し得る重大な不注意がある場合 94条2項類推適用+110条類推適用

 上記表に従うと、本問は、真の権利者であるXがAの作出した虚偽の外観を事後的に承認した場合に当たり、意思外形対応型と判断できる。そのため、本問では、110条は重畳適用されず、第三者Yは善意のみで保護される。

 加えて、94条2項類推適用の場面では、登記の要否が論点として存在するため、答案に示した理由を根拠として記載し、不要と解すると一言述べておく必要がある。

【悩みどころ】

 Yの抗弁としては、XA間における贈与契約(549条)により、Xは甲不動産の所有権を喪失し、要件①を充足しないというものも考えられる。しかし、XA間に甲不動産の贈与契約締結の事実はないことから、当然にこの抗弁は認められないため、省略している。

 より詳細な94条2項類推適用の類型*2として、「外形承認型①――存続承認型」か「外形放置型――故意放置型」のいずれの類型に該当するかの判断に迷った。今回は、故意放置型であろうと考え、記述した。いずれにしても、110条の類推による無過失は要求されないため、結論は異ならない。そのため、深入りしないこととした。

*1:意思外形非対応型の適用条文として、110条の法意と類推適用を使い分けているが、第三者保護要件として無過失を要することを根拠づけるためであり、厳密に使い分ける必要まではない。

*2:より詳細な94条2項類推適用の類型の種類については、山本敬三『民法講義Ⅰ 総則』〔第3版〕178頁等を参照。

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